マキノのカフェで、ヒトヤスミ ~Café Le Repos~

Repos

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108.町の小さな花火大会

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御芳町では、毎年7月末に花火大会がある。
ヒロトのお店の2階からも、かろうじて小さく見えると大家さんの南田が教えてくれた。
遊は、真央に花火を見に行こうと誘われて帰ってくることにしたらしい。



2人は、バスに乗って帰って来て、3時過ぎにカフェに顔を出した。
「ただいまー。あちいなぁ。」
「おかえり、遊。おかえり、真央。」
「これはみんなにお土産のロールケーキ。保冷剤は山盛り入れたけど大丈夫かな。」
遊は、たくさんあった荷物の中の一つを座敷のテーブルに置いた。

「作ったの?」
「ううん。オレは作ってない。学校の先生と先輩らが作ったの。1年生はまだ外に出す物の製造はできないけど販売実習があるんだ。」
「へぇ。」
「こっちは、マキノと春樹さんにお土産。」
「なになに?」
手渡された袋を開けると、パンのいい匂いが広がった。
デニッシュ、カレーパン、ポテトのパン、ウィンナーパン、エピ、メロンパン、食パン。
「うわ、いっぱい。そしてなんていい匂い。焼き立て?」
「そう。今日がその販売実習の日だったんだ、近所では人気なんだよ。味も結構いいし安いからね。開始から2時間ぐらいで売りきれるよ。」
「へ~え・・・。コーヒーしようか?カフェオレがいいか。」
「うん。あっオレ、淹れてもいい?」
「やってやって。みんなでケーキ食べよう。」

「あ。こんにちは。」
遊は、カウンターの中に入ろうとして、朝市メンバーの有子さんが赤いカフェエプロンをして中にいるのに初めて気付いたのだ。
「どうぞどうぞ。」
遊の顔を知っているので、有子さんは先輩に道を譲るように場所を開けた。
「ありがとうございます。真央は、カフェオレどうする?」
「あーどうしよ。私もパンを買ったから、実家に持って帰りたいんだ。でも、遊のカフェオレは久しぶりだから、いただこうかな。」
「OK。じゃあ全部でいくつだ?マキノも?」
「私はさっき飲んだところだから、誰かのを一口ちょうだい。」
「いいよ。じゃあ他はコーヒーふたつにカフェオレ3? 淹れるね。」

遊は、サイフォンにフィルターをつけてミルクを温める小鍋を出して用意をしはじめた。
「三カ月しかたってないのに、なつかしすぎる。手が順番を覚えてるよ・・。」
「・・真央ちゃんもご飯食べて行けば?」
「あ、いえ。ここのごはん食べたいのはやまやまだけど。今日は食べて帰ったら母さんに怒られるから。」
「ふふっ、そうねぇ。お母さんも待ってるだろうねぇ。」
「へへへ・・オレ、マキノのごはん久しぶりだな。」
「じゃあ、食べる分は働いてね。」
「わかってるよ。」


「あっそうだ。遊、今日ここで泊まるつもりだった?」
「うん、そう思ってたけど・・」
「下の部屋はね、いろいろあって、今お泊りできない状態になってるから、うちに泊まりにおいで。」
「へ~・・。なんで?」
「ワークショップの用意してあるのよ。遊が寝るぐらいは本当はかまわないんだけど。人様のものをお預かりしているから、ちゃんとけじめをつけといた方がいいかなって思って。」
「んー。わかった。」

遊が出て行く時に、居場所の話をしたのに、泊まるところがなくなっていたらがっかりするかしらと思ったが、遊は機嫌よく仕事をし、真央はカフェオレだけ飲むと実家へ帰って行った。
マキノのごはんはなんだろなーという声が聞こえてくる。気にしている様子はない。


カランカラン
夕方になって、春樹さんが帰ってきた。
「ただいま。お、帰って来たな遊。」
「ちーっす。」
「どうだい?学校は?」
「楽しいんですよ~それが。」
「そりゃよかった。」
「お土産もらったよ。おいしそうなパンなの。」
「ほう、ありがとうね。今日泊まりに来るんだろ?朝ごはんが楽しみだな。」
「お世話になりまーす。」

「さて、PTAの巡回があるんだ。早めに食べて出るよ。マキノのバイク借りるね。」
「はいはい。帰りは?」
「10時ぐらいかな。」
「去年そんなに遅くなかったよ?」
「今年は巡回当番に当たってるんだ。去年は違ったから早めに帰っただけ。」
「そっかぁ・・。じゃ、遊はどうやってリバーサイド広場まで行くの?」
「真央のお母さんが送り迎えしてくれるんだって。」
「そりゃありがたい。」
・・ということは。
もう今日、ご飯食べたあとは誰のことも気にせず好きにすればいいのね。

遊から帰省?の連絡があってから考えていた献立は、メインがローストポーク。トマトのサラダ。スープは暑いからビシソワーズ。夏野菜をいっぱいもらったので、ナスの揚げ浸しと、ピーマンのおじゃこ炒めも追加した。

「ああ、マキノの味だぁ。」
遊が喜んでくれると本望だ。

「マキノは、花火は誰と行くの?」
「そうだなー、ヒロトの店からちょっと見せてもらおうかな。」
「ヒロトの店?工房の事?」
「お・・遊は情報がだいぶ遅れてるね。ほら前に言ってたお店に引っ越ししたんだよ。」
「ああ・・そういや。ちょうどそんなこと言ってたね。」
「ヒロトはね、美緒ちゃんと婚約して、一緒に住んでるんだよ。」
「へ~え。」

急ぎ気味にご飯を食べていた春樹が立ち上がった。
「じゃあオレ、先に行ってくるね。」
「いってらっしゃい気をつけて。」


それから間もなく真央のお母さんが迎えに来て、遊が出かけて行き、早めに片付けも済ませてお店を閉めると、マキノは自分の車でヒロトの工房へと向かった。

マキノの車は配達用に使ってもらうつもりでいたが、悦子さんと佳子さんは運転しなれた自分の車のほうがいいと言って、あまり使わない。
それと、カフェから少し距離が離れたことで、車そのものを移動させるのが面倒になった。
どうしても使う時は、大抵千尋さんが取りに来てくれる。



「ヒロト。こんばんは。花火を見に来たよ~。」
「はあいどうぞ。マキノさんいらっしゃい。」
「ご飯はもう食べた?」
「済みました。」

「遊が帰って来てるの。お土産のパンおすそ分けするね。」
「そうなんっすか。ありがとうございます。寄るように言ってくださいよ。」

「うん。今日は真央ちゃんと花火見るんだってさ。ここの2階の座敷からも,ちょっとだけ花火見えるよって教えてもらったんだ。」
「そうですってね。8時からって言ったかな。」
美緒は,時計を見て厨房に向かって叫んだ。
「ヒロト~。あと20分ぐらいで花火始まるよ~。」
「ほーい。」

「なんだかんだ言って、美緒ちゃんここにすごく馴染んでるね。」
「うふふっ。」

マキノは2人より先に2階の座敷に上がった。
窓は大きくて、障子とガラスの2重になっていた。

暗い方が花火はよく見えるような気がして、電気をつけずに外を眺めていたら、美緒ちゃんがスイカを切って持って来てくれた。
かいがいしい感じがとてもいい。何と言っても・・幸せそうだ。


「ここね、窓を開けても意外と虫も蚊も飛んでこないんですよ。」
「電気をつけないからよね。」
その後からヒロトも上がってきた。
「スイカいただきまーす。ヒロトはこのお店はいつからするの?」
「普通の営業ですか?ええと、宴会の予約が入ったんですよ。20人ぐらい。」
「へえ、すごいじゃない。」
「いやぁ・・朝市メンバーの一人が法事をやりたいらしくて、倉庫にあった幕の内の弁当箱で料理作ってくれってことなんすよ。」
「うわあ・・得意の和食だね。」
「得意ってわけでもないんすけど・・・。」
「お手伝いが必要なら言って。私もお料理見てみたいし、やり方も知りたい。」
「是非、お願いします。マキノさんがいてくれたら心強いすよ。」
「何言ってんのよ。私は素人。ヒロトはここの大将でしょう。」
「いやいやいや・・・。」


パンパン パンパン と言う音が小さく響いた。
「あっ、始まったのかな?」
「あー見える見える。ぷっ。半分しか見えてない。やっぱ遠いんだ。」

花火は山の影に隠れそうなところに小さく見えていた。
低い位置に上がった花火などは見えないぐらいだ。

「確かに・・・見えるといえば見えるね。」
はは・・と美緒とマキノが笑った。
「明日の仕込みは?」
「ほぼ終わってますよ。季節柄、傷みやすいから。夜は早めに終わって、早起きしてやってます。家から通っていた時のことを考えたら、ここに住みながら仕事できてほんっとありがたいっすね。倍の仕事ができますよ。」
「でも、いつでも仕事できるって思ってダラダラ続けてちゃダメなんだよ。」
「そうっすね。」
「時間もきちんとして。休みは休みにして、お片づけもちゃんとして、けじめつけてね。いつでも出かけられるように。・・・って、自分で言いながら自分の耳が痛いな。私もなかなかできなかったから。」
「わかります。その楽さに甘えちゃいけませんね。心します。」


「・・このスイカ、甘いね。」
「実はもらい物じゃないんですよこれ。」
「買ったの?」
「おばちゃんから、買ってあげてって頼まれたから1個試しに・・。」
「これならおいしいわ。うちにも欲しいって言っといて。3個もらうよ。」
「言っときます。喜びますよ。」


花火はまだ断続的にパンパンと上がっているようだったが、マキノは少し見ただけで満足して帰ることにした。
「スイカごちそうさま。じゃあ私、もう帰るね。宴会のこと、また日時教えて。」
「あっはい。また連絡します。」


美緒とヒロトの二人に外まで見送られてマキノは自宅へと戻った。

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