青の話

豆腐

文字の大きさ
10 / 20

10

しおりを挟む
「てな訳で、引っ越し先が決まりました」
「え、早くない?入居したの先週よね」
「正確には、先々週の土曜ですけどね」

週が明けて月曜日。
朝から坂下さんに物件が決まった為住所変更をしたい旨をメールしたところ、満田さんのアドレスが追加された状態で「今日、夜ディナー行きましょう」と店のURLが載せられたメールが返ってきた。
それにOKの返事を返して今に至る。
因みに、ご飯はなんかおしゃれなステーキ屋だ。カウンター席と4人掛けのテーブルが3セットくらいの小さなお店だが静かな雰囲気で落ち着いて食べられるし、何より大天使系美女坂下さん清楚系美女満田さんに挟まれて食べる肉は美味いなぁ!!今日はカウンター席で、目の前で肉を焼く手捌きを見るのも楽しい。

「だよね、早いよね。私の感覚可笑しくなかった、良かった・・・・」
「ちゃんと内覧した?アクセスとか家周りの環境とか大丈夫?」
「大丈夫ですよぅ!大塚駅から歩いてそう掛からないとこですし、周りにコンビニもスーパーもありました」
「いや生活面大事だけどさ、治安とか大丈夫なの?」
「それこそ安心です。近くに交番もあるし、コンシェルジュの方が24時間いてくれるオートロック式マンションなんですよ」
「へー、よくそんないい物件空いてたわね」
「しかもオーナーは楠木さんですし!知ってる人が大家さんって気が楽ですよねぇ」
「は?」
「へ?」
「?」

両サイドからバッと凝視された。え、なになに。

「楠木君のマンションって、赤坂の・・・?」
「いえ、大塚駅の近くの方です」
「や、そもそも、住所変更って事は契約したのよね?」
「えぇ、マンションまで連れて行ってもらいまして、その場で契約書類にサインを」
「ちょちょちょ、ちょーっと待って、待って!」
「? なんです?」
「連れて行ってもらった?」
「はい」
「誰に?」
「楠木さんに」
「・・・ちょっとそこんとこ詳しく教えてくれないかしら」

おおお、両サイドからの圧が、なんか気迫がすごい。
少しビビりながら、金曜日の夜に浮気野郎がいたところから土曜日に一緒に物件を見てまわったこと、日曜日に日用品や家具の買出しまで付き合ってくれた事を話した。
本当は日曜日は一人でのんびり日用品の買出しをする予定だったが、揃えるのは早い方がいいし万が一浮気野郎が彷徨いている場合危険、という事で車まで出してもらい、買ったものはマンションに置かせてくれた。買ったもの全て店から郵送しようと思っていたから助かった。郵送代って結構馬鹿にならないんだよなぁ・・・。
朝迎えに来てもらったが、荷物が増えるだろうと土曜日とは違う車だった。マークは見たことあったけど名前が思い出さなかった。かっこよかったからまた写メ撮らせてもらった、仲川がオフィスにいるときに聞こう、あいつ車とバイク好きだったはず。

「日曜もデートした、と」
「デートっていうか、ボディーガード的な?楠木さんって心配性ですよねぇ・・・あっ満田さん、週末大丈夫でしたか?浮気野郎から何かアクションありました!?」
「いや、連絡もなかったし家まで来ることもなかったから大丈夫よ。このままフェイドアウトしていくわ・・・それよりも、楠木課長が週末ずっといてくれたの?用心はした方がいいんだろうけど、そこまでするかしら」
「楠木君、特に心配性って事はなかったと思うけどなぁ・・・あ、話変わるけど。なんで秦と付き合ったの?」
「あ、私もそれ気になってたんだよね。私はフリーだったからOKしたんだけど、海野さんも?」
「あー・・・実は、私誰かとお付き合いってした事がなくて。前の会社の事があって、人肌に飢えてたんですよね」

前の会社での事は毎日残業、休日出勤は当たり前だったから、疲れはてて仕事以外の時間は食事と睡眠に充てるしかなく、友人達と連絡を取る事もなくなり遊びに行く時間もなかった為、だんだん疎遠になっていった。就職を機に会社近くにひとり暮らしを始めてしまい、家族から離れたのもよくなかった。家が近いからすぐに呼び出されるし、残業も長くしてしまう。誰にも相談できず、会社以外誰とも話もせず働き続けて6年。
人肌に飢えまくっていたのだ。迫られればコロリと行くくらい。
退職してすぐに今の会社に就職し、早々に浮気野郎に声をかけられお付き合いする事になったのだった。

「いやー、本当に、本っ当にチョロい奴だったんですよ、去年の私」
「頑張ったのねぇ、仕方ないわよ」
「そういう風にした会社が悪いわ。海野さんは何も悪くないわよ」

話し終えたところで、よしよし、と2人から頭を撫でられる。
むふふふ、役得。
会社に就職したての頃は確かに酷かったが、今は余裕も出来て学生時代の友人や魔法少年少女仲間とも連絡を取り合い、時間が会えば食事や遊びに行くようになったので、もう人肌恋しいと思う事もなくなった。

「恋愛はいっときお休みします。お一人様満喫する事にします」
「そう・・・頑張ってね(無理だと思うけど)」
「はい!」

それからは坂下さんのお子さんの話をしたり(写真を見せてもらったが、大天使の子は天使だった)、美味しいランチの店を教えてもらったりしてお喋りを満喫した。お互いに名前で呼び合うくらいに仲を深めたところで、また女子会しましょう、とその日は解散した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...