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第二話
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御坂先輩は確かに美人だった。肌は雪のように白くつやがある。髪は御坂先輩の身動きするたびにさらさらと揺れ動いた。漆色に輝く絹を見ているようであった。御坂先輩を見ていると、人形のように見えた。
「片山君、紹介するよこの人は御坂さんっていうんだけど、ちなみに僕は谷崎っていうんだけどね、この部に入っているんだ。うちの部に入れば、この美人の御坂さんとも話し放題だよ?」
「いやそれでも」
「邪魔すんなよ、文豪!」
「馬鹿、山口」
「もうおまえの名前までばらしてるから、隠しても無駄だし」
「あっ、なんてことをしやがる」
「それよりも文豪、片山君が妖精を見る方法を説明してくれるってさ」
「嘘、本当に呼べるの?」
谷崎先輩が言った。
「はい」
先輩全員が僕を囲むように座った。
「教える前に、僕がこの方法を教えたら部に入部しなくてもいいと言うことを約束してください」
「え?」
「だって、妖精を見た人がオカルト研究部にいないとつまらないっていうんなら、ここにいる人たち全員が見ていれば差支えはないわけじゃないですか」
「あー、いやまあそれもあるんだけど。人数をできるだけ稼いでおきたいっていうのもあってね。なにしろ部員が足りなかったりすると廃部とか怖いし」
谷崎先輩は言った。
「そうなんですか?」
「だからさ、籍っていうか入部だけしておいてくれるだけでもありがたいんだよね。本当、たまに来てくれるぐらいとか、何ならちょっと話をしていくだけっていうのでもいいからさ」
「まあ、そういうことなら。絵さえかければそれでいいので」
「そうか!ありがとう!」
谷崎先輩は僕の手を握って頭を下げた。
「ほら、それより早く妖精を見つける方法教えてよ」
山口先輩が言った。
「はい。まず、硬貨を数枚用意します」
民俗学研究部は各々の財布を取り出した。
「十枚くらいほしいです。それで妖精の隠れていそうな場所の近くへ行くんです」
「それってどこ?」
御坂先輩が訊いた。
「うーん、どことははっきりとは言えないんですけど、姿が見えにくくて、それでいて隠れる側からしたら死角のない場所です」
「うん」
「で、あらかじめポケットに硬貨を入れておきます。それから例の場所に行って立ち止まってポケットから硬貨を出して一枚ずつ、掌へ落としていってください。落としながらこう言ってください。
「間抜けな妖精め。こうして宝を盗まれているとも知らないで。今日はついてるや」
すると妖精が宝を盗まれたと勘違いして、動揺して身動きします。つまり音のしたところにいるので、そこを探してみてください。そしたら姿だけは見られるかもしれません」
「うっそだあー」
周りの全員が笑っていた。
「いや、本当ですよ」
「いやいや、ないってそれは」
真面目に取り合ってもらえないことを知って、僕はまた失敗したと思った。
中学だった頃、妖精のことで事あるごとに質問された僕は当然、妖精の見つけ方も教えた。
ところが僕の知らないところで勝手にやって勝手に失敗する人間が続出した。妖精は賢く、巧みな隠れ方をするから見つけづらいうえ、探す方は全くの素人だから成功するはずはなかったのだ。
僕の立会いの下でさえ、確実に見つかるとも限らないのだ。
そんなことだったから、妖精に会えなかった人たちは口々に僕が嘘つきだと思った。そしてスナフキンをもじって
「ホラフキン」
などと言うあだ名をつけられたり、目立ちたがり屋というレッテルをつけられたりした。
妖精は確かにいる。しかし見つけられないものは見つけられないので、嘘つきだと言われるよりほかなかった。
僕はそういったことがあって以来、妖精について言うことはためらっていたのだ。
今回こうしたことを言ったのはここがオカルト研究部だというからだった。オカルトに興味があるというのなら、その情熱に応えてあげようと思った。また知識もあるからそれなりに理解を示してくれるとも思った。
「ないと思うなら、それでもいいです」
「いや、怒らないでよ。信じてないわけじゃないんだよ、別に。ただあまりにもおかしな方法だったからびっくりして。でもさ、本当に妖精が引っかかるの?」
谷崎先輩が訊く。
「毎回ではないですね」
「いや絶対引っかからない、それは」
山口先輩が言った。
「やっぱ、妖精のお友達は言うことが違うね」
御坂先輩は言った。
(御坂先輩にまで馬鹿にされてるのか?)
こちらはまじめに、しかもそちらを信じて説明したのに。これでは昔と同じではないか。
帰ろうか。こんなところにいても無意味だ。それにこれ以上いても恥をかくだけに決まっている。
探せということになって、見つからなかったらさらに笑われることは間違いない。このうえ恥を重ねることは我慢がならなかった。
「まあいいや、とりあえずやって見せてよ」
「しかし、どうも僕の言うことを信じておられないようですが」
「いやそんなことはないよ。やってみせてくれよ」
どうやら暇つぶしの一つとでも考えているらしい。見られなくても面白いショーが見られたということで良しとする、見られたらラッキーというわけだ。
馬鹿にしやがって。こうなれば絶対に見つけるよりほかにない。このまま恥をさらしておいてなるものか。
「わかりました。ただし、絶対に僕の言うことを聞いてください」
「ああ」
谷崎先輩は答えた。
「それじゃあついてきてください」
「片山君、紹介するよこの人は御坂さんっていうんだけど、ちなみに僕は谷崎っていうんだけどね、この部に入っているんだ。うちの部に入れば、この美人の御坂さんとも話し放題だよ?」
「いやそれでも」
「邪魔すんなよ、文豪!」
「馬鹿、山口」
「もうおまえの名前までばらしてるから、隠しても無駄だし」
「あっ、なんてことをしやがる」
「それよりも文豪、片山君が妖精を見る方法を説明してくれるってさ」
「嘘、本当に呼べるの?」
谷崎先輩が言った。
「はい」
先輩全員が僕を囲むように座った。
「教える前に、僕がこの方法を教えたら部に入部しなくてもいいと言うことを約束してください」
「え?」
「だって、妖精を見た人がオカルト研究部にいないとつまらないっていうんなら、ここにいる人たち全員が見ていれば差支えはないわけじゃないですか」
「あー、いやまあそれもあるんだけど。人数をできるだけ稼いでおきたいっていうのもあってね。なにしろ部員が足りなかったりすると廃部とか怖いし」
谷崎先輩は言った。
「そうなんですか?」
「だからさ、籍っていうか入部だけしておいてくれるだけでもありがたいんだよね。本当、たまに来てくれるぐらいとか、何ならちょっと話をしていくだけっていうのでもいいからさ」
「まあ、そういうことなら。絵さえかければそれでいいので」
「そうか!ありがとう!」
谷崎先輩は僕の手を握って頭を下げた。
「ほら、それより早く妖精を見つける方法教えてよ」
山口先輩が言った。
「はい。まず、硬貨を数枚用意します」
民俗学研究部は各々の財布を取り出した。
「十枚くらいほしいです。それで妖精の隠れていそうな場所の近くへ行くんです」
「それってどこ?」
御坂先輩が訊いた。
「うーん、どことははっきりとは言えないんですけど、姿が見えにくくて、それでいて隠れる側からしたら死角のない場所です」
「うん」
「で、あらかじめポケットに硬貨を入れておきます。それから例の場所に行って立ち止まってポケットから硬貨を出して一枚ずつ、掌へ落としていってください。落としながらこう言ってください。
「間抜けな妖精め。こうして宝を盗まれているとも知らないで。今日はついてるや」
すると妖精が宝を盗まれたと勘違いして、動揺して身動きします。つまり音のしたところにいるので、そこを探してみてください。そしたら姿だけは見られるかもしれません」
「うっそだあー」
周りの全員が笑っていた。
「いや、本当ですよ」
「いやいや、ないってそれは」
真面目に取り合ってもらえないことを知って、僕はまた失敗したと思った。
中学だった頃、妖精のことで事あるごとに質問された僕は当然、妖精の見つけ方も教えた。
ところが僕の知らないところで勝手にやって勝手に失敗する人間が続出した。妖精は賢く、巧みな隠れ方をするから見つけづらいうえ、探す方は全くの素人だから成功するはずはなかったのだ。
僕の立会いの下でさえ、確実に見つかるとも限らないのだ。
そんなことだったから、妖精に会えなかった人たちは口々に僕が嘘つきだと思った。そしてスナフキンをもじって
「ホラフキン」
などと言うあだ名をつけられたり、目立ちたがり屋というレッテルをつけられたりした。
妖精は確かにいる。しかし見つけられないものは見つけられないので、嘘つきだと言われるよりほかなかった。
僕はそういったことがあって以来、妖精について言うことはためらっていたのだ。
今回こうしたことを言ったのはここがオカルト研究部だというからだった。オカルトに興味があるというのなら、その情熱に応えてあげようと思った。また知識もあるからそれなりに理解を示してくれるとも思った。
「ないと思うなら、それでもいいです」
「いや、怒らないでよ。信じてないわけじゃないんだよ、別に。ただあまりにもおかしな方法だったからびっくりして。でもさ、本当に妖精が引っかかるの?」
谷崎先輩が訊く。
「毎回ではないですね」
「いや絶対引っかからない、それは」
山口先輩が言った。
「やっぱ、妖精のお友達は言うことが違うね」
御坂先輩は言った。
(御坂先輩にまで馬鹿にされてるのか?)
こちらはまじめに、しかもそちらを信じて説明したのに。これでは昔と同じではないか。
帰ろうか。こんなところにいても無意味だ。それにこれ以上いても恥をかくだけに決まっている。
探せということになって、見つからなかったらさらに笑われることは間違いない。このうえ恥を重ねることは我慢がならなかった。
「まあいいや、とりあえずやって見せてよ」
「しかし、どうも僕の言うことを信じておられないようですが」
「いやそんなことはないよ。やってみせてくれよ」
どうやら暇つぶしの一つとでも考えているらしい。見られなくても面白いショーが見られたということで良しとする、見られたらラッキーというわけだ。
馬鹿にしやがって。こうなれば絶対に見つけるよりほかにない。このまま恥をさらしておいてなるものか。
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「ああ」
谷崎先輩は答えた。
「それじゃあついてきてください」
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