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94.春の、何の樹?
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春樹は、予定していた一泊旅行の前日の夕方、スバルWRX-S4を洗った。
ボディコーティングを施してあるので水洗いだけでいいらしい。白い車はきれいにすると見栄えがする。
朝早くから、マキノのテンションは高かった。
「車が綺麗になってるー。」
「かわいい奥さんとデートですから、頑張らないとね。」
「今日もいいお天気だね。よかった。海だね。海。」
ここ最近、マキノは落ち込み気味だったのに、急にどうしたんだろう。
昨日、遊も旅立ったようだし、泣いたりするのかなと思ったら随分ふっ切れてるなぁ。
マキノは今日も、オレが買ったトパーズのネックレスをつけていた。それこそワンパターン。それしかないとも言う。でも今日はスカートではなくジーンズだ。どちらでも似合う。活動的なほうががマキノらしい気がする。
一泊だから、荷物は少ない。
オレが車のエンジンを暖機している間に、マキノは家の戸締まりをして、助手席に乗り込んでドアをバタンと閉めた。
「では、出発しますよ。」
「はあい。」
返事が軽い。わかりやすく、ごきげんな様子だ。
「どの道から行く?国道を東向きに行って南下すれば距離は短いけど山越えなんだ。早く到着してゆっくりできるよ。国道を西に走ってから南下すれば、遠回りになって高速に乗らないとだめなんけど、途中に梅林がある。今ちょうど咲いてるかもしれない。」
宿泊するホテルだけは自分が予約したが、そこまでの過程はノープラン。マキノに判断を任せた。
「じゃあ、梅林へ。」
「OK。」
S4がなめらかに走りだす。
何がうれしいのか、ちらちらとこちらを見ては何か言いたげにしている。
「何を隠してるの?」
「うふふん・・・ばれた?」
だれにでもわかるわ。そんなにソワソワされたら。
「明日、春樹さんのお誕生日でしょう?わたし・・プレゼント用意してるんだ。」
「へえ。なに?焼酎よりうまいもの?」
「・・・・。」
あ・・・ぷすっとなった。そんなんじゃないわ!と言いたげだな。
なんかわかりやすくて、おもしろい。
「あ、春樹さんって、春の、何の樹なんだろうね。前から思ってたんだ。木ヘンに春ならツバキだけど、春に咲くなら、梅か、桜か。桃もあるね。ボケの花もあるよ。ボケって変な名前。ははは。他にもあるのかな。」
「そんなこと。考えたことなかったな。」
「そうだハナミズキも春だ。沈丁花も。コデマリもだな。ユキヤナギも!」
「ずいぶんたくさん知ってるね。」
「うふふん。ひとつ何か植えたいな。庭に・・。」
「・・それをオレの木にするとか言い出すんじゃないだろうね。」
「・・・・。」
返事が返ってこないってことは、図星だったか思考が止まっってるのか。
今日のマキノはおもしろいな‥・。
「まぁ・・そのうちどの木が春樹さんにふさわしいか考えるよ。」
「庭なんか、マキノの好きにすればいいさ。」
途中でコンビニに寄って、梅林でピクニックするためのおにぎりなどの軽いものを買った。財布は任せてほしいのに、その会計を、全部マキノがしてしまった。
自分たち夫婦は、普段マキノが経済的に自立しすぎてて、日常においては金銭面で自分の出る幕がない。ほとんど外食もしないし日用品もマキノが担っている。
一人で生活している時は、親が残してくれた家もあったし、カネなんてどうでもよくて、好きな車を買ったり、大きなバイクも買ったし、将来のことも特に考えずに気に入ったものを手に入れていたのは事実だ。
そもそも、自分が結婚するというビジョンが考えられなかったし。
子どもができれば、ちゃんとした設計が必要になるかもしれないが・・
マキノはオレの通帳に興味なさげだし、このまま必要になるときまで、そっとしておくかな。
将来なぁ・・。子どもなぁ・・。
少々弱気になるなぁ・・。
再びS4を走らせる。
国道からはずれて山道へと入り、梅林へと向かう。
2万本もの梅の木があるらしい。楽しみだ。
梅林があるのは知っていたが、実は自分も来るのは初めてだった。
標高が上がってきて、辺りの空気が変わってきた。と思ったら、まだ目的地に着く前から満開の梅がたくさん見え始めた。
駐車場の看板が見えた。
「どうする?山の上の方がビュースポットらしいけど、徒歩4kmだって、上りだから、片道1時間半もかかるな。きつい?」
「んー。急ぐ旅じゃなし、せっかくだから歩こうよ。ジーパンにシューズで正解だったね。途中で面倒になったら引き返してもいいんじゃない?」
マキノがやる気になっているので、山の中腹の駐車場に車を停めて歩くことにした。
車を降りると、もう甘い梅の花の香りがした。春の香りだ。
土曜日という事もあって、観光客がそこそこ。でも、それほど混雑していないのは、徒歩で散策の労力のきつさを物語っているのかもしれない。
車に積んであったデイバッグに、コンビニで買った軽食と飲み物を放り込んで背負った。
「準備がいいねぇ。」
「バイクにも乗るときにいるし・・。両手が空くからね。」
手を差し出すと、マキノもオレの手を取った。
けっこうな登り道だが、たかが散策。自分もマキノも体力に不安はない。
しっかりと手をつないで、歩きはじめた。
― ― ― ― ―
山を下る人とすれ違うたびに、道の横幅を占領しないように、マキノは手はつないだまま半歩斜め後ろにさがった。
歩きながら春樹に話しかける。
「ここの梅は、白ばっかだね。」
「種類によって、咲く時期が違うんじゃないか?」
梅の白い花は、サクラほどの圧倒的な迫力はないけれど、清楚な白さと山を覆う梅の香りが幻想的だ。
「色はどっちでもいいや。この匂い好きだな~。春の樹は・・梅かな~・・・。」
「・・・・。なんかそれ、やめてほしい。」
「なんでよ。」
「だって・・・うめさん?・・って目指すイメージじゃないと思うんだよね。」
「・・・ぷぷぷぷっ。・・どっちかというと、春樹さんは、杉や桧みたいなイメージだね。」
「そっちのほうが・・まだいいか。決して梅が嫌いなわけじゃないんだけど。」
途中の展望スポットの広場で、家族連れが弁当を広げていた。
他愛ない話をしながらこの景色と香りを春樹さんと共有する幸せ・・・。
マキノは、春樹の手の大きさとぬくもりを感じながら、目的地まで途中で休まずに歩き続けた。
「少し早いけど、ここらでお昼にしちゃおうよ。」
「そうだな。あそこは?」
二つほど並んでいた東屋は、他の家族連れが占領していたので、石の階段のような段差に腰をかけておにぎりを食べることにした。
景色を眺めながら、焼きタラコのおにぎりをほおばりながら会話が続く。
「ねえ春樹さん。」
「なに?」
「ずっと前にさ、学校行くのいやだって言ってた子は、どうなったの?」
ふふっ と春樹は笑った。
「どうにもなってない。結局優香は一日も休まず機嫌よく学校に来てるしな。だからとりあえず、それでいいと思ってる。」
「問題は解決したの?」
「実はまったく解決してないね。子どもらの様子が深刻だと思ったらその時の問題を取り上げてクラス全体の話にするんだ。個人の話としてじゃなくね。んでまぁ、互いに思いやろうねとか、傷つけちゃダメとか話し合わせるんだけど、一時は表面おとなしくなる。でも心に響いてないから同じだね。」
「ええ?じゃあお母さんとはどうなったの?時々電話してたんでしょ?」
「冬休みが終わってからはもう、何も言ってこないな。」
「大丈夫なのかな?」
「当時と違うグループができちゃあ、あちこちでもめてるよ。」
「・・・ダメじゃん。」
「菜緒ってのがね、やっぱちょっとくせ者でね。いつもボスみたいになっちゃうんだな。心底意地悪な性分ってわけでもなく本人は自分が思ったことを言ってるだけで、仕切ってる気もいじめてる気もないね。女子は難しいね。」
「まぁ、女子はね・・おませだしね。」
「うん・・徒党を組んだり、孤立したり。いずれ、どの子も大人になるまでに学習するんじゃないかなぁ・・。」
「ボスって、どういうこと?」
「関係性は我々が想像してるより繊細だよ。グループの中の自分の立場を、意識する子もしない子もいるし。過渡期なんだよ。子どもによって成長度も違うし。・・そのうち対面や外聞を気にして本音言わなくなるんだから,子どもの間ぐらい、地が出せる環境もあっていいと、オレ思うんだけどね。」
「振り回されるまわりの子が大変じゃない?」
「それも学習だろ。大人になってもどこにでもいるだろ?マキノだって苦手な上司いたって言ってたじゃないか。」
「いたいた。」
「そういう耐性も潜在的に養うんだって。」
「そうかなぁ。対人関係構築するとき怖くなって萎縮しちゃわないかな。」
「あーまぁね。その辺の見極めはね、むつかしいのですよ。ひとりひとりをよーく見てないとね。」
「そうか。そういえば春樹さん、直感あるしね・・。」
「ふっ、オレなんか全然ダメだよ・・。オレが今年、担任を持っているのは4年生だろ。6年生になるとおもしろいけどややこしいしな~。中学生ともなるとどうなるんだろうな、めんどくささに気が遠くなるな。」
「先生って、大変な職業だねー・・。」
「いっしょだよ、なんでも。どんな職業でも同じさ。」
「そっかな。」
春樹さんは 簡単に話しを終わらせたけれど、きっともっと慎重に子ども達を見てるんだろうと思う。あの思いつめてたお母さんのことも。
「さあ、時間食ったね。行くか?」
「うん。」
下りの道でも、雲海のように山いっぱいに広がる梅を堪能して、2人また手をつないで山道を降りて行った。
春樹さんのS4は、梅林をあとにし、元の国道へと戻り海を目指して走る。
ついさっきまで手をつないでいたのに、マキノは車に乗ってからもまた春樹さんに触れていたくて、「ちょっと左手貸して。」と小さな声で言った。
春樹は怪訝な顔をして「どしたの?」と言いながらも、手相でも見てもらうように手のひらを上向きで助手席の方へ差し出した。
大きな手。器用そうな長い指。マキノはその手のひらを自分の両手で包んだ。
「マキノ・・・。」
春樹さんは何か言いかけたが、高速に乗るために車線を変更するのに意識がそちらへと向いたようだった。
ETCの音声が流れる。注意して聞いていないので、何を言っているのかよくわからなかった。
「運転のじゃまかな?」
「いや。大丈夫。」
料金所を超えて、車のスピードがぐぐんっと上がっていく。
こうしてゆっくり助手席に乗っていると、初めてデートした日のことを思い出す。
春樹さんが、運転しているだけでかっこよく見えたし、ドキドキした。
あの日から、何も変わらない。
ううん。変わらないどころか・・ずっと見守られて、助けられて、愛されて・・あの頃よりももっと・・。
私は?
私は、春樹さんを、幸せにしてるのかな・・・。
少し不安になる。
「高速道路はちょっと山側を走ってるから見えないけど、もう海の近くまで来てるんだよ。」
「へえ。なんだかちょっとワクワクするね。」
防音壁で景色はあまりよくわからない。前も両側にも山が見えているだけ。
快適な車だなぁ。滑るように走る。パワーもある。
走っているだけで気分が上昇する感じ。
「なんでだろうね。海ってだけでちょっと楽しいのは。」
「山育ちの人間のサガだね。」
「どこか海の見える公園、あるかな・・。」
「ナビで探してみようかな。んーと・・・。」
マキノがナビの捜査に苦戦している間に、春樹がSAの看板を見つけた。
「次のSAで休憩するか?」
「あ、それもいいね。」
「海が見えるかもよ。」
「うん。」
SAに入って行くとと、車で走っている時には見えなかった海が見えた。
「何か飲む?」
「そうだな。甘いものにしようかな。」
「じゃあココア?」
「うん。」
カフェレストランの窓際の席に座って、ココアをふたつ、マキノが注文した。
ボディコーティングを施してあるので水洗いだけでいいらしい。白い車はきれいにすると見栄えがする。
朝早くから、マキノのテンションは高かった。
「車が綺麗になってるー。」
「かわいい奥さんとデートですから、頑張らないとね。」
「今日もいいお天気だね。よかった。海だね。海。」
ここ最近、マキノは落ち込み気味だったのに、急にどうしたんだろう。
昨日、遊も旅立ったようだし、泣いたりするのかなと思ったら随分ふっ切れてるなぁ。
マキノは今日も、オレが買ったトパーズのネックレスをつけていた。それこそワンパターン。それしかないとも言う。でも今日はスカートではなくジーンズだ。どちらでも似合う。活動的なほうががマキノらしい気がする。
一泊だから、荷物は少ない。
オレが車のエンジンを暖機している間に、マキノは家の戸締まりをして、助手席に乗り込んでドアをバタンと閉めた。
「では、出発しますよ。」
「はあい。」
返事が軽い。わかりやすく、ごきげんな様子だ。
「どの道から行く?国道を東向きに行って南下すれば距離は短いけど山越えなんだ。早く到着してゆっくりできるよ。国道を西に走ってから南下すれば、遠回りになって高速に乗らないとだめなんけど、途中に梅林がある。今ちょうど咲いてるかもしれない。」
宿泊するホテルだけは自分が予約したが、そこまでの過程はノープラン。マキノに判断を任せた。
「じゃあ、梅林へ。」
「OK。」
S4がなめらかに走りだす。
何がうれしいのか、ちらちらとこちらを見ては何か言いたげにしている。
「何を隠してるの?」
「うふふん・・・ばれた?」
だれにでもわかるわ。そんなにソワソワされたら。
「明日、春樹さんのお誕生日でしょう?わたし・・プレゼント用意してるんだ。」
「へえ。なに?焼酎よりうまいもの?」
「・・・・。」
あ・・・ぷすっとなった。そんなんじゃないわ!と言いたげだな。
なんかわかりやすくて、おもしろい。
「あ、春樹さんって、春の、何の樹なんだろうね。前から思ってたんだ。木ヘンに春ならツバキだけど、春に咲くなら、梅か、桜か。桃もあるね。ボケの花もあるよ。ボケって変な名前。ははは。他にもあるのかな。」
「そんなこと。考えたことなかったな。」
「そうだハナミズキも春だ。沈丁花も。コデマリもだな。ユキヤナギも!」
「ずいぶんたくさん知ってるね。」
「うふふん。ひとつ何か植えたいな。庭に・・。」
「・・それをオレの木にするとか言い出すんじゃないだろうね。」
「・・・・。」
返事が返ってこないってことは、図星だったか思考が止まっってるのか。
今日のマキノはおもしろいな‥・。
「まぁ・・そのうちどの木が春樹さんにふさわしいか考えるよ。」
「庭なんか、マキノの好きにすればいいさ。」
途中でコンビニに寄って、梅林でピクニックするためのおにぎりなどの軽いものを買った。財布は任せてほしいのに、その会計を、全部マキノがしてしまった。
自分たち夫婦は、普段マキノが経済的に自立しすぎてて、日常においては金銭面で自分の出る幕がない。ほとんど外食もしないし日用品もマキノが担っている。
一人で生活している時は、親が残してくれた家もあったし、カネなんてどうでもよくて、好きな車を買ったり、大きなバイクも買ったし、将来のことも特に考えずに気に入ったものを手に入れていたのは事実だ。
そもそも、自分が結婚するというビジョンが考えられなかったし。
子どもができれば、ちゃんとした設計が必要になるかもしれないが・・
マキノはオレの通帳に興味なさげだし、このまま必要になるときまで、そっとしておくかな。
将来なぁ・・。子どもなぁ・・。
少々弱気になるなぁ・・。
再びS4を走らせる。
国道からはずれて山道へと入り、梅林へと向かう。
2万本もの梅の木があるらしい。楽しみだ。
梅林があるのは知っていたが、実は自分も来るのは初めてだった。
標高が上がってきて、辺りの空気が変わってきた。と思ったら、まだ目的地に着く前から満開の梅がたくさん見え始めた。
駐車場の看板が見えた。
「どうする?山の上の方がビュースポットらしいけど、徒歩4kmだって、上りだから、片道1時間半もかかるな。きつい?」
「んー。急ぐ旅じゃなし、せっかくだから歩こうよ。ジーパンにシューズで正解だったね。途中で面倒になったら引き返してもいいんじゃない?」
マキノがやる気になっているので、山の中腹の駐車場に車を停めて歩くことにした。
車を降りると、もう甘い梅の花の香りがした。春の香りだ。
土曜日という事もあって、観光客がそこそこ。でも、それほど混雑していないのは、徒歩で散策の労力のきつさを物語っているのかもしれない。
車に積んであったデイバッグに、コンビニで買った軽食と飲み物を放り込んで背負った。
「準備がいいねぇ。」
「バイクにも乗るときにいるし・・。両手が空くからね。」
手を差し出すと、マキノもオレの手を取った。
けっこうな登り道だが、たかが散策。自分もマキノも体力に不安はない。
しっかりと手をつないで、歩きはじめた。
― ― ― ― ―
山を下る人とすれ違うたびに、道の横幅を占領しないように、マキノは手はつないだまま半歩斜め後ろにさがった。
歩きながら春樹に話しかける。
「ここの梅は、白ばっかだね。」
「種類によって、咲く時期が違うんじゃないか?」
梅の白い花は、サクラほどの圧倒的な迫力はないけれど、清楚な白さと山を覆う梅の香りが幻想的だ。
「色はどっちでもいいや。この匂い好きだな~。春の樹は・・梅かな~・・・。」
「・・・・。なんかそれ、やめてほしい。」
「なんでよ。」
「だって・・・うめさん?・・って目指すイメージじゃないと思うんだよね。」
「・・・ぷぷぷぷっ。・・どっちかというと、春樹さんは、杉や桧みたいなイメージだね。」
「そっちのほうが・・まだいいか。決して梅が嫌いなわけじゃないんだけど。」
途中の展望スポットの広場で、家族連れが弁当を広げていた。
他愛ない話をしながらこの景色と香りを春樹さんと共有する幸せ・・・。
マキノは、春樹の手の大きさとぬくもりを感じながら、目的地まで途中で休まずに歩き続けた。
「少し早いけど、ここらでお昼にしちゃおうよ。」
「そうだな。あそこは?」
二つほど並んでいた東屋は、他の家族連れが占領していたので、石の階段のような段差に腰をかけておにぎりを食べることにした。
景色を眺めながら、焼きタラコのおにぎりをほおばりながら会話が続く。
「ねえ春樹さん。」
「なに?」
「ずっと前にさ、学校行くのいやだって言ってた子は、どうなったの?」
ふふっ と春樹は笑った。
「どうにもなってない。結局優香は一日も休まず機嫌よく学校に来てるしな。だからとりあえず、それでいいと思ってる。」
「問題は解決したの?」
「実はまったく解決してないね。子どもらの様子が深刻だと思ったらその時の問題を取り上げてクラス全体の話にするんだ。個人の話としてじゃなくね。んでまぁ、互いに思いやろうねとか、傷つけちゃダメとか話し合わせるんだけど、一時は表面おとなしくなる。でも心に響いてないから同じだね。」
「ええ?じゃあお母さんとはどうなったの?時々電話してたんでしょ?」
「冬休みが終わってからはもう、何も言ってこないな。」
「大丈夫なのかな?」
「当時と違うグループができちゃあ、あちこちでもめてるよ。」
「・・・ダメじゃん。」
「菜緒ってのがね、やっぱちょっとくせ者でね。いつもボスみたいになっちゃうんだな。心底意地悪な性分ってわけでもなく本人は自分が思ったことを言ってるだけで、仕切ってる気もいじめてる気もないね。女子は難しいね。」
「まぁ、女子はね・・おませだしね。」
「うん・・徒党を組んだり、孤立したり。いずれ、どの子も大人になるまでに学習するんじゃないかなぁ・・。」
「ボスって、どういうこと?」
「関係性は我々が想像してるより繊細だよ。グループの中の自分の立場を、意識する子もしない子もいるし。過渡期なんだよ。子どもによって成長度も違うし。・・そのうち対面や外聞を気にして本音言わなくなるんだから,子どもの間ぐらい、地が出せる環境もあっていいと、オレ思うんだけどね。」
「振り回されるまわりの子が大変じゃない?」
「それも学習だろ。大人になってもどこにでもいるだろ?マキノだって苦手な上司いたって言ってたじゃないか。」
「いたいた。」
「そういう耐性も潜在的に養うんだって。」
「そうかなぁ。対人関係構築するとき怖くなって萎縮しちゃわないかな。」
「あーまぁね。その辺の見極めはね、むつかしいのですよ。ひとりひとりをよーく見てないとね。」
「そうか。そういえば春樹さん、直感あるしね・・。」
「ふっ、オレなんか全然ダメだよ・・。オレが今年、担任を持っているのは4年生だろ。6年生になるとおもしろいけどややこしいしな~。中学生ともなるとどうなるんだろうな、めんどくささに気が遠くなるな。」
「先生って、大変な職業だねー・・。」
「いっしょだよ、なんでも。どんな職業でも同じさ。」
「そっかな。」
春樹さんは 簡単に話しを終わらせたけれど、きっともっと慎重に子ども達を見てるんだろうと思う。あの思いつめてたお母さんのことも。
「さあ、時間食ったね。行くか?」
「うん。」
下りの道でも、雲海のように山いっぱいに広がる梅を堪能して、2人また手をつないで山道を降りて行った。
春樹さんのS4は、梅林をあとにし、元の国道へと戻り海を目指して走る。
ついさっきまで手をつないでいたのに、マキノは車に乗ってからもまた春樹さんに触れていたくて、「ちょっと左手貸して。」と小さな声で言った。
春樹は怪訝な顔をして「どしたの?」と言いながらも、手相でも見てもらうように手のひらを上向きで助手席の方へ差し出した。
大きな手。器用そうな長い指。マキノはその手のひらを自分の両手で包んだ。
「マキノ・・・。」
春樹さんは何か言いかけたが、高速に乗るために車線を変更するのに意識がそちらへと向いたようだった。
ETCの音声が流れる。注意して聞いていないので、何を言っているのかよくわからなかった。
「運転のじゃまかな?」
「いや。大丈夫。」
料金所を超えて、車のスピードがぐぐんっと上がっていく。
こうしてゆっくり助手席に乗っていると、初めてデートした日のことを思い出す。
春樹さんが、運転しているだけでかっこよく見えたし、ドキドキした。
あの日から、何も変わらない。
ううん。変わらないどころか・・ずっと見守られて、助けられて、愛されて・・あの頃よりももっと・・。
私は?
私は、春樹さんを、幸せにしてるのかな・・・。
少し不安になる。
「高速道路はちょっと山側を走ってるから見えないけど、もう海の近くまで来てるんだよ。」
「へえ。なんだかちょっとワクワクするね。」
防音壁で景色はあまりよくわからない。前も両側にも山が見えているだけ。
快適な車だなぁ。滑るように走る。パワーもある。
走っているだけで気分が上昇する感じ。
「なんでだろうね。海ってだけでちょっと楽しいのは。」
「山育ちの人間のサガだね。」
「どこか海の見える公園、あるかな・・。」
「ナビで探してみようかな。んーと・・・。」
マキノがナビの捜査に苦戦している間に、春樹がSAの看板を見つけた。
「次のSAで休憩するか?」
「あ、それもいいね。」
「海が見えるかもよ。」
「うん。」
SAに入って行くとと、車で走っている時には見えなかった海が見えた。
「何か飲む?」
「そうだな。甘いものにしようかな。」
「じゃあココア?」
「うん。」
カフェレストランの窓際の席に座って、ココアをふたつ、マキノが注文した。
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