踊るキミを見ていたい

朝賀 悠月

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9・実家は落ち着くけど虚しい

恋の先輩は、男子高校生

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「そのさあ、失恋うんぬんの前に……恋って、なに?」
「え、そっから?」

 陸翔くんの手が止まった。切り分けた一口大のお肉をフォークに刺し、口に運ぼうとした手前で、俺を見つめたまま口が開いている。

「えっと、いましてますよね?」
「……俺が? 恋?」
「はい」

 わからない。そんなキョトン顔されたってわからないんだって!

「だから、なに、恋ってどういう状態が恋なの!」
「いやマジっすか。俺が見てもわかるのに」

 あぁ、思い出した。前にファンの子たちにも言われたことがあったよ。恋だ何だって。あれは、冗談とか戯れに言ってるんだと思ってた。そうだたしか、雄代くんに出会ったばっかりの頃。
 じゃあみんなの目には、あの時本当にそう見えてたってこと、なの?

「陸翔くんは、したことあるの? 恋」
「普通にありますよ。てか今、付き合ってる子いるし」
「え!」
「驚き方かわいいかよ。俺は舞音さんが恋すら知らなかったことにビックリなんですけど。そんな美人な顔してんのに」
「顔は、関係ないでしょ」
「ほらすぐそう言う。素直に、ありがとぉ~。って言えばいいのに」

 ステーキを頬張って、俺を見ながらモグモグしてる。
 言ってみろ、ほれ。みたいな顔をしてるから、無理やり口角を上げて笑顔を作りながら「ありがとぉ~」と小首を傾げて言ってみた。
 そうしたら陸翔くんは満足げに何度も頷いて、またステーキを切り分け始めたので、俺もミックスグリルのハンバーグを口いっぱいに頬張って、彼の次の言葉を待った。

「舞音さんみたいな人が今まで誰にも目ぇ付けられてなかったのも、わかんないんだよなぁ。そういう人、いなかったんすか? 舞音さんのこと放っておけない、みたいな。あ。いたらとっくに恋がなんなのか気付いてるか」

 まったく、ペラペラとよくしゃべるな。ていうか今サラッとディスっただろ!

「俺は、ずっとダンスのことしか考えてなかったから……とにかく踊ってる時が楽しくて、幸せで、恋愛とかには全然興味なかったんだよ」
「あーね」
「なのに最近になってなんか、今まで感じてこなかったものがこう……この辺に」

 俺はそう言って、胸の真ん中をグッと掴んで見せた。

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