踊るキミを見ていたい

朝賀 悠月

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13・雄代くんと地元で過ごした日のこと

明日の約束

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 薄暗いせいなのか、目が合っているように感じる。
 なんだか照れ臭くなって、布団を引っ張り上げ目元まで覆ったら、笑いながら「かわいい」と言う声が聞こえてきた。
 何気なく放たれたそんな言葉にすら、胸がギュッとなる。
 恋を自覚するって、結構厄介なんだな。胸が躍ったり、痛くなったり苦しくなったり。好きな人の発言や行動次第でコロコロ変わる。まるでお天気みたいだ。
 この特殊な感情、雄代くんには知られたくないかもしれない。
 せっかくまた会えて、自然と話ができてるんだもん。ずっとこのままこんなふうに、笑い合える関係でいられたら……

「あ、そうだ。折角だから明日、観光して帰ろうかと思ってるんだけどさ、舞音のおススメスポットとかってある?」

 好きだのなんだの言っていた話題は簡単に切り替えられて、今度は明日の話。
 ハッとして顔を出してみたら、雄代くんは自分の腕を立てて枕にしながら、完全に俺の方へ体を向けていた。

「それなら、雄代くんを連れて行きたい場所があるんだ!」
「おお、どこどこ?」
「足湯カフェとか、温泉川が流れる公園とか、この辺りで美味しいって評判の焼肉屋さんもあるし、あ! あとそうだ、明日ちょうど出勤だから会ってほしい子がいるんだよね」
「……もしかして、高校生の男の子?」
「そう! よくわかったね。こっちでずっと支えてくれてたから、紹介したいなぁって」
「ふーん……」

 あれ? なんか反応があんまりよくないな。

「お母さんのカフェ、行かない? ダメ?」
「いや、ダメじゃないよ! 行ってみたい。舞音のお母さんのカフェ」
「よかった! じゃあ明日は俺に任せてくれる?」
「おっけー。めちゃくちゃ楽しみ」
「うん。じゃあ明日のために寝ますか」
「あー楽しみすぎて眠れなかったらどうしよぉー」
「小学生か!」

 頬を両手で押さえて大げさなアクションで冗談を言う雄代くんにツッコむと、俺たちは声を上げて笑った。

「はい、寝るよー。おやすみ」
「ん。おやすみ」

 枕元に置いてある照明のスイッチをオフにしたら、部屋は暗闇に包まれる。
 すると少しも時間が経たないうちに、隣から寝息が聞こえてきた。

「眠れてるじゃん」

 順応性が高いのか、それともずっと、気を張っていたのだろうか。
 俺よりも速く夢の中へ落ちていった雄代くんの呼吸する音に癒されながら、心静かに目を閉じる。
 明日は、楽しんでくれるといいな……

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