マキノのカフェで、ヒトヤスミ ~Café Le Repos~

Repos

文字の大きさ
63 / 110

63.ビンゴゲーム

しおりを挟む
「あらまぁヒロトってば、女の子泣かせて、いけないんだ。」

春樹は厨房に笑顔で戻ってきた。
「いや・・いや、これは・・。」
「ヒロトは、次の料理サーブしないとだよ?」
「あっ!じゃ、仕事してくるから。」
ヒロトは、美緒を気にしながらも立ち上がり、寸胴が乗ったコンロに火をつけて動き出した。
まだ出してない料理があるから、早く進めてもらわなくてはね。


美緒は涙ぐんだのを見られてばつが悪そうにしていたが、春樹はまったく気にもせずに、さっきと違う料理の乗ったお皿を差し出した。
「今日は、男子が仕事をすることになってるんだ。もっと食べて。これもヒロトが作ったんだよ。」
「・・はい。」
「美緒ちゃんって、何歳?」
「25です。」
「ヒロトと同い年?」
「はい。」
「じゃあマキノより2つ年下だな。ちなみにオレは30。・・・あーまたやったな、女性に年を聞いちゃいけないんだった・・。」
美緒はくすっと笑った。

「言ったっけ?オレ、マキノの亭主ね。あやしいものではありません。」
「はい、ヒロトから聞きました。」
春樹は、しまったな・・というように自分のこめかみのあたりを指で押さえてから、美緒ちゃんに勧めたお皿から、自分もサーモンをつまんで食べた。 
そして、ヒロトが仕事している隙に、今度は美緒ちゃんに対して声を落して話を始めた。

「美緒ちゃん今日さ、ヒロトに会いにここまで来たんだろ?」
美緒ちゃんは少しためらいつつちいさくうなずいた。
「これだけの行動ができるってことは、ヒロトに何らかの感情があるからだよね。」
「・・・。」
「あのね、美緒ちゃんが、ヒロトのことを、その・・何らかの視野に入れてるという前提で言わせてもらうと、せっかくだけど、今、ヒロトのことお勧めできない理由というか、事情があるんだよ。」
「あ・・あの、家の事情、お父さんのことですか?」
「ほぅ。そっか聞いてるんだ。そうそれです。関わると一生地獄かもしれない事情。」
「・・・。」
「ヒロトはあんな性格だから、家族の事ほっとけないと思う。」
「そうですね。そうだと思います。」
「僕としては、ヒロトは、人間としては最高にいいやつだと思うけど、美緒ちゃんはヒロトの事を待つのはやめて、違う人を探したほうがいい。」
「えっ・・。」
「常識的に考えたらね。」
「・・・。」
「一緒にいたら、まして結婚したら、苦労するよ。」
「そんなこと考えてないですけど・・・。」
「うん・・。そうだった。マキノにも時々怒られるんだ、結論から話しはじめるのはやめろって。」


美緒は、こんなことを話す真意が測りかねているような感じで自分のほうを伺っている。
言葉をわざと辛辣にしているが、できるだけ優しい顔をしているつもりだ。
「ヒロトっていいやつだろ?」
「はい。」
美緒は、こんどははっきりとうなずいた。

「んとね、さっき言った問題って、一年二年じゃどうこうできるもんじゃないかもしれないけど、ヒロトは今すごく頑張ってる。疲れもピークだと思う。今日はこの夜の仕事が入ったからいつもより随分きついはずなんだ。」
「ヒロトが・・疲れてるのは・・わかります。」
「だろ? この宴会は子どももいるから9時頃終了の予定だけど、ここが終わったら工房の方へ明日の朝の下準備に行かねばならんし、朝は5時から仕事なんだ。美緒ちゃんを送って行くって言ってたけど、文字通り,寝る時間がない。」
「わ、わたし、自分で帰りま・・」
春樹がまて・・と手をあげてさえぎって、少し小声になって続けた。

「それでもね、ヒロトはおそらく美緒ちゃんを送って行きたいと思ってる。でもそれはマキノが却下する。居眠りして事故っちゃうからね。そこで、明日の朝、ヒロトの手伝いをしてやってくれないかな?って思ったわけ。」
「お手伝い・・・ですか。」
「うん。もちろん美緒ちゃんの都合が良ければ。断ってくれても問題なし。駅までなら送れるから・・。ええとね・・あんまり遅く帰すのも心配だけど8時がタイムリミットかな。H市まで電車だと2時間ぐらいかかるね?」
「はぁ・・はい・・。」
「もし明日朝の仕事を手伝ってくれるって言うなら、今夜うちで泊まってもらったらどうかなってマキノと話してたんだ。さっきもいったけど朝5時からだから結構きついよ。それに、初対面の我々のうちに泊まるのは抵抗あるかもだけど・・。」
「・・・。」
「ま、8時のリミットまでヒロトと話すなり、ゆっくり考えといて。」

「あっ・・はい。」

「あとでマキノも話に来るからね。」

そう声をかけて、春樹は自分の席に戻って行った。




― ― ― ― ―


パーティーの会場では、ビンゴのカードが配られて「ちゅうもーく」と真央ちゃんが仕切りはじめた。
有希ちゃんがアシスタントとして横に控えていて、ミニサイズのビンゴマシンをカラカラカラとまわす。数字を書いた球がコロンと落ちてくると、それを取り上げて真央ちゃんに渡していくのだ。

マキノは、数字を聞くために少し静かになった参加者たちを見渡した。



真央ちゃんが数字を読み上げていく。人を惹きつけるアドリブがなかなかよい。盛り上げるのが上手。意外な才能だ。

ヒロトと美緒ちゃんにもカードが配られている。ヒロトは仕事をするので、美緒ちゃんが2枚分の数字を見ていた。美緒ちゃんは遠慮しようとしたが、会費ももらったし景品の数は余裕を見て用意したから大丈夫なのだ。
遊も美緒ちゃんと並んでカウンターの中にいて、真央ちゃんと自分のカードの2枚の数字を見ている。

未来ちゃんと直也くんは一番後ろで仲良く並んで壁にもたれて足を伸ばして座っている。

カズ君と後輩君は、有希ちゃんが連れてきた2人組のそばにちゃっかり席を陣取っていて、しゃべりかけてはウザがられている。でも二人組も男子二人をからかって楽しんでいる風でもある。

小学生の子ども達は、気に入ったごちそうを好きなだけ食べておなかが満足したらしく、ご馳走は放置状態。真央ちゃんのすぐ前に陣取って、それぞれのビンゴのカードをぷすぷすと穴をあけて「次は35番を出してー」とか「あと1個なのにー」とか「景品はどんなの?」と声をかけている。

シニアな大人の女性たちは自分たちがもってきたシャンパンやワインをシェアし合って、おしゃべりに忙しそうにしつつも、ちゃっかりカードを片手に持っていた。
敏ちゃんにいたっては、ウエイターとしてヒロトが近づいてくるたびにつかまえて「ヒロト君、しっかり頑張るんだよ。応援してるからね。」と何度も同じセリフを投げて絡んでいた。敏ちゃんはヒロトが気に入ってるのかな。

仁美さんと敏ちゃんと千尋さんの旦那さん達と達彦さん男性陣はみな知り合いらしくて、男ばかりが集まり日本酒と焼酎といった渋いお酒を空けつつ、ビンゴのカードも手に持たされている。


いくつかの番号が読み上げられていくと、寛菜ちゃんが「リーチ!」と叫んだ。
「早いねー。やるねぇ。」と真央ちゃんが応える。

ヒロトと遊は、空いた器を下げて2種のパスタをあちこちのテーブルに出して回っていた。

あちこちで「リーチィ」の声が上がり始めて、しばらくして最初の「ビンゴ!」と言う声が飛んだ。菜々ちゃんだった。リーチは寛菜ちゃんのほうが早かったのにね。
「一番の人は番号が1のプレゼントを取ってくださーい。何かな~?ゆっくり開けてみてね~。」
「つぎは?はやくー。次の番号何~?」
「次は24! 24だよー。」
「ビンゴ―!」
達彦さんが声をあげた。
めったにしゃべらない人がビンゴとか言うと笑えちゃう。
「達彦さんは番号2のプレゼントだよ。」

1番は、ペアのマグカップのセット。
2番は、抱き心地のいいビーズ入りのぬいぐるみ。
「おじさん似合わない!それちょうだーい。」という子どもの声が上がった。
「あとで達彦のおじちゃんに交換してくれるように丁寧にお願いするといいよ。」
真央ちゃんが子ども達をあしらっている。
「達彦のおじちゃーんおねが~い。」
子ども達も乗っている

「チョイスが抜群だね。」
と洗濯物のハンガーが当たったマキノは言った。
「ありがとうございまーす。実は自信ありました。」

「真央ちゃん、ビンゴ来たよー。」
遊が真央ちゃんを呼んでいる。バランスボールが当たったようだ。
「遊、私にダイエットさせる気!」
景品は自分達で選んで、遊にカードを見させて、理不尽だ。

春樹が当たったのは、クリスマスのアレンジメントだった。
「家にクリスマスらしいものが何もなかったから丁度いいね。」
「うん。」

マフラー。
女性用の手袋。
大袋のお菓子のセット。
あったかいくつした。
ボードゲーム。
文房具セット。
ラーメンのセット。
低反発枕。
デカラケのバドミントンセット。
ニワトリの形のスリッパ。

どんどん景品が行き渡ってゆく。

マキノは、みんながそれぞれ楽しんでいるのを眺めてとても満足していた。
スタッフ達にはそれぞれの家庭があり、主婦が家を空けることでいろいろ不自由なことや調整が必要な場合ある。楽しく快く仕事に来てもらえるのも家族の理解があってこそ。このパーティーだって、高校生が提案したことだが、こうしてたくさん集まってくれると、この店が愛されてるんだなと実感することができた。

マキノは、スタッフの家族たちの席を回って、挨拶をしなければと思った。



ビンゴが終わると、真央ちゃんと未来ちゃんはカラオケのリクエストカードを配りはじめた。ゲーム機を操作するとカラオケの画面になった。
「今時のゲーム機はこんなことまでできるんだ・・。」と感心する。
「マキノさん古い。もう随分前からあるんですよぉ。」

真央ちゃんが子ども達にウケそうなアニメソングを勝手に入れてイントロが流れ出すと「これ知ってる!」「歌いたい!」と、きゃあきゃあマイクの取り合いが始まった。

「何でもかんでも歌っちゃダメだよ。みんなが順番になるようにしないと。この曲はお姉ちゃんが入れたから、全員で歌いなさい。ほらほら、前に出てきてこっち向いて並んで。歌いながら次の曲も考えとくんだよ。大人も順番に入れてねー。」
「はーい。」
子ども達が耳慣れたアニメソングを歌い、大人達はそれにあわせて手拍子をした。



カラオケが始まると、美緒ちゃんはまた厨房に入って行った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

【完結】モンスターに好かれるテイマーの僕は、チュトラリーになる!

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 15歳になった男子は、冒険者になる。それが当たり前の世界。だがクテュールは、冒険者になるつもりはなかった。男だけど裁縫が好きで、道具屋とかに勤めたいと思っていた。 クテュールは、15歳になる前日に、幼馴染のエジンに稽古すると連れ出され殺されかけた!いや、偶然魔物の上に落ち助かったのだ!それが『レッドアイの森』のボス、キュイだった!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...