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5 -Cinq-

大胆なスキンシップに思い出すツラい過去

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 一緒にウインナーパンを紙の包みから出して僕が「いただきます」と言うと、テオは「何? ユウリ、それもう一回!」と発音を覚えるまで聞いてくれる。そしてそれを覚えると、僕を見て満足げな顔をしてパンを顔の前に掲げた。

「イタダキマス」
「いただきます」

 嬉しい、すごく。しかも可愛い、テオが。愛しさ込み上げるって、こういうことを言うんだろうな。

「ん! これおいしいね! 外はカリカリに揚がってるのにパンがふんわり甘くて、ウインナーのしょっぱさと相性抜群!」
「でしょ? 日本ではこれの揚げてないやつもあるんだよ。そっちの方が僕は好きなんだけどね、これも好き」
「よし、メロンパンも食べてみよう」

 興奮気味にそう言うと、テオはウインナーパンを紙の包みに一旦しまってメロンパンを取り出した。

「イタダキマス」

 大きな口を開けて、一口かじる。その瞬間目を開いたと思ったら、咀嚼をしながらどんどん頬が緩み口角が上がってついには幸せそうな笑みを浮かべた。

「ん~、おいしい! まずこの鼻に寄せた時に香る甘い匂いがそそられる。パンはやっぱりふわっとしてるね。そして甘い。でもパンの甘さとはまた違うこの、上のクッキー生地。しっとりさっくり。噛むほどに甘い香りが口の中に広がって鼻を抜ける。うわ、素晴らしいな、なんだこれ」

 なんだか相当気に入ってくれたみたいで、興奮して饒舌になってる。

「でもメロンの味はしないんだな」
「皮の部分がメロンの網目っぽいからとか、諸説あるんだよ、メロンパンって。本当のメロンクリームを入れてるところもあるけど」
「メロンパンだけでも奥が深いんだな……」

 僕も食べたくなってテオの膝にあるトートバッグを漁ったら、その手をテオに止められて、彼の食べかけているメロンパンを差し出された。チラリと上目遣いに見ながら、一口かじる。

「ん! 日本で食べてた味。おいしい」

 少し懐かしささえ感じるその味に僕が笑顔を浮かべると、テオまで嬉しそうに微笑むから、なんだか照れ臭くなってしまう。

「な、なに?」
「ん? 笑顔のユウリ、可愛いなぁって思って」
「や、やめてよ」
「どうして? 可愛いからずーっと見ていたいな」

 背もたれに腕を掛け、手で頭を支えるようにしながら僕をじっと見つめてくる。その甘ったるい微笑みは、目を合わせているだけでクラクラしそうにかっこいい。

「できれば俺が、ユウリの笑顔を護ってあげたいな。ツラかった過去なんて、俺が塗り替えてあげるよ」

 甘い言葉と優しい声色に、絆されそう。このまま流されてもいいかもとか思いつつも、やっぱりどうしてもあの、裏切られた時のことが脳裏をよぎってしまう。

「……そ、そうやって口説いてるんだ、上手いなぁ」

 堪らずに苦笑いをして目をそらす。そしてトートバッグの中から生クリームとベリーが挟んであるメロンパンを取り出して、それに思い切りかじりついた。

「お、おいしい~。メロンパンサンドも悪くないね!」

 本当に美味しいのに、つい誤魔化したみたいな言い方になってしまう。するとふいに肩を抱かれて引き寄せられ、口の端に唇を押し付けられた。

「っ、な……」

 声を出して拒否する間もなく、そっと舌がそこを舐めていく。

「生クリーム、おいしい」
「ちょっと……っ!」

 動揺して彼の体を突き放し、睨むように顔を上げた。けれど彼は、そんなことは想定内だとでも言うように、口角を上げている。こんなことじゃ諦めないよ、とでも言いたげな顔。そんな表情すらかっこいいとか、ズルすぎる。

「見られてたらどうするの」
「誰も気にしてないよ。日本では、違うの?」

 違う。日本で、同性同士でこんなことしてたら好奇な目や嫌悪感を向けられる。

「日本でこんなことしたら、人生終わるレベルだよ」

 またあの時のことを、思い出してしまった。手つなぎデートを目撃されて、あの人に裏切られて、酷い目にあった、あの日々のことを。

「……ごめん、ツラいこと思い出させちゃった?」

 僕の顔が強張ってしまったせいか、テオがそれに気付いて背中を擦る。

「テオが悪いわけじゃないから。ごめんね」

 上手く笑顔が作れなくて、堪らずテオから目を背けた。

「終わらせないよ。ユウリの人生は、俺が終わらせない」

 テオの手のひらが、優しく頬を包む。親指でそっと撫でてくれて、それだけで心に開いた傷口が、じわじわと癒えていくような気がしてしまっているのに。その言葉の返答が、僕には出来なかった。

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