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第1部 弟子入り編
魔女見習いモニカ
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あるクラスの生徒たちは、授業中ある1人の生徒に注目していた。
つい2、3日前までは全くと言っていいほど魔法を使うことのできていなかった生徒が軽快に魔法を使っている姿を見て…。
「ファイアーボール!」
その生徒が放つ魔法は的確に的を撃ち抜いていく、それも正確になおかつ素早くだ。
「あ、あいつあんなに魔法使えたんだっけ?」
「何かの間違いよ、つい最近なんてずっと暴発しかしてなかったじゃない!」
「え、じゃああれは一体」
「夢だ夢、これは現実じゃない…」
今まで馬鹿にしていた生徒たちは、なんとも受け入れ難い光景に息を呑んでいた。
(えへへ、今日はすごく調子がいいみたい)
その注目の渦中にいるのはモニカ。
モニカは軽快に様々な基礎魔法を今回こそはと練習に励んでいる。
今のところどの魔法も失敗せず使えている事が、嬉しくて仕方なかった。
「モニカ、今日はえらく調子がいいようだな、その調子で頑張りなさい」
「はい!」
先生から褒められることもはじめての経験だった。
だが、その事をよく思わない生徒たちもいるわけである。
「おいおい、そんな初歩的な魔法を使えたぐらいで調子に乗るなよ」
ライノとその取り巻きたちだ。
「やっと魔法が使えるって土俵まで上がって来ただけじゃないか、1年経ってそれってそもそも出来が悪いんだよ、なぁ!」
ライノの言葉に取り巻きたちは笑っている。
確かに、初級魔法を自由に使えるようになった程度だが、モニカは今まで使えなかったものが使えるようになった嬉しさで、心にかなりの余裕があった。
「なんとでも言いなよ、私は私のペースで魔法を覚えていくから」
モニカはライノたちを一瞥し、練習を再開した。
そんな態度にもちろんライノは気に食わない様子だった。
「くそ、なんなんだよ、ふざけやがって」
すると、ライノは自分の杖を構えてモニカに向ける。
「ウィンドウスフィア!」
ライノの杖から風を纏った球体がモニカに向かって飛んでいく。
「っ!?」
それに気づいたモニカは間一髪で直撃を避けるが、右肩にそれが当たってしまった。
「痛っ!」
モニカの右肩から血が滴り落ちる、それを見てライノは息を荒くして怪しく笑う。
「調子に乗るとこうなるんだよ!」
そんなライノを見て、さすがに取り巻きたちは少し引いていた。
モニカは痛みの走る右肩を押さえてライノを睨んだ。
「なに、するの…?」
「はっ、その程度の魔法も避けられないんじゃ意味ないよなぁ」
「避けられないって、不意打ちだったじゃない」
「そんなもん理由にならねぇよ!」
ライノはさらに杖を構える。
「二度と調子に乗れないようにしてやるっ!」
ライノの杖が再び風を纏う。
「おいっ!なにやっているんだ!」
その様子を見て、先生がライノを取り押さえる。
「モニカ、とりあえずすぐに医務室に向かえ、血が結構出ているぞ」
先生の言葉にモニカは痛む右肩を押さえながら医務室に向かっていった。
その後の授業にライノの姿はなかった、私はと言うと医務室で手当てをしてもらい、痛みは残っているものの大怪我には至らなかった。
その日の授業はあとはなにも問題なく終わり、モニカはカフェに帰った。
「ただいま戻りました」
「おかえりー」
厨房からイリアが紅茶を片手に出てきた。
「遅かったねぇ、学園でこんな時間までなにさせてるのかしら」
「今日はいつもより時間割の数が多かったので」
「そかそか、とりあえずもうすぐ開店だからパントリーにお皿並べておいてもらっていい?」
イリアはそう言って厨房の中にあるお皿を指さした。
「わかりました、すぐ着替えてきます!」
気にしていても仕方ない、モニカはそう自分に言い聞かせてすぐに着替えを済ませた。
そしてその後すぐに厨房に積んであるお皿を何枚かに分けて抱えて持っていこうとした。
「…っ!?」
皿を抱えた時、右肩に再び痛みが走り抱えていた皿を落としてしまった。
皿が割れた音でイリアは気づき、店内から厨房内へと戻ってきた。
「なになに、どしたん?手が滑った?」
イリアは心配そうにモニカに声をかける。
「い、いえ、すいません、お皿割ってしまいました…」
「いやいや、お皿くらい魔法で戻せるから別に、ん?」
イリアがモニカの右肩に目をやる。
少し力んだせいで傷口が少し開いたようで、血が滲んでいた。
「なに、その怪我どうしたの?」
「ち、ちょっと転んで」
モニカの言葉を無視するかのようにイリアは袖をめくった。
「この傷は、魔法か何か当たったの?」
「えっと…」
イリアの言葉にモニカは押し黙る。
「誰かにやられたのね?」
「…。」
沈黙は最早肯定しているのと一緒だった。
イリアはため息をつき、モニカの傷口に手を添える。
「師匠?」
「ヒールライト」
イリアがそう唱えると、モニカの傷はすぐ跡形もなく消え去った、それと同時に痛みも消えていた。
「はい、これでもう大丈夫でしょ?」
「す、すごい!痛くないです!」
モニカは治った腕を振って嬉しそうにした、しかしイリアの顔は相変わらずしかめっ面であった。
「喜んでる場合じゃないでしょ、誰にやられたの?」
「え、あ、あの…」
何時にもなく真面目なイリアに対してモニカは怯む。
「誰?」
「あの、同じクラスの人、です…」
「なんでやられたの?」
「えと、普通に魔法が使えたのが、気に食わなかったみたいで…」
「なにそれ」
イリアは深いため息をつく。
「クソガキかよ、まったく」
「…。」
イリアの怒気の混じったその言葉にモニカはさらに怯えた。
なにも言えない状況で押し黙る。
「次何かされたら言いな、黙らせてやるから」
「そ、そんな、大丈夫、です…」
モニカはか弱い声でなんとか返答をした。イリアはそんなモニカを見て、表情を緩めてモニカの頭に手を置く。
「あんたは私の弟子なんだから、怪我させられたらムカつくに決まってるでしょ」
「師匠…」
「まぁ、大した怪我じゃなくて良かったよ」
そう言ってイリアは笑った。
「さて、時間も時間だし今日も忙しいよ、早く準備しようか!」
「…っ、はい!」
モニカも同じように笑って、ディナータイムの準備をしはじめた。
その日の夜も大盛況で、モニカも忙しなく動いていたが、2日3日働いたお陰で仕事にも余裕が出てきた。
「お待たせしましたー!」
「おぅ、モニカちゃん!ありがとな!」
「いえいえ!ごゆっくりどうぞー!」
モニカの看板娘具合も相変わらず評判が良い。
時間が経ってお店が終わる頃には、モニカは昼の出来事はすっかり忘れていた。
やがて閉店時間になり、モニカとイリアは後片付けを済ませて2人でゆっくりと紅茶を飲んでいた。
イリアが作る紅茶は飲むと気持ちが落ち着くので、モニカは大好きだった。
「モニカ、明日は早いの?」
「明日ですか?今日と変わらないですけど」
「そかそか」
イリアは残りの紅茶を飲み干すと、スッと立ち上がる。
「ちょっと確認したいことがあるからついてきて」
「確認?わ、わかりました!」
モニカも紅茶を飲み干して、イリアの後をぴょこぴょことついていった。
イリアは、厨房の奥に入ったと思えば大きい棚をチョンと触れた、すると棚はたちまち壁に埋まっていき、一つの大きな扉が浮かび上がってきた。
「おぉ…」
何時にもなく間抜けな声を出したモニカにイリアはクスッと笑った。
「変な声出さないでよ」
「び、びっくりしちゃって…」
怯むモニカを後目に、イリアは扉を開いた。
開いた先は長い階段が姿を現した、その階段をイリアは降りていく。モニカもその後を追って降りていく。
少し歩いた先には狭くもなく広くもない部屋が広がっていた。真ん中にはポツンと丸い机と二つ水晶が吊された置き物が置いてあった。
「師匠、ここは?」
「んー、私の研究室、とでも言っておこうかしらね」
そう言うとイリアは丸い机の横に置いてあった椅子に座る。
「モニカ、そっちの椅子に座って」
「は、はい」
モニカはイリアの向かいの席に座った。
「さてと、とりあえず説明するわね」
イリアは机の上に置いてある器具を指差す。
「これは魔力の大きさを確認するための魔具なの」
「魔力の大きさ、ですか」
「そう、赤と青の水晶がぶら下がってるでしょ?確認される人が赤い水晶を握る、確認する方はこっちの青い水晶を握るの」
「はい」
「確認される方は、そうね、握ってる手から水晶に向かって魔力を込める感じで意識すれば良いかな」
「わかりました」
「よし、じゃあ赤い方の水晶を握って」
イリアの言葉にモニカは赤い水晶を握る、イリアはそれを見て青い水晶を握った。
「ほい、それじゃあ念じてみて」
「…。」
モニカは目を閉じて、赤い水晶を握った手に集中する。
すると、じわじわと掌が熱くなってきた。それと同時に自分が深い魔力の海のようなものに身体が浸かっていく感覚に陥っていた。
(なんだろう、不思議な感覚)
その感覚は嫌な感覚ではなかった、むしろさらに奥へと向かっていきたいようなそんな感覚だった。
すると突然、握っていた手をパンっと弾かれた。
その衝撃でモニカはパッと目を開けた。
どうやらイリアがモニカの腕を弾いたようだった。
「し、師匠?」
「ご、ごめんごめん、ちょっとびっくりして」
「な、なにがですか?」
「まぁ、いろいろと?」
イリアは苦笑いを浮かべ、モニカの手をさすった。
「とりあえず確認したから上に戻ろうか」
「え、あ、はい」
初めてみたイリアの反応に少し驚いたが、そんなに気にすることでもない事かと思い、モニカは再びイリアの後ろをついていった。
モニカが眠りについた後、店の客席にイリアは1人で座っていた。
何気なくやった魔力の大きさの確認が、イリアの予想を大きく超えていたことが脳裏に焼き付いていた。
魔力は人それぞれで見え方や確認した時に感じる感覚は変わってくる。ごく普通の一般人はその人によるイメージが魔力の形や感覚に大きく影響してくる。
しかし、モニカのそれは大きく違いこちらが確認する立場で視認するはずなのにも関わらず、モニカの魔力の大きな海のようなものに引きずり込まれるような感覚に陥った。
少し入ったその魔力の海は全く底の見えないものだった。それと同時に底の見えないその先になにかとてつもなくどす黒いナニカが見えたような気がした。
「予想以上、すぎたわね」
危うくイリア自身がその魔力の海から抜け出せなくなるところだった。
「まさか、この私が、ね…」
モニカには色々とあえて伝えてない部分が多い。
モニカの腕輪から見えた両親からの記憶のメッセージの事。
あの腕輪をつける事でモニカに強く簡単には解けない枷が多大に付けられていた事。
今日あったモニカの魔力の底が全く見えずとてつもないものだった事。
そして、モニカの魔力の先の先に見えたあのドス黒いナニカ。
「あの腕輪のメッセージ、魔神の血、か…」
改めて感じたモニカへの底知れない力に、イリアは静かに恐怖を感じていた。
「あんなに努力家な子に限って、運命って残酷ね…」
イリアは深いため息をついて、ゆっくりと目を閉じた。
これから先、何事もなく平和に時間が過ぎてく事を願って、その日イリアは眠りについた。
つい2、3日前までは全くと言っていいほど魔法を使うことのできていなかった生徒が軽快に魔法を使っている姿を見て…。
「ファイアーボール!」
その生徒が放つ魔法は的確に的を撃ち抜いていく、それも正確になおかつ素早くだ。
「あ、あいつあんなに魔法使えたんだっけ?」
「何かの間違いよ、つい最近なんてずっと暴発しかしてなかったじゃない!」
「え、じゃああれは一体」
「夢だ夢、これは現実じゃない…」
今まで馬鹿にしていた生徒たちは、なんとも受け入れ難い光景に息を呑んでいた。
(えへへ、今日はすごく調子がいいみたい)
その注目の渦中にいるのはモニカ。
モニカは軽快に様々な基礎魔法を今回こそはと練習に励んでいる。
今のところどの魔法も失敗せず使えている事が、嬉しくて仕方なかった。
「モニカ、今日はえらく調子がいいようだな、その調子で頑張りなさい」
「はい!」
先生から褒められることもはじめての経験だった。
だが、その事をよく思わない生徒たちもいるわけである。
「おいおい、そんな初歩的な魔法を使えたぐらいで調子に乗るなよ」
ライノとその取り巻きたちだ。
「やっと魔法が使えるって土俵まで上がって来ただけじゃないか、1年経ってそれってそもそも出来が悪いんだよ、なぁ!」
ライノの言葉に取り巻きたちは笑っている。
確かに、初級魔法を自由に使えるようになった程度だが、モニカは今まで使えなかったものが使えるようになった嬉しさで、心にかなりの余裕があった。
「なんとでも言いなよ、私は私のペースで魔法を覚えていくから」
モニカはライノたちを一瞥し、練習を再開した。
そんな態度にもちろんライノは気に食わない様子だった。
「くそ、なんなんだよ、ふざけやがって」
すると、ライノは自分の杖を構えてモニカに向ける。
「ウィンドウスフィア!」
ライノの杖から風を纏った球体がモニカに向かって飛んでいく。
「っ!?」
それに気づいたモニカは間一髪で直撃を避けるが、右肩にそれが当たってしまった。
「痛っ!」
モニカの右肩から血が滴り落ちる、それを見てライノは息を荒くして怪しく笑う。
「調子に乗るとこうなるんだよ!」
そんなライノを見て、さすがに取り巻きたちは少し引いていた。
モニカは痛みの走る右肩を押さえてライノを睨んだ。
「なに、するの…?」
「はっ、その程度の魔法も避けられないんじゃ意味ないよなぁ」
「避けられないって、不意打ちだったじゃない」
「そんなもん理由にならねぇよ!」
ライノはさらに杖を構える。
「二度と調子に乗れないようにしてやるっ!」
ライノの杖が再び風を纏う。
「おいっ!なにやっているんだ!」
その様子を見て、先生がライノを取り押さえる。
「モニカ、とりあえずすぐに医務室に向かえ、血が結構出ているぞ」
先生の言葉にモニカは痛む右肩を押さえながら医務室に向かっていった。
その後の授業にライノの姿はなかった、私はと言うと医務室で手当てをしてもらい、痛みは残っているものの大怪我には至らなかった。
その日の授業はあとはなにも問題なく終わり、モニカはカフェに帰った。
「ただいま戻りました」
「おかえりー」
厨房からイリアが紅茶を片手に出てきた。
「遅かったねぇ、学園でこんな時間までなにさせてるのかしら」
「今日はいつもより時間割の数が多かったので」
「そかそか、とりあえずもうすぐ開店だからパントリーにお皿並べておいてもらっていい?」
イリアはそう言って厨房の中にあるお皿を指さした。
「わかりました、すぐ着替えてきます!」
気にしていても仕方ない、モニカはそう自分に言い聞かせてすぐに着替えを済ませた。
そしてその後すぐに厨房に積んであるお皿を何枚かに分けて抱えて持っていこうとした。
「…っ!?」
皿を抱えた時、右肩に再び痛みが走り抱えていた皿を落としてしまった。
皿が割れた音でイリアは気づき、店内から厨房内へと戻ってきた。
「なになに、どしたん?手が滑った?」
イリアは心配そうにモニカに声をかける。
「い、いえ、すいません、お皿割ってしまいました…」
「いやいや、お皿くらい魔法で戻せるから別に、ん?」
イリアがモニカの右肩に目をやる。
少し力んだせいで傷口が少し開いたようで、血が滲んでいた。
「なに、その怪我どうしたの?」
「ち、ちょっと転んで」
モニカの言葉を無視するかのようにイリアは袖をめくった。
「この傷は、魔法か何か当たったの?」
「えっと…」
イリアの言葉にモニカは押し黙る。
「誰かにやられたのね?」
「…。」
沈黙は最早肯定しているのと一緒だった。
イリアはため息をつき、モニカの傷口に手を添える。
「師匠?」
「ヒールライト」
イリアがそう唱えると、モニカの傷はすぐ跡形もなく消え去った、それと同時に痛みも消えていた。
「はい、これでもう大丈夫でしょ?」
「す、すごい!痛くないです!」
モニカは治った腕を振って嬉しそうにした、しかしイリアの顔は相変わらずしかめっ面であった。
「喜んでる場合じゃないでしょ、誰にやられたの?」
「え、あ、あの…」
何時にもなく真面目なイリアに対してモニカは怯む。
「誰?」
「あの、同じクラスの人、です…」
「なんでやられたの?」
「えと、普通に魔法が使えたのが、気に食わなかったみたいで…」
「なにそれ」
イリアは深いため息をつく。
「クソガキかよ、まったく」
「…。」
イリアの怒気の混じったその言葉にモニカはさらに怯えた。
なにも言えない状況で押し黙る。
「次何かされたら言いな、黙らせてやるから」
「そ、そんな、大丈夫、です…」
モニカはか弱い声でなんとか返答をした。イリアはそんなモニカを見て、表情を緩めてモニカの頭に手を置く。
「あんたは私の弟子なんだから、怪我させられたらムカつくに決まってるでしょ」
「師匠…」
「まぁ、大した怪我じゃなくて良かったよ」
そう言ってイリアは笑った。
「さて、時間も時間だし今日も忙しいよ、早く準備しようか!」
「…っ、はい!」
モニカも同じように笑って、ディナータイムの準備をしはじめた。
その日の夜も大盛況で、モニカも忙しなく動いていたが、2日3日働いたお陰で仕事にも余裕が出てきた。
「お待たせしましたー!」
「おぅ、モニカちゃん!ありがとな!」
「いえいえ!ごゆっくりどうぞー!」
モニカの看板娘具合も相変わらず評判が良い。
時間が経ってお店が終わる頃には、モニカは昼の出来事はすっかり忘れていた。
やがて閉店時間になり、モニカとイリアは後片付けを済ませて2人でゆっくりと紅茶を飲んでいた。
イリアが作る紅茶は飲むと気持ちが落ち着くので、モニカは大好きだった。
「モニカ、明日は早いの?」
「明日ですか?今日と変わらないですけど」
「そかそか」
イリアは残りの紅茶を飲み干すと、スッと立ち上がる。
「ちょっと確認したいことがあるからついてきて」
「確認?わ、わかりました!」
モニカも紅茶を飲み干して、イリアの後をぴょこぴょことついていった。
イリアは、厨房の奥に入ったと思えば大きい棚をチョンと触れた、すると棚はたちまち壁に埋まっていき、一つの大きな扉が浮かび上がってきた。
「おぉ…」
何時にもなく間抜けな声を出したモニカにイリアはクスッと笑った。
「変な声出さないでよ」
「び、びっくりしちゃって…」
怯むモニカを後目に、イリアは扉を開いた。
開いた先は長い階段が姿を現した、その階段をイリアは降りていく。モニカもその後を追って降りていく。
少し歩いた先には狭くもなく広くもない部屋が広がっていた。真ん中にはポツンと丸い机と二つ水晶が吊された置き物が置いてあった。
「師匠、ここは?」
「んー、私の研究室、とでも言っておこうかしらね」
そう言うとイリアは丸い机の横に置いてあった椅子に座る。
「モニカ、そっちの椅子に座って」
「は、はい」
モニカはイリアの向かいの席に座った。
「さてと、とりあえず説明するわね」
イリアは机の上に置いてある器具を指差す。
「これは魔力の大きさを確認するための魔具なの」
「魔力の大きさ、ですか」
「そう、赤と青の水晶がぶら下がってるでしょ?確認される人が赤い水晶を握る、確認する方はこっちの青い水晶を握るの」
「はい」
「確認される方は、そうね、握ってる手から水晶に向かって魔力を込める感じで意識すれば良いかな」
「わかりました」
「よし、じゃあ赤い方の水晶を握って」
イリアの言葉にモニカは赤い水晶を握る、イリアはそれを見て青い水晶を握った。
「ほい、それじゃあ念じてみて」
「…。」
モニカは目を閉じて、赤い水晶を握った手に集中する。
すると、じわじわと掌が熱くなってきた。それと同時に自分が深い魔力の海のようなものに身体が浸かっていく感覚に陥っていた。
(なんだろう、不思議な感覚)
その感覚は嫌な感覚ではなかった、むしろさらに奥へと向かっていきたいようなそんな感覚だった。
すると突然、握っていた手をパンっと弾かれた。
その衝撃でモニカはパッと目を開けた。
どうやらイリアがモニカの腕を弾いたようだった。
「し、師匠?」
「ご、ごめんごめん、ちょっとびっくりして」
「な、なにがですか?」
「まぁ、いろいろと?」
イリアは苦笑いを浮かべ、モニカの手をさすった。
「とりあえず確認したから上に戻ろうか」
「え、あ、はい」
初めてみたイリアの反応に少し驚いたが、そんなに気にすることでもない事かと思い、モニカは再びイリアの後ろをついていった。
モニカが眠りについた後、店の客席にイリアは1人で座っていた。
何気なくやった魔力の大きさの確認が、イリアの予想を大きく超えていたことが脳裏に焼き付いていた。
魔力は人それぞれで見え方や確認した時に感じる感覚は変わってくる。ごく普通の一般人はその人によるイメージが魔力の形や感覚に大きく影響してくる。
しかし、モニカのそれは大きく違いこちらが確認する立場で視認するはずなのにも関わらず、モニカの魔力の大きな海のようなものに引きずり込まれるような感覚に陥った。
少し入ったその魔力の海は全く底の見えないものだった。それと同時に底の見えないその先になにかとてつもなくどす黒いナニカが見えたような気がした。
「予想以上、すぎたわね」
危うくイリア自身がその魔力の海から抜け出せなくなるところだった。
「まさか、この私が、ね…」
モニカには色々とあえて伝えてない部分が多い。
モニカの腕輪から見えた両親からの記憶のメッセージの事。
あの腕輪をつける事でモニカに強く簡単には解けない枷が多大に付けられていた事。
今日あったモニカの魔力の底が全く見えずとてつもないものだった事。
そして、モニカの魔力の先の先に見えたあのドス黒いナニカ。
「あの腕輪のメッセージ、魔神の血、か…」
改めて感じたモニカへの底知れない力に、イリアは静かに恐怖を感じていた。
「あんなに努力家な子に限って、運命って残酷ね…」
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