マキノのカフェで、ヒトヤスミ ~Café Le Repos~

Repos

文字の大きさ
60 / 110

60.会いたかった

しおりを挟む
クリスマスの当日。

ヒロトは、翌朝の仕事を考慮して、遊の部屋に泊まらせてもらうことになっていた。

疲労はピークだが、あと一週間で正月休みに入る・・・それまでは頑張ろう。

今日のこのパーティーさえ乗り切れば通常運転に戻る。



4時頃からOPENのプレートをはずして、5時にはお店を閉める。


パーティーは20人余り集まるようだから、午後からは厨房でお客さんをこなしながら、オードブルを並べたり、チキンを焼いたりしはじめていた。フルーツを切って、パスタソースと、スープを仕込んで・・・ケーキはどっししたシュトーレンだ。ドライフルーツとナッツをがたっぷり入った、もう2日前に焼いてある。それともう一つ、生クリーム系のケーキも欲しいと言いだすヤツがいるかなと考えて、ロールケーキを買ってしまった。一から焼くのはあきらめた。市販の安物で味気なさすぎるから余裕があればアレンジする予定。



スーパーへ寿司を卸すようになって、当然のことながら仕事量が増え一気にきつくなっている。

年が明けたら、本店だけでなく、あと3つある支店にも営業するつもりだから、もっときつくなるだろう。

しかし、ここで意地を見せれば、人生が切り開けるんだ・・。



スーパー出しなんて、午前中だけの仕事だと思っていたが、やることが多すぎて、カフェの昼の忙しい時間帯に手伝えなくなってしまっている。申し訳なく思う。


今はいくら売れても給料は変わらないが、ここを借りるようになったら、こっちに投資した分がわかるように、今から経費も仕入れも売り上げも完全に分けてある。

工房に増やしてもらった炊飯器や厨房機器の元入れをすべてカフェから出してもらっている。
出資してもらった分は、この工房をもらうのであればそれを返さなくちゃいけない。
でも、ここでオレが仕事した売り上げが多ければ多い程、返す分が減るのだ。
常に、今から少しでもと意識にある。



クリスマス向けの洋風のちらし寿司を、すこし底の深いパックに盛りつけて売り出すことにしたら、少し高めの値段をつけたのによく売れていた。それももう、今日24日までかな。・・少しパックが残っているから、明日も少し置いてもいいだろう。24日でクリスマスケーキは終わりかもしれないが、寿司は終わりってわけじゃない。
星のピックだけ、はずしておこう。

「オーナーの及川さんも、クリスマス向けのお寿司は多めに入れても売れるんじゃないかなって言ってたよ。」

とマキノさんが言っていた。

多めにと言っても、ここ一週間20パックに増やしただけだ。でもその差が連日になることで、大きな差になってくる。継続とは偉大だ。
そんなことで、ヒロトは自分で休みの日を作ることができずに、カフェの定休日の水曜日も早くに出勤してきていた。


マキノは、カフェの事は気にしなくていいと言って、3時頃カフェに戻ってもそのまま帰宅させられることもあったが、徐々に疲れがたまっているのは感じていた。

それでも、休もうとは思わなかった。やれるだけやりたかったのだ。


今日のパーティーメニューを考えるのはマキノが手伝ってくれた。パーティー用だけでなく、年末までと新年からのお弁当の分のメニューも。とても助かった。

ホストをさせるからと言って、自分と遊は会費も免除してくれるらしい。いろいろと気を遣ってくれているのがわかる。




手は動かしながら、年末年始の予定をひとつひとつ頭の中に並べて確認してゆく。

お弁当の配達は28日から年明けの5日まで休むことになっている。

朝市が28日で終わりだ。これはひとりでやろうと思う。

カフェは29日が掃除で、新年は4日から営業か。

スーパーの営業は年内無休で、新年の開始は5日から。

・・頑張らなくては。


そして、10日は、約束した返済日だ。

何件も振り込まなくちゃならない。

オヤジが就職できるらしいから、来月は全部オレ持ちだが、翌月からは半分は自分でするだろう。来月だけ、また貯金をおろさなきゃいけない。


オヤジのやつめ・・


まあいい。生きていれば、何とかなっていくだろうさ。

とにかく、一日一日生きれればいい。



マキノさんがお店を閉めてから一度家に帰って着替えて来た。

「ヒロトくーん。」
「はい。」

マキノさんが、とてもいい顔をしている・・なんでそんなに嬉しそうなんだ?
それに、めずらしくスカート。 へえ・・と思うぐらい女の子らしくてかわいい。
胸元にきれいな石が光っている。

「外にお客さんが来てるよ。」


「お客さん? オレに?」



まさか・・・

・・心臓が縮んだ。

るり子のことが脳裏をかすめた。・・冗談はやめてくれ・・?

いや、彼女が何か月も自分に執着し続けることはないと思えたし、彼女は人間の好き嫌いが激しいから、誰彼構わず人に聞き歩くことはしないはずだ
。クリスマスにこんなところに来るなんて考えられない。そもそも、田舎が好きじゃない。
絶対に、ないな。


この線をしっかりと否定してしまえば、あとは、本気で心当たりがなかった。

アパートを引き上げる時に電話番号も変えた。
誰にも連絡先は知らせていないし、ましてやこのカフェの事なんて・・・。

ここのことは、有希の兄貴の川村から紹介されたが、乗り気じゃない返事をしたままだったから、オレがここで働き出したとは思わないだろう。
両親にも、自分の仕事場のことは誰にも言うなと言ってあるし、わざわざ言いふらす理由もない。



簡単にここまで来れるようでは困るんだが・・。




じわっと玄関を開けた。



戸が開いていくにしたがって、見覚えのある肩のラインが目に入った。

手袋を履いた手を、寒そうに握りしめている。

その様子も見覚えがあった。



目が合った。

すこし緊張気味に、見上げるように祈るように、こちらを見ている。

心臓がボンと跳ね上がった。


「・・・。」


目の前に立っていたのは、美緒だった。






会いたくて、会いたくて、夢に見るほど会いたかったのに、目の前にいる現実を受け止められない。

言葉も 出ない。



春樹さんが「中に入れば。」と声をかけてくれた。


美緒は固辞しようとしたが、自分が招き入れた。
少しでもいっしょにいたかった。
話しをしたい。
あやまりたい。
どうやってここを知ったのか。
まだ、今日の訪問の要件を聞いていない。
美緒は何をしにここまで来たのか?

招き入れたものの、みんなになんて紹介したらいいかわからなかった。
・・元カノ?ともだち?それとも・・


いろんなことを聞きたいのだが、何から話せばいいのかわからない。
「あと少しで用意できるから・・。座って待ってて。」
仕方なく美緒を放置して、自分の仕事に戻る。
もう時間だから、仕上げてしまわないと。

美緒は“座って”と言ったのに、居心地悪そうに入口の近くに突っ立っている。
でも、どう声をかければいいのかわからず、何も言ってあげられないまま自分の仕事を続けた。


マキノさんが首をかしげて、自分と美緒をかわるがわる顔を向けながら、話しかけてきた。
「ヒロト君のお友達?彼女??ま、いっか。あとでしぼってあげるから覚えといて。ええとー、ヒロト~。パーティー終わったら彼女を送って行くって?どこまで?」

ヒロトは美緒の方を見て聞いた。
「住所変ってない?だったらH市。」
「・・遠いじゃない。ここから高速乗っても2時間近くかかるよ?明日のスーパー出しどうするの?今からは断れないよ。・・だから休んだらって言ったのに。」
「わかってます。明日も早く来ます。頑張ります。」
「寝る時間ないじゃない・・。彼女は明日の仕事は?おうちの人は心配してないの?」
マキノに問われて美緒が答える。
「あの・・仕事は、今日で今年の分は終わりました。明日からしばらく冬休みなんです。一人暮らしだから、親は心配しません。」
「あっそう・・。じゃあちょっと考える。ヒロトはお料理つづけてて。彼女は・・ええとお名前は?」
「花木美緒です。」
「うん。美緒ちゃん。テーブルセットするからこっち手伝ってくれるかな?」
「はい。」

・・・美緒にいて欲しくて店に入れてしまったが、どうしてやったらいいかわからなかった。マキノが話しかけてくれてホッとした。ああやって声をかけて仕事与えて、ここにいてもいいと思える、居場所を作ってくれるのだ。
ああそうだ。これを言えばマキノさんは考えてくれるか・・。

「マキノさん。美緒はパティシエなんだよ。」
「えっ!そうなの!」
ほら、反射神経がいい。

「美緒ちゃん!」
「はい。あ。いえ。今はもうパティシエではないんですけども・・」
「ここに、市販のロールケーキが2本と、生クリームがあります。」
「はい。」
「今日は、クリスマスイブです。」
「ブ、ブッシュドノエルですか?」
「さすが。わかっていらっしゃる。」
「チョコレートは・・」
「普通の板チョコならあるよ。」
「わたしがやってもいいんですか?道具をたくさん汚しちゃうけど・・」
「お願いできる?やってくれるとうれしい。エプロンはいる?」
「はい。お借りします。」



マキノはボウルや電動泡だて器などの器具と,生クリームとチョコなど材料を並べ始めた。
美緒が、厨房に入って来てエプロンをつけた。

ヒロトは、この厨房に美緒がいるのを不思議な気持ちで眺めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

【完結】モンスターに好かれるテイマーの僕は、チュトラリーになる!

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 15歳になった男子は、冒険者になる。それが当たり前の世界。だがクテュールは、冒険者になるつもりはなかった。男だけど裁縫が好きで、道具屋とかに勤めたいと思っていた。 クテュールは、15歳になる前日に、幼馴染のエジンに稽古すると連れ出され殺されかけた!いや、偶然魔物の上に落ち助かったのだ!それが『レッドアイの森』のボス、キュイだった!

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

処理中です...