36 / 43
@さくらside
17.お久しぶりです@さくらside
しおりを挟む
30周年パーティの営業側の担当が藤堂さんと恵ちゃんに決まった。
総務部の担当は課長と私と言われた。
私はそんな大役勤まらないなど、あっちの業務が忙しい、こっちもあると散々抵抗したが、課長にも、主任にも、適任だの、お前なら大丈夫だの言われて逃げきれなかった。
仕事だ。
私的感情で藤堂さんから逃げるために仕事断るなんてダメだ。そんなの憧れてた藤堂さんや高峰さんからほど遠い。
休憩室で藤堂さんが、あんな風に私を腕に閉じ込めたのも、私が避けてたからだろうし。
藤堂さんからすれば、あの夜のことはなんてことないんだろう。私が自意識過剰なのかもしれない。
なんでわざわざベッドで私の体に付けた痕のことなんか言ったのか、わからないけど…。
あの痕も、今はもうすっかり消えてしまった。
藤堂さんたちとの打ち合わせにMeeting Roomに入る。
藤堂さんと恵ちゃんが入ってくる。
奥の上座に上司の木村課長を座らせてたので、当然課長の藤堂さんがその前に座ると思っていたのになぜか藤堂さんは恵ちゃんを奥に誘導して私の前の席の後ろに立つ。
なんで?
木村課長が、紹介しようとする。
「小林はご存じでしたかね?」
藤堂さんが満面の笑顔で私を見る。
口角は上がっているけど、目の奥が笑っていないような気がする。
営業スマイルってやつ?
「ええ、よく、知ってますよ。ねえ、さくらさん。」
よくって?私は藤堂さんの含みのある言い方を払拭しようとする。
「お久しぶりです…」
私は目を反らしたまま頭を下げる。
「うん。久しぶりだね。…なんでだろう?」
な、なんで?
「え、あの、まあ、部も違いますし…」
「んんっ?」
そうしてだろう。笑顔の藤堂さんに怒られている気がする…。
木村課長が説明している間も、藤堂さんの視線がずっと私を突き刺しているのを感じる。
足首に何かが当たる。
反射的にひっこめるとすねをくすぐるように何かが動く。
何?体温を感じる。
藤堂さんが、見てる、じっと見てる。藤堂さんが足に触れてるんだ。
どうしよう。
藤堂さんに、触れてもらえていることが、嬉しいって思ってしまう。
もっと、触れてほしいと思ってしまう。
もう、断ち切らなきゃいけないのに、相手のいる人に、横に立つのに気後れする、憧れの人にいつまでも思いを残していても報われないのに。
打ち合わせが終わると、木村課長は次の打ち合わせがあるので、片付けを私に任せて出て行ってしまう。
まあ、これで藤堂さんも恵ちゃんと一緒に営業部に戻るだろうと思っていたら、恵ちゃんも上司の藤堂さんを置いて、さっさと出て行ってしまう。
「では、よろしくお願いします。」
デスクの上を急いで片付ける。
藤堂さんがドアの方に行くので、ああ、出ていくんだと思ったら、藤堂さんは内側に残ったまま、ドアを閉めてしまう。
え?なんで?
「やっと、ちゃんと、俺を見たね。」
「あの、失礼します。」
慌てて出ようとすると前に藤堂さんが立ちふさがる。
「さくら、さっき、俺に足触られて、嫌だった?」
藤堂さんが近づいてくる。
「ねえ?どうなの?嫌なら、セクハラで訴える?ねえ?さくら?」
耳元で、藤堂さんの声で、名前を呼ばれる。
セクハラだなんて思わないよ、触れられて、嬉しいって思っちゃってたんだもの。
「あ、あの…」
「何?」
なんて言ったらいいの?憧れてる気持ちはまだ消えないけど、私はこの思いから卒業するって決めたんだもの。
ふうっと、藤堂さんが耳に息を吹きかける。
思わず抱えていた書類や手帳を落としてしまう。
「さくら、耳、弱いもんね。」
どうして、また、あの夜を思い出させるの?
ただ、一晩、慰めてくれただけでしょう?
これ以上、藤堂さんに地方に赴任中の高峰さんを裏切らせたくない。
藤堂さんが、そんな人であって欲しくないし、そんな人にしたくない。
あれは一度の間違い、私を慰めるための、特別。そうですよね?
「ねえ、嫌?」
嫌なわけない。
首を横に振る。
「さくら…なんで、避けるの?」
あからさまに避けている。打ち合わせ中も藤堂さんの目線から必死に逃げてしまった。
「…ごめんなさい…。」
確かに、変だよね。意識してる私、藤堂さん、困るよね。
ドアノブがガチャっと鳴る。藤堂さんが距離を取る。
「あ、まだここだった。課長、部長が探してますよ。あれ?さくらさん、落としちゃいました?」
恵ちゃんが書類を拾ってくれる。来てくれて助かったよ恵ちゃん。
「あ、ごめん。」
一緒に書類を集める。
藤堂さんが部屋を出ていく。ほっとした。
「さくらさん、丸菱の杉下さんとその後、どうなんですか?」
「あ、うん。ちょこちょこ連絡してるよ。またご飯行くの。」
あれから、この半月ほどの間に、杉下さんとは2度、会社帰りに待ち合わせして一緒にご飯を食べた。
「え、ほんとに?順調ですね~」
「そんなんじゃないよ。総務同士、情報交換。」
「まった~」
恵ちゃんに冷やかされる。
杉下さんもそんなつもりじゃないと思うけど、仕事の話が尽きなくて、一緒にいて楽なのは確か。
総務部の担当は課長と私と言われた。
私はそんな大役勤まらないなど、あっちの業務が忙しい、こっちもあると散々抵抗したが、課長にも、主任にも、適任だの、お前なら大丈夫だの言われて逃げきれなかった。
仕事だ。
私的感情で藤堂さんから逃げるために仕事断るなんてダメだ。そんなの憧れてた藤堂さんや高峰さんからほど遠い。
休憩室で藤堂さんが、あんな風に私を腕に閉じ込めたのも、私が避けてたからだろうし。
藤堂さんからすれば、あの夜のことはなんてことないんだろう。私が自意識過剰なのかもしれない。
なんでわざわざベッドで私の体に付けた痕のことなんか言ったのか、わからないけど…。
あの痕も、今はもうすっかり消えてしまった。
藤堂さんたちとの打ち合わせにMeeting Roomに入る。
藤堂さんと恵ちゃんが入ってくる。
奥の上座に上司の木村課長を座らせてたので、当然課長の藤堂さんがその前に座ると思っていたのになぜか藤堂さんは恵ちゃんを奥に誘導して私の前の席の後ろに立つ。
なんで?
木村課長が、紹介しようとする。
「小林はご存じでしたかね?」
藤堂さんが満面の笑顔で私を見る。
口角は上がっているけど、目の奥が笑っていないような気がする。
営業スマイルってやつ?
「ええ、よく、知ってますよ。ねえ、さくらさん。」
よくって?私は藤堂さんの含みのある言い方を払拭しようとする。
「お久しぶりです…」
私は目を反らしたまま頭を下げる。
「うん。久しぶりだね。…なんでだろう?」
な、なんで?
「え、あの、まあ、部も違いますし…」
「んんっ?」
そうしてだろう。笑顔の藤堂さんに怒られている気がする…。
木村課長が説明している間も、藤堂さんの視線がずっと私を突き刺しているのを感じる。
足首に何かが当たる。
反射的にひっこめるとすねをくすぐるように何かが動く。
何?体温を感じる。
藤堂さんが、見てる、じっと見てる。藤堂さんが足に触れてるんだ。
どうしよう。
藤堂さんに、触れてもらえていることが、嬉しいって思ってしまう。
もっと、触れてほしいと思ってしまう。
もう、断ち切らなきゃいけないのに、相手のいる人に、横に立つのに気後れする、憧れの人にいつまでも思いを残していても報われないのに。
打ち合わせが終わると、木村課長は次の打ち合わせがあるので、片付けを私に任せて出て行ってしまう。
まあ、これで藤堂さんも恵ちゃんと一緒に営業部に戻るだろうと思っていたら、恵ちゃんも上司の藤堂さんを置いて、さっさと出て行ってしまう。
「では、よろしくお願いします。」
デスクの上を急いで片付ける。
藤堂さんがドアの方に行くので、ああ、出ていくんだと思ったら、藤堂さんは内側に残ったまま、ドアを閉めてしまう。
え?なんで?
「やっと、ちゃんと、俺を見たね。」
「あの、失礼します。」
慌てて出ようとすると前に藤堂さんが立ちふさがる。
「さくら、さっき、俺に足触られて、嫌だった?」
藤堂さんが近づいてくる。
「ねえ?どうなの?嫌なら、セクハラで訴える?ねえ?さくら?」
耳元で、藤堂さんの声で、名前を呼ばれる。
セクハラだなんて思わないよ、触れられて、嬉しいって思っちゃってたんだもの。
「あ、あの…」
「何?」
なんて言ったらいいの?憧れてる気持ちはまだ消えないけど、私はこの思いから卒業するって決めたんだもの。
ふうっと、藤堂さんが耳に息を吹きかける。
思わず抱えていた書類や手帳を落としてしまう。
「さくら、耳、弱いもんね。」
どうして、また、あの夜を思い出させるの?
ただ、一晩、慰めてくれただけでしょう?
これ以上、藤堂さんに地方に赴任中の高峰さんを裏切らせたくない。
藤堂さんが、そんな人であって欲しくないし、そんな人にしたくない。
あれは一度の間違い、私を慰めるための、特別。そうですよね?
「ねえ、嫌?」
嫌なわけない。
首を横に振る。
「さくら…なんで、避けるの?」
あからさまに避けている。打ち合わせ中も藤堂さんの目線から必死に逃げてしまった。
「…ごめんなさい…。」
確かに、変だよね。意識してる私、藤堂さん、困るよね。
ドアノブがガチャっと鳴る。藤堂さんが距離を取る。
「あ、まだここだった。課長、部長が探してますよ。あれ?さくらさん、落としちゃいました?」
恵ちゃんが書類を拾ってくれる。来てくれて助かったよ恵ちゃん。
「あ、ごめん。」
一緒に書類を集める。
藤堂さんが部屋を出ていく。ほっとした。
「さくらさん、丸菱の杉下さんとその後、どうなんですか?」
「あ、うん。ちょこちょこ連絡してるよ。またご飯行くの。」
あれから、この半月ほどの間に、杉下さんとは2度、会社帰りに待ち合わせして一緒にご飯を食べた。
「え、ほんとに?順調ですね~」
「そんなんじゃないよ。総務同士、情報交換。」
「まった~」
恵ちゃんに冷やかされる。
杉下さんもそんなつもりじゃないと思うけど、仕事の話が尽きなくて、一緒にいて楽なのは確か。
応援ありがとうございます!
2
お気に入りに追加
59
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる