上 下
3 / 3

後編 ※

しおりを挟む
 前を歩く篤志の背中が、意気揚々として見える。

「俺は何をすればいいの?」

 俺の方を振り向きもせず、性急に篤志が聞いてくる。

「あ……えと、じゃあ……とりあえず椅子に座って」
「わかった」

 篤志はそう言って俺の腕を放し、パソコンデスクの椅子を引っ張り出してきてドカッと座った。

「で?」

 俺を見上げる篤志の目は、何をされても構わない、そんな覚悟が窺えるほど強い光を宿しているように思えた。
 だから俺も、覚悟を決めた。篤志がそこまで強く願うなら、叶えてあげよう。俺が他の人たちとしていることを、そのまま同じようにしてあげようと。

「ちょっと待ってて。タオル借りるね」

 俺は一度その場を離れ、浴室へ行ってタオルを何枚か持ってきた。その一枚を広げ、縦に細長く折りたたむ。

「腕、後ろに回して」
「ん」

 言われるがまま素直に、篤志は腕を後ろへ回す。その腕の位置を整えると、俺は重なった手首をタオルで縛った。

「目隠しも、するね」
「え、なんで?」
「そういうプレイだからだよ」

 なんて言ったけど、別にいつも目隠しプレイをするわけじゃない。本当は、篤志に見せたくないからだ。俺が、篤志に欲情している顔を。勃起して張り詰めてしまう股間を。
 なんだか面白くなさそうにブスッとした顔をして、篤志は口を尖らせている。だけど俺はそれに構わず、タオルでそっと目を隠して後ろで縛った。

「キツくない?」
「うん」
「……じゃあ始めるけど、本当に……いい?」
「いいって。早くやって」

 躊躇ってるのは、俺の方だ。後悔しない、引かないって篤志は言ったけど、実際にやられて本当に引かないとは限らない。それで嫌われたら、俺はもう篤志とは一緒に居られなくなる。それを想像したら、なかなか行動に移すことができない。

「早くしろって!」

 篤志の膝に両手を置いたまま動けないでいる俺に痺れを切らしたらしい篤志に、足の横っ面で軽くわき腹を蹴られた。もう、やってやるしかない。
 俺は今度こそ本当に覚悟を決めて、篤志が穿いているスウェットのズボンに手を掛けた。

「脱がすから腰、浮かせて」
「ん……」

 俺の動きに合わせて、篤志が腰を浮かす。それに助けられて難なくズボンと下着を剥ぎ取ったら、まだ通常状態で垂れ下がった篤志の性器が露わになった。
 正面から、こうやってじっくり見るのは初めてだ。剥けきってない竿と、ふっくらした玉。この状態も愛しくて、延々と見ていられる。

「……航太朗?」
「あぁ、ごめん」

 愛しさのあまりついまじまじと、眺めてしまった。

「じゃあ今から、他の人たちにするみたいに触るから」
「ん……お願い」

 篤志が、喉を鳴らして生唾を飲み込む。ちょっと期待をしているのか、柔い竿が小さくピクっと動いた。俺が指先でツツ―っと可愛がるように何度も撫でていくと、ピククッと反応してゆるく勃ち上がってくる。
 あぁ、やばい。この反応、嬉しくて俺も勃ちそう。
 興奮して息が上がりそうなのをなんとか抑え、俺は静かに篤志の股間へ顔を寄せた。
 表面に唇を押し付け、その感触を確かめる。そして根元から先端に向かってゆっくりキスを施していくと、篤志の竿は次第に芯を持ち始めた。

「こ、航ちゃん……それ、なんか恥ずかしい……っ」
「みんなにもしてるコトだよ」
「……っ」

 なんてウソ。他の子たちは座った時点で勃起してるか、自分で勃たせなって言って自家発電させてる。こんなふうに、愛おしく思ってキスを施したくなったのも、しゃぶって勃たせてあげたいと思うのも、篤志しかいない。今までは後ろから扱いてやるだけだった。それが今、ずっと夢見ていたことが、叶うんだ。
 篤志は『みんなにもしてる』と聞いて大人しくなった。頬や首元を紅く染めて、下唇を噛んでいる。まるで、悔しさを堪えているみたいに。

「あっくんのちんこ、皮が剥けて先っぽが出てきた」
「っ、い、言わないで」
「て言ってちんこピクついてるけど? ほら」

 人差し指でいい子いい子するように撫でてやれば、さらに硬くなっていく。篤志の口からはくぐもった声が漏れ、下っ腹に少し力が入ったようで軽く腰が蠢いた。
 目の前にある篤志の亀頭は、美味しそうな薄紅色をしている。舐めたい。この形のいい亀頭を舐め転がしてしゃぶりつきたい。口に咥えたらビックリするかな。でも、もう我慢できそうにない。
 そう思いながら、俺の舌は篤志の亀頭を迎えに行っていた。舌先で触れ、包み込むように舌全体を使って撫で、口内へ送り込む。

「ぅうっ……な、なに……航ちゃん?」

 篤志の問いには答えず、口内に包んだソレをチュパチュパとしゃぶってみる。

「あっ、ウソなんで……俺にはダメって言ったのに!」
「俺はいいんだよ」
「っ、んなの……ズルいっ」
「ズルくない。いいからそのまま、感じてて」
「っんん……」

 可愛い。またちょっと硬くなった。
 俺の口の中でじわじわと硬くなっていく篤志の性器。根元まで咥え込んで、俺の唾液をたっぷり塗り込んでジュルルとわざと音を立てて吸ったら、「んぁあっ」と声を漏らしながら篤志の腰が震えた。
 唇を窄めて俺の唾液に塗れた性器を拭うように、根元から先まで吸い上げたら、口から放たれた性器は自立して上向いてきている。さっきの刺激の余韻を感じてなのか、竿は何度もピクっピククッと跳ねる。
 この反応は嬉しすぎて、俺のちんこもデニムパンツの中で主張を始めている。やっぱり、篤志に目隠しまでして正解だった。

「はぁ……きもちい? 篤志……」
「んっ、きもち、ぃぃ……こぉちゃんのクチ、きもちぃっ」

 良かった。蕩けるような甘い声してる。
 もっと。もっと気持ちよくしてあげたい。
 俺の中にある欲が、理性のタガを外していく。
 目の前には、篤志のふっくらとした玉が二つ。据え膳食わぬはなんとやら。こんなに美味しそうなんだから、口にしないわけにはいかないだろ。

「あっなに、くすぐった……っぁう」

 俺は篤志の腰を掴んで引き寄せ、椅子から落ちて垂れ下がった玉を唇で撫でて、そのまま口に含んだ。片方ずつ口の中で舐め転がして、皮を優しく唇ではむはむして、感触を確かめるように頬擦り。堪らない。愛しすぎて俺のちんこもギンギンに勃起してる。

「こぉちゃん、やっぱヘンタイ……だ……んぅ」
「そうだよ。引いた?」
「ひ、かないっ……」

 優しいな、篤志は。こんなことされてもまだ、そう言ってくれるんだ。
 じっくり篤志の玉を堪能して、時折竿の根元を舌先で擽るように舐めると篤志は「んんっ」と息を詰める。竿にも頬擦りして、根元から先っぽまで舌全体を使って何度も撫で上げているうちに、篤志の鈴口から蜜が溢れてきた。それを丁寧に舐め取って、亀頭を口に含んで優しく吸ってやったら、篤志のちんこは気持ちよさそうに脈打つのが止まらない。

「んんぅ、っ……こぉちゃ……っんくぅ」

 脈打つ竿に歯が当たらないよう気を付けながら、根元まで咥え込む。舌や喉を使って刺激しつつ唇で扱いてやると、喘ぎ交じりに息が上がって腰もカクカク揺れだした。

「きもちっぃ、だめそれぇ」
「んんー」
「あぅっあっ、こおちゃん、こぉ……っはぁ、はっんぅぅ」

 腰を軽く振りながら俺の喉奥をいっぱい突いてくる。かわいい。ヤバい。たまんない。もっと、もっと好くなれ。俺の口でイク快感を覚えて俺に夢中になれ。

「んっんっイきそ……あ、だめ出る……」

 その声を聞いて、俺は唇を窄めて竿に密着させ吸い付くように扱く。やんわりと片手で玉を包み込み、優しく揉んでやりながら扱き上げた唇で亀頭を刺激するようにしゃぶってやったら、篤志は「ひぅっ」と息を引き込み、背中を弓なりに反らせた。

「やっだめこぉちゃん! くちはなして!」
「んん、やら」
「こぉちゃん! イクっイッちゃうからもお!」
「いいぉ、ほら、っちゅ……俺の口の中でイッちゃえ。っん」
「ああっんもぅ」

 はむ。とまた咥えて、窄めた唇を根元まで下した。舌で竿の裏側を撫でながら喉で亀頭を刺激して、手では玉を優しく揉み転がす。至れり尽くせりの状態で篤志は啜り泣くようにして小さく喘ぎながら、限界が来てついには俺の口の中で射精した。
 どぴゅっ、びゅるっ、と何度も脈打って、篤志の精液が俺の口に放たれる。

「うっ、うぅっ、んっ……」

 放つたびに声が出ちゃってるの、ほんと可愛い。腰とか太腿が震えてるのも、愛しくて堪らないな。あっくんの痴態にあてられて俺までイキそう。ちんこヤバ、いてぇ。
 口の中いっぱいになった篤志の精液は、全部飲み干した。綺麗に舐め尽くして、玉の方に垂れたのも舐め取って優しくアフターケア。最後に鈴口をチュゥッと吸って口を離したら、篤志は首元まで真っ赤にして鼻を啜っていた。

「ごちそうさま」
「の、飲んじゃったの? 俺のせーえき」
「うん」

 サラッと頷く俺に、篤志は下唇を噛んで顔をさらに赤く染めた。

「こぉちゃんのヘンタイっ。……こんなことを、他の人たちとしてたの? ずっと」
「そう、だね」

 いや嘘だけど。フェラはしても他の人たちの精液なんて飲まないし、お掃除フェラだって今初めてやった。全部、篤志を悦ばせたくてやったこと。だけどそんな俺の感情バレるわけにはいかないから、ここは敢えて「そうだ」と言っておく。

「へぇ……」
「……嫌いになった?」
「ならない! キライになんて、なるわけない」
「……ほんと優しいね、あっくん」

 ここまでして、引かれる自信しかなかったのに、受け止めてくれるあっくんはやっぱりすごい。俺がゲイだって知った時も否定しないでいてくれた。あの時から、この包容力に助けられてる。やっぱり改めて、好きだなと思う。

「ね、航ちゃんも、勃ってる?」
「え?」
「航ちゃんのちんちんも、勃起してる? いつもみたいに」

 なに? なんで、知ってるんだ。
 俺は思わず息を呑んだ。
 悟られないように、ただ篤志の願望を叶えてあげてるだけだよって、細心の注意を払っていた。いつも自分の欲望が篤志に当たらないように、気を付けていたはずなのに。

「あっくん、なに……言ってんの」

 ジョウダンだろって誤魔化すように、鼻で軽く笑ってみた。

「俺のこと触りながら硬くしてたでしょ? 時々掠めてたから、気付いてたよ」

 篤志の足が、探るように俺の太腿に触れ、足の裏で撫でてくる。

「俺にバレないようにしてくれてたんだよね。俺が、親友だから……」

 この足は、俺の股間を探してる。太腿の上で蠢くだけでもヤバいのに、このまま股間を探り当てられたら、暴発しない自信がない。

「でも俺は、ずっと触れてみたかった……乱れる俺を見て、航ちゃんのちんちんがどんなどんなコトになっちゃってるのか、知りたかった……」

 それはきっと、好奇心の類だろう。俺に乳首を弄って欲しいとお願いしてくる篤志のことだ。興味をそそられるのは当然だと思う。
 篤志の足が、ゆっくり俺の太腿を撫で上げていく。
 どうする。俺は、どうしたらいい。篤志の好奇心をこのまま受け止めるのか?
 実際触れられた時、篤志はどんな反応をするのだろうか。この硬く張り詰めた股間に触れて、引かれないとも限らない。でもだからって、また拒否するのか? 昨日みたいに。そうしたら俺はまた、篤志を傷付ける。あんな顔をさせるくらいなら、受け止めてやるのが賢明なんじゃないのか。篤志は俺のすべてを受け止めようとしてくれてる。だったら俺も受け止めて応えるべきだろう。篤志にまた悲しい顔をさせるくらいなら、コレに触れさせてやるだけでまたそばに居させてもらえるなら、もう、隠す理由はない。

「……わかった、いいよ。触らせてあげる。この足で感じてみて? 俺の股間が今、どんなことになってるのか」

 だけど敢えて、主導権は握らせない。
 俺は太腿を撫でる篤志の足首を、両手で掴んだ。



→つづく
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...