マキノのカフェで、ヒトヤスミ ~Café Le Repos~

Repos

文字の大きさ
107 / 110

107.少しずつ、確実に進む、もろもろについて。

しおりを挟む
連休が明けた。

休日でなくても、カフェはまずます繁盛していた。
地元の人にもなじんできたし、観光やハイキングの休憩所として対外的にも周知されてきているように思われる。

そして、朝市メンバーがしっかりと入ってくれるおかげで人員の確保が安定して、カフェだけでなく、ヒロトの工房もうまく回っている。

乃木阪さんの大変さんも加味されることになり、お世話をしてくれるお礼も連携システムに組み込むことにした。
乃木坂さんは、自分が入ると、カフェに入りたい人のサイクルが遅くなるなどと言ってはじめは遠慮していたけれども、実のところはやってみたかったようで、最近は嬉々として赤いエプロンをつけてコーヒーを淹れ始めた。


そうなると、おかげでマキノがいなくてもリーダーシップも取ってくれるし、ますますスタッフの体制が盤石なものとなった。

一方、一度うちの正式な従業員になりそこねた小百合さんは、ことのほかワークショップの運営が気に入ったようで、新たな経営の方向を担ってもらうため、再度昇格してもらって、お店のスタッフとしてワークショップの責任者になってもらうことになった。

このワークショップを始めるようになってから、得意技を持っている人がわらわらと現れてきて、今まで眠っていた素晴らしいポテンシャルをもつ人材が、じわじわと表舞台に出てこようとしている。
一人で楽しむしかなかった自分の得意な事を、人と共有できるというのは思っていたよりも楽しいものだ。
マキノは、そんな場所を作れたことが満足だった。





ヒロトの工房は、開始した直後、意地になってスーパー出しをノンストップ頑張っていたようだったが、マキノの勧めで月に2回、スーパー出しも休みをとることになった。及川さんに間に入ってもらって、同じような商品を卸している他の業者と調整し、それぞれが休みの時には少し多めに置かせてもらうようになった。
そして、ヒロト自身の休みも週に1回は取りなさいと言って、ヒロトが抜ける日のスーパー出しはマキノが替わって担当するようになった。
工房でも仕事の体制は整ってきていて、ヒロトが大事なところだけ段取りさえしておけば、カフェ同様マキノがいなくても大丈夫なぐらいにスタッフが育って来ている。


ヒロトと美緒は、スーパー出しの休みの日に続いて、マキノに任せる日をくっつけて2日連続の休みを取り、美緒の実家に挨拶に行き、一泊してきた。
結婚の許しをもらって、一緒に住むことも承諾を得た。事後報告だけれども仕方ない。

ヒロトのお父さんのことは一気にカタはつかないと思うが、解決するのを待たずに籍を入れることを考えているようだ。ヒロトの性格でここまで話しを進めることができたことは、よく頑張ったねと褒めてあげたいし、ここまで来たら美緒が何とかするだろう。

その、借金の元凶のお父さんは・・悪いお友達がいなくなったせいか、品行方正に仕事をしてる。
自分の給料はすべて召し上げられて気の毒でもあるが、それを自業自得とも言うわけで、お母さんのパートのお給料で食べさせてもらっているので、どうも頭が上がらない状態。
でも実際のところは、あいかわらず時々子どものようにワガママを言っているし、好物のイカの天ぷらや、ナスビの煮物を作ってもらって、結局は家での居心地は悪そうではない。

ヒロトのお母さんは、長年の介護から解放されて、近所のパン屋さんでパートを始めた。でもインターネットのオークションも縫い物も継続している。
「やりたいことはやらせてもらうわよ。」と、いつものように気楽に笑っているらしい。

実は、先日のお香典で、まずは友人知人への借金を何件かまとめて返せたようだ。
しかし、それで賄うはずだった法事や香典返しの為の費用は、今後のヒロトの稼ぎで補填することになった。
ヒロト曰く、“じいちゃんバチアタリなことしてごめんね。敬う気持ちがないわけではないけど、今まだ生きているもののため効率を重視させてくれ”ということらしい。

この調子なら両親も死ぬまでは生きていけそうだし?まじめに仕事してさえいれば、自分が結婚してもまともな生活はやっていけそうだ・・とヒロトは胸をなでおろしている。






6月10日、時の記念日は、マキノと春樹さんの結婚一周年記念日だ。

去年のこの日に、2人で届けを出して籍を入れて、普通に仕事をして、その日から一緒に暮らし始めた。
ただそれだけのことだが、大事な日だ。

今年も去年と同じように、派手な事はせずに、2人でケーキを食べてお祝いをすることにした。
お互いへのプレゼントは、申し合わせて、しないことになった。
記念日のたびにプレゼント合戦になっちゃうと楽しくないから、お互いが欲しいものを欲しい時にプレゼントしようねと決めたのだ。

「春樹さん、一年間ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。」
「こちらこそ。あれ?ケーキは1個しか買わなかったの?」
「うん。」
「インスタントコーヒーならオレが淹れるよ。」
「ありがとう。あーでも私、今夜はホットミルクがいいな。」
「わかった。」
マキノは特に理由もなく自分では動かずに、ソファーに座ったままひざを抱えて、春樹さんの動きを観察しいていた。

「もうすぐニンジャの車検が切れるんだね。」
「そうだよ。・・・つきあうまでのマキノを乗せたっていう付加価値がついてるから、多少名残惜しいね。」
「私も・・春樹さんとワンセットの思い出にになっちゃったから無くなっちゃうのは寂しいな。」
「あいつはそう思ってもらえて幸せなバイクってことだ。オレも大事にしてきたし、事故歴もなし、立ちごけの一回もしてないしな。」
「いいバイクだったね・・。」


春樹さんはホットのコーヒーを持ってマキノの横に腰かけた。
マキノの分は、注文通りのミルクだ。
「再来週の月曜日に、山本モータースに引き取りに来てってって言ってあるんだ。そんなに寂しがらなくても、マキノのバイクがあるだろ?」
「そうなんだけど。」
「そもそもマキノは、こっちに来てからバイクにほとんど乗ってないだろ?」
「・・そーだけど。」
マキノの口がとんがってきた。
「古くなればどっちにしても買い換えるのに、そんなに気にしなくていいって。」
「むーん。」


「マキノ。」
「はい?」

「オレ、マキノと会えてよかったよ。」

「はぅ・・。」

「これからもよろしく。」

「・・・うん・・・。」

春樹さんはマキノの頭を引き寄せるようにして軽くキスをした。



「マキノのバイクが古くなったら、次のバイクはオレに選ばせてね。」
「・・・ぁ。・・・はいはい。」







― ― ― ― ―



7月。

夏本番に届かない,梅雨の終わる手前のじめじめした日。
水曜日はカフェの定休日。

春樹さんが出勤する時間になっても体がだるくて起きれない。
それに気づいた春樹さんが、マキノに春樹が声をかけてきた。
「オレ、覚えがあるんだよ。去年の今ぐらいの時期にマキノって電池切れを起こしたよね。」
「ぅ・・・ぅるさいなり。」

「熱は?冬に風邪もひかなかったのに、今ぐらいの季節に弱いのかな?」
春樹さんはそう言って、ベッドに腰掛けてマキノのおでこに手を当てた。
「あれ、ちょっと微熱がありそうだな。・・・ほんとに具合悪いの?」
「具合よかったら起きてるよ・・。たいしたことはないけど、体が休息を欲してる感じ。」
「病院行く?つれて行ってあげようか?」
「それほどじゃない。半日寝たら回復する・・と思う。」
「ホント?」
「ほんと。強がってはいません。」

「・・じゃあゆっくりしてて。オレ行くよ?」
「うん。」
マキノは春樹さんのポロシャツのすそを軽くつかんでいた。もう少し一緒にいたいような気がしたのだ。
それ気づかず立ち上がったが、つん・・と手が離れる瞬間のわずかな抵抗を感じたのか、春樹さんは振り返った。

やさしい・・いたわるような目で顔をのぞきこまれた。
「どした?」
マキノは、なんでもない・・と首を振った。
春樹さんはもう一度ベッドに腰かけて、マキノのおでこにかかっている髪の毛をかきあげ、キスをしてくれた。
「行ってくるよ。」
マキノは黙ってうなずいた。


午前中はそのままうつらうつらと寝ていて、お昼ごろにのそのそと起きだしシャワーを浴びて、お素麺でもゆでようか・・と考えているとき、遊からラインメッセージが入った。
夏休みに遊びに来るらしい。
真央も一緒って? なんだとぉ?
あの二人・・進展があったのかな。


マキノは、2人が帰って来たら何を食べさせようかな・・と考え始めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

【完結】モンスターに好かれるテイマーの僕は、チュトラリーになる!

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 15歳になった男子は、冒険者になる。それが当たり前の世界。だがクテュールは、冒険者になるつもりはなかった。男だけど裁縫が好きで、道具屋とかに勤めたいと思っていた。 クテュールは、15歳になる前日に、幼馴染のエジンに稽古すると連れ出され殺されかけた!いや、偶然魔物の上に落ち助かったのだ!それが『レッドアイの森』のボス、キュイだった!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...