転生した悪役令嬢とアオいハル。

くす

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悪役令嬢、目を覚ます。

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――私は、確かに断罪された。

大理石の床。
見下ろしてくる無数の視線。
婚約破棄の言葉と、正義を装った拍手。

「悪役令嬢アリア・フォン・レインベルク。
 その傲慢さと虚栄心により、ここに――」

そこから先は、もう覚えていない。
覚えている必要がなかったからだ。

目を覚ましたとき、天井は白く、やけに低かった。
知らない匂い。
知らない音。
知らない、身体。

「……ここは?」

声を出して、気づく。
若い。幼い。
そして――驚くほど、自由な声だった。

ベッドの横に置かれた鏡を覗き込み、私は息を止めた。
そこに映っていたのは、見慣れた令嬢の顔ではない。
黒髪の、少し眠たそうな目をした少女。
制服らしき服が、椅子に無造作にかけられている。

理解するのに、そう時間はかからなかった。

転生。
現代。
そして――身分のない世界。

「……ふふ」

思わず、笑ってしまった。

公爵家の名もない。
跪く必要もない。
誰かに選ばれるために、微笑む理由もない。

なんて、静かな朝だろう。

机の上に置かれたスマートフォンが震えた。
〈遅刻するよ!〉
〈早く起きなさい〉

短くて、砕けた言葉。
命令ではなく、ただのやり取り。

前世では、考えられなかった。

制服に袖を通すと、身体が勝手に背筋を伸ばす。
姿勢。歩き方。視線の落とし方。
どれも、骨にまで染みついた令嬢の作法だった。

「……抜けないものね」

でも、それでいい。

私はもう、悪役令嬢じゃない。
それでも、あの世界で生き抜いた“私”が消えたわけでもない。

玄関の扉を開ける。
朝の光が、遠慮なく差し込んできた。

身分も、役も、筋書きもない春。

アオすぎるこの世界で、
今度こそ私は――
私の人生を、選ぶ。
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