奪い取られたもの

富山晴京

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第七話

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「御坂さんには君のこと、補習だって説明しておいたんだけどね。御坂さんがふと的を見た時に君の姿を見つけたみたいでね。もう、あの時は怖かったよ。何が怖かったっていって、御坂さんが君のいるほうを指さして、あれさぼりじゃないですか、って言った時の表情が。本当に怖くて。なんかもう、目が冷たいんだよね。それで連れ戻さなくていいんですかっていうから僕が行くって言って出てきたんだけどさ、君、部室に入って無事でいられるかな?」
「そんなに怖かったんですか?」
「うん、少なくとも二度と口きいてくれなくなるかもしれない」
「そうですか」
「まあ、とりあえず戻ろう。しかしどう言い訳する?まさか御坂さんの情報を集めてたなんて言えないし。あ、御坂さんのこと、ちゃんと聞けた?」
「はい。でもそれは後で話します。今はどう言い訳したらいいかを考えないと」
「そうだねえ。どうしようかねえ。本当、君もついてないねえ」
 部室に入った。中では三人が席に座って待っていた。
「どうして嘘をついたの?」
 御坂先輩が訊いた。
 僕はここへきてなお、未だにうまい言い訳を思いつかなかった。本当のことを話すよりほかなかった。
「それは、御坂先輩のことを坂口先輩に訊いてみたかったからです」
「だったら昼休みにでも聞けばよかったでしょ?」
「それは駄目です。御坂先輩がそばにいたかもしれませんし」
「どうして、私がそばにいちゃまずいの?私に訊かれるとまずいことでも、私が聞かれてほしくないようなことを聞きたかったの?」
「先輩には知られたくなかったんですけど、僕は」
 胸が高鳴ってしょうがなかった。僕は深呼吸をした。
「先輩のことが好きなんです」
 近衛先輩と山口先輩の、おお、という声が聞こえた。
 御坂先輩は目を見開いている。
「嘘をついてすいませんでした。でもどうしても先輩の好きな食べ物とかそういうの知りたかったし」
「もういい」
 御坂先輩は言った。
「もういいから」
 御坂先輩は座った。僕も座った。
「まあいいじゃん。別にうちの部活、さぼりとかにそんなに厳しいようなところじゃないし。うちらなんかもちょっとしたことで帰っちゃったりするし。それに嘘ついたって言っても、さぼるためとかならともかくさ、御坂チャンのためなわけじゃん?かわいいもんじゃん」
 山口先輩が御坂先輩にそう言っているのが聞こえた。
 僕はその日の部活動が何にも手がつかなかった。それよりも今後のことばかりを考えてしまってしょうがなかった。
 部活が終わってから、僕は御坂先輩に一緒に帰ろうと誘われた。僕は応じた。
 案の定、部員三名が隠れてついてきてしまったけれど、御坂先輩はそれらを見つけて、ついてこないでくださいとくぎを刺した。それからは三人もさすがについてこなくなった。
 そして三人が付いてこなくなったところで話が始まった。
「それで、告白の返事なんだけれども」
「はい」
「ごめんなさい。片山君とは付き合えない」
「わかっています」
「ごめんなさい」
「そんなことはいいんです。それよりも、先輩が泣いていた理由がわかりました」
 僕は御坂先輩を見た。御坂先輩は無表情だった。
「なんでだと思ったの?」
「先輩のお母さんを思い出していたんですよね。聞きました。お母さんが亡くなったこと。多分、お母さんとアジサイが何か関係があったりするんでしょう?」
「そうかもしれないね」
「ええ、そうだと思います。でも」
 僕は続けた。
「お母さんが死んでも、僕や先輩は死にませんよ?」
 御坂先輩はこちらを見た。
「だから?」
「先輩、何を隠しているんですか?」
「何も。大体、勘繰りすぎだって言ってるじゃん。あれは冗談だって」
「冗談ではありませんよ。先輩、覚えておいてください。人間は嘘を言うときは笑ったり、瞬きしたりするんですよ」
 先輩の顔が少し、笑みの形に歪んだ気がした。
「先輩があれを言った時、嘘の兆候は出てはいませんでしたよ?」
 先輩は何も言わなかった。
 僕は言葉をつづけた。
「先輩、お父さんに会わせてください」
「駄目」
 御坂先輩は言った。その言い方は強く、否定の速度も素早かった。ほぼ僕の言葉にかぶせて言っていた。
「じゃあ、先輩。僕と付き合ってください」
「はあ?」
 初めて、御坂先輩がきれたのを見た気がした。
 ここだ、と僕は思った。御坂先輩の両親に何かある。
「いや、どうしても先輩のお父さんに会いたくて」
「会ってどうするの?」
「先輩と付き合わせてくださいとお願いしてきます」
 御坂先輩は目を見開いて、僕を見つめていた。御坂先輩の呼吸が荒くなっていた。
「何も言わないってことはいいってことですね。じゃあこのまま行ってしまいますね」
「なんでそんなことをするの!やめて!」
「じゃあ、僕と付き合います?」
「わかった。それぐらいなんてことない」
「だから、お父さんには会わないでほしい、っていうんですか?そんなに僕とお父さんに会ってほしくないんですね」
 御坂先輩はうつむいた。
「先輩のお父さんなんですね、先輩を困らせているのは」
 御坂先輩は何も答えなかった。
「すいませんでした。困らせるようなことを言ってしまって。別に僕と付き合わなくても構わないです。ただ先輩が誰に困らされているのか知りたくてかまをかけただけなので」
「別に、私があの男にどんなことをされていたっていいでしょ?」
「どうでも良くないですよ」
「だから片山君には関係ないことだよね?どうせ何もできないくせに首を突っ込まないでくれる?変に状況をかき回されたらむしろ迷惑なんだってわかるでしょ?」
 ここまで強い物言いをされて、僕は次にいう言葉に戸惑った。
「もう私にも、私の家のことにも関わらないで」
 御坂先輩はそういって歩き去っていってしまった。
 僕はそれをどうしても追いかけることができなかった。
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