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「月曜日、よろしくねー!」
「俺も俺も!お願いしまーす!」
じゃあねー、と二次会に行く人に手を振る。
私も行きたかったが、明日はいくつか物件内覧の予定なので辞退した。
駅まで加賀地さん、楠木さんに挟まれながら歩く。
「俺は今から横浜に帰るから。内覧、ゆっくりでいいからちゃんと見て決めろよ。荷物は全然気にしなくていいからな」
「はい、お疲れ様でした。すみません、甘えさせてもらいます」
「いいんだよ、またウチの嫁さんをランチでも飲みでもいいから誘ってやってくれ、会いたがってたし。何かあったらSkypeでもLINEでもいいから連絡しろよ。・・・秦についても、こっちでも様子見とくから」
「ほんとですか、ぜひぜひ今度お誘いしますね!!お願いします」
会社が借りてくれている今の物件はマンスリーマンションで、もともと持っていた家具類を置くスペースがなかった。倉庫でも借りようか考えていたところ、加賀地さん宅の空き部屋に置かせてもらえる事となったのだ。
本当に、加賀地さんにはお世話になりまくってるなぁ・・・今度何か持ってお邪魔しよう。
秦さん、営業とは階も違うし連絡もないから来ないのではないかと踏んでいたのに、日中、顔見知りだからと業務課に訪ねてきたそうだ。
たまたま居合わせた加賀地さんが対応してくれたそうだが、いつ帰ってくるか、どの辺りに住んでいるのかなどしつこかったらしい。
今日は直帰だし、住む所なんかは個人情報だから教えられないと突っぱねてくれたそうだ。
「楠木も、気をつけてやってくれ」
「はい、おまかせ下さい」
「まぁ近いっつっても、県またいでるから流石に大丈夫とは思うがな。なるべく周りには気をつけとけよ」
「はぁい、了解でっす。奥様とお嬢さんによろしくお伝え下さい」
またな、と手を振って横浜方面の乗り場に去っていく加賀地さんに頭を下げる。
背中が見えなくなったところで、隣の楠木さんを見上げる。
「私も帰りますね。楠木さんどの路線ですか?」
「同じ方向だから、一緒に乗って帰るよ・・・そうでなくても、一緒に帰るつもりだったよ」
「へ?」
「今、注意されたばかりだろう。ここからだと会社の最寄り駅を通るんだから、万が一秦が残業でもしてたら車内で会うかもしれない」
「あ」
そうだった。
ここからだと、私の家は会社の最寄り駅を挟んで2つ先。営業なら残業もしくは懇親会で遅くなるから泊まりだろうし、会社が借りるのは会社周辺のホテルだから、会う確率は高くはないが、低くもない。
「今日、課に寄ったって事は何かしら話すつもりなんだろうけど、海野は話したくないんだよね?」
「え、えぇ、ちゃんと手紙に会う気はないって事と、話があるならメールでって書いたので」
「それなら尚更だな。住んでるところまでは分からないだろうけど、週末も会社周辺は特に注意しなよ」
何それ無茶な、と思ったところで電車が来たので、周りに流されながら何とか乗る。
都会って何でこんなに人が多いんだ。まぁ特に多い路線ではあるけど、この満員電車にも慣れなきゃいかんのだろうなぁ・・・。
鬱々していると、ふと影ができて体が楽になった。
何だろ、と上を見ると、楠木さんのにこにこ顔が至近距離に。いつの間にかドアのそばまで来て、手をドアについて周りから押されないよう庇ってくれている。
か、壁ドンだああああああ生で壁ドンされとるひあああああいいにおいくんかくんかあれわたし臭くないかな大丈夫かな絶対タバコとか酒とか汗臭いよおおううう離れて大天使さまあああああ
「大丈夫?」
「ひぇ・・・・はひ」
い、息が、息が耳にあたる、くすぐったい。
周囲の声で消されないようにって配慮だろうけども!!!息が!!!くすぐったいです天使!!!!!!
「・・・いつも、ああやって相談に乗ったりしてるのか?」
「えと、はい。高校から、クラスメイトとか部活のメンバーとかに相談される事が多くって」
電車がようやく動き出し、揺られながら世間話。
いや落ち着かないけど頑張って落ち着こう頑張れわたしやればできる子!!!
そう、高校時代、部活関係で知り合った他校の女子生徒と付き合いたいという、男クラ故に女慣れしていない先輩から相談されアドバイスしたところ、トントン拍子に上手くいきお付き合い出来たのだった。それがきっかけで、私に相談すれば心配事が解決するという噂が広まり、先輩後輩だけでなく先生からも、恋愛に限らず友だち関係や失せ物など幅広く相談されるようになった。
因みに最初の相談者の先輩は、例の女性とお付き合いが続き今では結婚して子どもも2人いらっしゃる。ありがたい事に結婚式にも呼んでいただき、毎年送ってくれる年賀状はいつも家族仲良しな写真が印刷されている。
「それはすごいな。カウンセラーとか向いてたんじゃないのか?」
「家の事情で、すぐ働かなくちゃいけなかったんです。幸い工業高校だったから、就職先は結構あったので・・・・まぁ、選択が悪くて辞めましたけどね。残業代は出してくれていたので、貯金は貯まったのでよかったです」
プログラミングの勉強もできたしね!
今こうしていられるのも、あの会社に就職して辞めたおかげだ。そう考えたらラッキーだと思う。こうして上司や周りに恵まれているし。
「まぁ、秦さんの件は別ですけどね!!」
「はは、確かに・・・あ、着いたよ」
腰に手を回されて降車する。
んんん???なんで一緒に降りた??
「楠木さん?」
「あぁ、俺ここから次の駅まで歩くから、気にしないで・・・・ん?」
改札を出たところで、楠木さんが首を傾げる。
何だろ、と視線を辿ると。
秦さんが、いた。
「俺も俺も!お願いしまーす!」
じゃあねー、と二次会に行く人に手を振る。
私も行きたかったが、明日はいくつか物件内覧の予定なので辞退した。
駅まで加賀地さん、楠木さんに挟まれながら歩く。
「俺は今から横浜に帰るから。内覧、ゆっくりでいいからちゃんと見て決めろよ。荷物は全然気にしなくていいからな」
「はい、お疲れ様でした。すみません、甘えさせてもらいます」
「いいんだよ、またウチの嫁さんをランチでも飲みでもいいから誘ってやってくれ、会いたがってたし。何かあったらSkypeでもLINEでもいいから連絡しろよ。・・・秦についても、こっちでも様子見とくから」
「ほんとですか、ぜひぜひ今度お誘いしますね!!お願いします」
会社が借りてくれている今の物件はマンスリーマンションで、もともと持っていた家具類を置くスペースがなかった。倉庫でも借りようか考えていたところ、加賀地さん宅の空き部屋に置かせてもらえる事となったのだ。
本当に、加賀地さんにはお世話になりまくってるなぁ・・・今度何か持ってお邪魔しよう。
秦さん、営業とは階も違うし連絡もないから来ないのではないかと踏んでいたのに、日中、顔見知りだからと業務課に訪ねてきたそうだ。
たまたま居合わせた加賀地さんが対応してくれたそうだが、いつ帰ってくるか、どの辺りに住んでいるのかなどしつこかったらしい。
今日は直帰だし、住む所なんかは個人情報だから教えられないと突っぱねてくれたそうだ。
「楠木も、気をつけてやってくれ」
「はい、おまかせ下さい」
「まぁ近いっつっても、県またいでるから流石に大丈夫とは思うがな。なるべく周りには気をつけとけよ」
「はぁい、了解でっす。奥様とお嬢さんによろしくお伝え下さい」
またな、と手を振って横浜方面の乗り場に去っていく加賀地さんに頭を下げる。
背中が見えなくなったところで、隣の楠木さんを見上げる。
「私も帰りますね。楠木さんどの路線ですか?」
「同じ方向だから、一緒に乗って帰るよ・・・そうでなくても、一緒に帰るつもりだったよ」
「へ?」
「今、注意されたばかりだろう。ここからだと会社の最寄り駅を通るんだから、万が一秦が残業でもしてたら車内で会うかもしれない」
「あ」
そうだった。
ここからだと、私の家は会社の最寄り駅を挟んで2つ先。営業なら残業もしくは懇親会で遅くなるから泊まりだろうし、会社が借りるのは会社周辺のホテルだから、会う確率は高くはないが、低くもない。
「今日、課に寄ったって事は何かしら話すつもりなんだろうけど、海野は話したくないんだよね?」
「え、えぇ、ちゃんと手紙に会う気はないって事と、話があるならメールでって書いたので」
「それなら尚更だな。住んでるところまでは分からないだろうけど、週末も会社周辺は特に注意しなよ」
何それ無茶な、と思ったところで電車が来たので、周りに流されながら何とか乗る。
都会って何でこんなに人が多いんだ。まぁ特に多い路線ではあるけど、この満員電車にも慣れなきゃいかんのだろうなぁ・・・。
鬱々していると、ふと影ができて体が楽になった。
何だろ、と上を見ると、楠木さんのにこにこ顔が至近距離に。いつの間にかドアのそばまで来て、手をドアについて周りから押されないよう庇ってくれている。
か、壁ドンだああああああ生で壁ドンされとるひあああああいいにおいくんかくんかあれわたし臭くないかな大丈夫かな絶対タバコとか酒とか汗臭いよおおううう離れて大天使さまあああああ
「大丈夫?」
「ひぇ・・・・はひ」
い、息が、息が耳にあたる、くすぐったい。
周囲の声で消されないようにって配慮だろうけども!!!息が!!!くすぐったいです天使!!!!!!
「・・・いつも、ああやって相談に乗ったりしてるのか?」
「えと、はい。高校から、クラスメイトとか部活のメンバーとかに相談される事が多くって」
電車がようやく動き出し、揺られながら世間話。
いや落ち着かないけど頑張って落ち着こう頑張れわたしやればできる子!!!
そう、高校時代、部活関係で知り合った他校の女子生徒と付き合いたいという、男クラ故に女慣れしていない先輩から相談されアドバイスしたところ、トントン拍子に上手くいきお付き合い出来たのだった。それがきっかけで、私に相談すれば心配事が解決するという噂が広まり、先輩後輩だけでなく先生からも、恋愛に限らず友だち関係や失せ物など幅広く相談されるようになった。
因みに最初の相談者の先輩は、例の女性とお付き合いが続き今では結婚して子どもも2人いらっしゃる。ありがたい事に結婚式にも呼んでいただき、毎年送ってくれる年賀状はいつも家族仲良しな写真が印刷されている。
「それはすごいな。カウンセラーとか向いてたんじゃないのか?」
「家の事情で、すぐ働かなくちゃいけなかったんです。幸い工業高校だったから、就職先は結構あったので・・・・まぁ、選択が悪くて辞めましたけどね。残業代は出してくれていたので、貯金は貯まったのでよかったです」
プログラミングの勉強もできたしね!
今こうしていられるのも、あの会社に就職して辞めたおかげだ。そう考えたらラッキーだと思う。こうして上司や周りに恵まれているし。
「まぁ、秦さんの件は別ですけどね!!」
「はは、確かに・・・あ、着いたよ」
腰に手を回されて降車する。
んんん???なんで一緒に降りた??
「楠木さん?」
「あぁ、俺ここから次の駅まで歩くから、気にしないで・・・・ん?」
改札を出たところで、楠木さんが首を傾げる。
何だろ、と視線を辿ると。
秦さんが、いた。
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