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5 -Cinq-
恋が育つのは、僕次第。
しおりを挟むそれから僕らは、噴水を眺めながら無言でパンを食べた。
耳に聞こえてくるのは、噴き上がった水が水面を叩く音と、時折木々が騒めく音。それから、公園で思い思いにくつろぐ人たちの、話し声。
「穏やかで心地いいね」
パンを食べ終えて、持ってきていたペットボトルの水を飲む。そんな横顔すらかっこいい。こんな素敵な人が僕を好きだなんて、まだ信じられない。
「食べ終わった?」
「あ、うん……」
無意識に僕は、彼を見つめ過ぎていたらしい。視線に気付いたテオが、僕の分に持ってきてくれていたペットボトルを差し出してくれた。
「ありがと……」
水を飲んで、また彼を見る。テオは自然の音を聞くように、目を閉じている。
「……次の場所、行かないの?」
「ん、もう終わり? こうしてじっくりユウリに見つめられるの、悪くないなって思ってたところなのに」
「もう、またそういうこと言う~」
バシッと肩を叩いたら、アハハと声を上げて笑う。
「テオって絶対モテるでしょ」
「そんなことないよ」
「いや絶対モテる。じゃなかったら、僕だってこんなにドキドキしたりしないもん」
「へえ? ドキドキしてくれてるんだ。どの辺に?」
「い、言わない! なんか悔しいから言わない!」
「ええ~。まあでも、仮にモテてたとしても俺が初めて恋をしたのは、ユウリだからね」
「え……う、うそだぁ」
「本当だよ。俺、誰かをこんなに愛しいと思ったの、ユウリが初めて」
「……まだ、出会ったばかりなのに」
「確かにそうだね。でも、こればっかりは仕方なくない? 理屈じゃないじゃん、こういう感情って。一目惚れだってちゃんと恋でしょ。それを実らせるか、実ったあとどう育てていくかは自分次第。まあ育つかどうかは相手次第でもあるけどね」
真剣な眼差しから、目が離せない。
「俺はこの恋を、ユウリと育てていきたいって思ってる」
僕の鼓動が、耳にうるさいくらい響いてる。喉が渇くような、胸の奥がキュウッと絞まっていくような感覚。うまく、呼吸ができない。
「っと、ああーごめん! また感情押し付けた」
「えっ?」
突然我に返ったように盛大な声を放った彼に、ビックリして固まってしまう。
「昨日リュカに言われたんだよ。焦らない、好きって感情を押し付けすぎない、紳士な態度で適度な距離感を保て、って」
そんな僕をよそに、頭を抱えてすっかり困り顔になっているテオ。
「今のは押し付けだったよな。引いた? ああー上手くできない!」
ついには両手で顔を覆ってしまった。
こんなにも、僕に一生懸命になってくれている。きっとあのあと、リュカさんにもたくさん相談したんだろう。
そんな彼を想像したら、僕もこの想いに対して誠実にならなきゃいけないなと思った。
「……あの、僕は、嬉しいです。こんなに真っ直ぐ想ってくれてるなんて嬉しい」
彼の両手をそっと剥がして、顔を覗き込んだ。不安げな瞳が揺れていて、僕を真っ直ぐ見つめている。
「ありがとう、テオ」
だから僕も彼の手を握って、真っ直ぐにその瞳を見つめた。
そうだ。彼の言う通りだと思う。思えば僕だって、一目惚れだったんだ。あの人を入学式で見た時に、恋に落ちた。実らせるために必死になってアピールして、告白して、秘密のお付き合いをするようになって……だけど、育たなかった。だから、一目惚れを否定したかったんだ。
育つかどうかは、相手次第。ほんとにそう。つまりテオの恋が育つのも、僕次第だってこと。
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