かるま・もんすたー ~前世がエロ漫画家の天才少女魔導士ルドヴィカは異種姦への拘りが強すぎる。~

Flan Stein

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第十二話 マンイーターに丸呑みにされたい

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 ローゼリア王国が国を挙げて魔導の研究に力を入れるようになったのは、今から約300年前のことだ。
 東西南北のいずれもに山が聳え立ち、民が食うに困らない程度の水や動植物といった糧には恵まれていたものの、資源といえるものは有り余るほど植わった木々しかないローゼリアは、常に外交の問題と隣り合わせにあった。
 その特殊な立地故に侵攻に遭うことこそ稀であったが、ひとたび諸外国と品や物資の取引をしようものなら、足下を見られて莫大な関税を課せられるのが常であったのだ。
  
 そこで当時のローゼリア国王と、アールノート家をはじめとする国内の貴族の出資により、王立魔導学院が創設された。
 優れた魔導士を育て上げ、その魔導士を兵士として徴用し強大な国軍を擁することによって、他国に牽制を仕掛ける狙いがあったのだ。

 それから約300年が経った今、ローゼリアが擁する魔導兵軍は山向こうの大国家にとって立派な脅威となり、当時の国王らの狙い通り外交の切り札として十分に機能している。
 更には王立魔導学院の設立により魔導の研究が盛んになったことで、ローゼリアの宮廷魔導士たちは新しい魔法を続々と生み出し、それらの技術はローゼリアの新しい産業となった。
 故にこの国では魔導士が強い権力を擁し、自由な研究が認められている、というわけだ。
  
  
「…だからって、こんな立派なお屋敷を魔道の研究用に宛がうのは、やりすぎな気もするけどね…」
  
  
 父ヴェイグから与えられた研究用の家屋、というには十分すぎるほど豪奢な屋敷へと帰還したルドヴィカは、広々とした大広間を改めて見回す。
 今生のルドヴィカが生まれる前に既に死去した祖父が使っていたというこの屋敷は、その部屋数や設備からいっても、研究用の拠点というよりはアールノート家の別荘といったほうが正しいのではないかと思う程、とにかく立派な造りをしていた。
 1人で使うには広すぎるほどの屋敷をポンと引き渡した父の感覚もどうかと思うが、たかが研究のためだけにこれほどの屋敷を建てた祖父の感覚もどうかと思う。
  
  
【儂は構わぬがな。これほど広い屋内であれば、儂もこうして羽を伸ばせるというもの】
「そりゃ軽自動車サイズのモードにとってはそうでしょうけど、わたしはもっとこう狭っ苦しいところが好きというか…。なんかこう、ギチギチに身動きでないくらい狭いところに収まりたい…」
【ケイジドウシャ? スレミーの知らない人間の言葉、まだまだいっぱいあるでしね~】
【こやつのことじゃ、どうせ下世話な意味の言葉じゃろう。知らぬが吉よ】
「ちょっと! 人をシモの話しかしないみたいに言うのやめてくれる!?」
  
  
 純粋なスレミーと、とんだ偏見まみれの竜形態のモードに抗議をしながら、ルドヴィカはふとあることに気付いた。
  
  
「…そうだ、狭っ苦しいところといえば!」
【どうかしたでしか、ご主人様?】
「せっかく異種姦生活を楽しんでるっていうのに、まだ丸呑みの目には遭ってなかった! ウツボカズラ型の魔物とか、蛇型の魔物とかに丸呑みにされるシチュエーション、大っっっ好物だっていうのに! このわたしとしたことが~っ!」
  
  
 一体何が“このわたしとしたことが”なのか、などとモードが呆れるのも気にせず、ルドヴィカが呼吸を荒げながら興奮しだす。
 この屋敷のような広い場所よりも、身動きが取れないほどの狭所を好む傾向があるルドヴィカは、例に漏れず丸呑みフェチでもあった。
 全身を生暖かい肉と消化液に包まれながら、ずるずると捕食者の胃の中に引きずり込まれる様に、何とも言えぬエロティシズムを感じるのだ。
  
  
【ぬしは真に阿呆よな…。何が良くて自ら魔物に喰われに行くというのだ…。儂にはてんで理解ができぬ…】
「仕方ないじゃない、前世から続くわたしの業なんだから。それにいくら何でも消化されるのはマズいから、ちゃんと全身に防護魔法かけていくわよ」
【そういえばスレミーの出した消化液にも、ご主人様びくとも反応しなかったでしもんね! 骨まで溶かす気マンマンだったから、スレミーちょっと自信なくしたでしよ!】
「ふふん、このルドヴィカ様を舐め回すことはあっても、ナメてもらっちゃ困るわよ。さ~て、ちょうどいい感じの依頼ないかな~♡」
  
  
 心の底から呆れかえるモードと、サラッと恐ろしいことを言うスレミーに背を向け、ルドヴィカは意気揚々とギルドからの依頼リストとのにらめっこを始めるのだった。
  
  
  
 * * *
  
  
  
 それから数日後、ようやくルドヴィカのお目当て“人間を丸呑みする魔物”の討伐依頼がギルドへと舞い込んできたので、さっそくルドヴィカはその魔物が棲みついたという街外れの森へと向かった。
 討伐対象の魔物はマンイーターと呼ばれるウツボカズラ型の魔物であり、約2メートルの大きさを誇る巨大な食人植物だ。
 甘い香りで捕食対象をおびき寄せ、まんまと近づいてきた獲物を触手の役割を果たす蔓で絡めとり、頭から丸呑みにしてしまうという。
 マンイーターに丸呑みにされた者はその強酸性の消化液で1時間ほどかけて溶かされてしまう、というのが世間に知られているところの生態だ。
  
  
「ローパーや魔人樹と同じ植物型の魔物だけど、食事のスタイルはスライムに近いのよね。性欲があるのかないのか、怪しいところだわ…」
【セイヨク? があるのとないのとじゃ、何か違うんでしか?】
「この間あんたで試してみてわかったんだけど、性欲そのものが無い魔物にはわたしの催淫魔法が効かないみたいなのよ。わたしとしてはどちゃくそに犯してほしいところなんだけど…」
【ぴえ!? いつの間にスレミーに魔法を!?】
  
  
 スレミーが知らぬ間に主人の実験台にされていたことに衝撃を受ける一方、ルドヴィカは如何にマンイーターに犯されるかという一点のみを考えていた。
 マンイーターがかつてのスレミーのように捕食だけを目的にするというのならば、丸呑みにしたルドヴィカを消化しようとすることは確実であろう。
 消化液まみれになることや、マンイーターの舌に舐め回されるプレイは期待できるが、当然のことながらルドヴィカへの凌辱を目的としたものではないので繊細さは期待できない。
 即ち今回のマンイーターとの丸呑み異種姦プレイは、恐らくかなり大味なものになると思われる。


「汝、身を焦がせ! …やっぱりダメだ、効いてないみたい」
【魔法が通り過ぎちゃったでしね。それにしてもいつの間にスレミーに今の魔法をかけたでし…? 全然気が付かなかったでし】
「うーん、まあ仕方ないか…。そもそも丸呑みは捕食メインであって、性的快楽を得ようとするのはエロ漫画脳なだけって見方もあるし」
【?????】
「こっちの話だからわかんなくても大丈夫よ、スレミー。それじゃあいつも通り、見張りお願いね♡」
  
  
 頭上(といってもスライムに頭らしき部位は無いのだが)に大量の?マークを浮かべるスレミーに見張りを任せ、ルドヴィカは捕食されるためだけにマンイーターのもとへ近づいていった。
 近づくごとにマンイーターから発せられる甘ったるい匂いが鼻につき、妙にムラムラとした感覚がルドヴィカの下腹に込み上げてくる。
 あくまで獲物をおびき寄せる罠であり催淫などの効果は無いので、前世の世界でいうところのプラシーボ効果のようなものであるのだが。
  
  
「ほら、餌が来てやったわよ♡ さっさと丸呑みにしなさい♡」
  
  
 興奮のあまり息を荒げたルドヴィカが挑発的にそう言うと、マンイーターがまんまとルドヴィカに向かって蔓を伸ばしてきた。
 太い蔓と細い蔓が織り交ぜられたそれはルドヴィカの片足をがっちりと掴み、そのまま上空へとルドヴィカを引きずり上げる。
 途端に宙ぶらりんになったルドヴィカは「きゃあっ!」と短い叫び声を上げたが、その瞳は興奮と期待でうるうると潤んでいた。
  
  
「きたきたきたーっ♡ いざ♡ マンイーターの体内にレッツゴー♡」
  
  
 緊張感の欠片もない台詞を吐くルドヴィカを、マンイーターが大口を開けて捕食袋の中へと迎え入れる。
 既に消化液で満たされたそこへ、ルドヴィカの細い身体が真っ逆さまに落下していった。
  
  
 ぼちゃんっ♡
  
「きゃあっ♡」
  
  
 ルドヴィカの腰ほどの高さまで溜められた消化液の中へ、ルドヴィカの身体がずぶずぶと沈んでいく。
 マンイーターの消化液はスレミーのスライムほどに固形状ではなく、前世でいうところのローションに近い感触をしていた。
 普通の人間であれば触れた瞬間にじわじわと皮膚が溶かされる危険物質であり、現にルドヴィカが身にまとっていた衣服はあっという間に溶かされてしまったが、しっかりと全身に防護魔法を施したルドヴィカにとってはただのぬるぬるとした粘液でしかない。
  
  
 ぎゅううううううっ♡
  
「むぎゅっ!? 急に締め付けてきたっ…♡」
  
  
 消化液の感触を満喫していたルドヴィカの全身が、急速に強い力で締め上げられる。
 獲物が逃げるのを防ぐため、捕食袋を縮めて獲物の全身を締め付けているのだ。
 まるで巾着袋のようになった捕食袋に閉じ込められ、ルドヴィカは気を付けの体勢のまま身動きが取れなくなってしまう。
  
  
 ぎゅううううううっ♡
  
「あっ、すごい…♡ おっぱいとお尻、ぎゅうって締め付けられて…♡ 息、だんだん苦しくなってきた…♡」
  
  
 窒息死せんばかりの力で全身を締め付けられ、ルドヴィカが被虐の官能に酔いしれる。
 とはいえ、さすがにこのまま絞死しては元も子もないので、なんとか呼吸できるだけの気道を確保しようと足掻いてみた。
 しかし足掻けば足掻くほどマンイーターの締め付けは強くなり、さっさと獲物を消化しようと更に消化液を分泌し始める。
  
  
 ずりっ…♡ずりっ…♡
  
「ふぅ、ん…♡ ぬるぬるの内壁に、全身擦れて…♡ 腰、止まんなくなっちゃう…♡」


 ルドヴィカが身を捩るたび、むき出しにされ消化液まみれになった乳首や、肉がもりあがってきた陰部が内壁によって擦られ、じわじわとした快感を生む。
 袋に落ちた獲物が這いあがれないようにするために平たくなっている内壁は、消化液のローション効果もあって滑りがよく、まるで舐めるようにルドヴィカの全身を擽る。
 その絶妙なくすぐったさと、焦らすようなもどかしさが、更にルドヴィカの感度を上昇させた。


「ぁんっ…♡ ぬるぬる…♡ すごくきもちい…♡」

 べろぉんっ♡

「あひゃんっ!?♡♡♡」


 ルドヴィカがもじもじと股を擦っていると、途端に尻のあたりを何かに舐められて、驚きのあまり甲高い喘ぎ声を漏らしてしまう。
 何による刺激なのか確かめようにも、全身を締め付けられている状況では振り向くに振り向けず、ただされるがままでいることしかできない。
 ただその生暖かい感触から、恐らくマンイーターの舌なのだろうという見当はついた。


 にゅるにゅるっ♡

「あっ♡ 股のあいだにっ♡ ベロさしこまれてっ…♡」

 にゅるんっ♡にゅるんっ♡

「んひゃっ♡ すまたされてるっ♡ マンイーターのベロにすまたされて、いっぱいマン汁あふれちゃうっ♡」


 ろくに脚も開けない状況で無理やり股に舌を差し込まれ、陰部全体を擦り上げるように動かされ、ルドヴィカが全身をビクビクと震わせながら悶絶する。
 消化した獲物の養分を吸い取る器官らしき舌表面の突起がルドヴィカの陰核や肉びらに引っかかるたび、ルドヴィカの膣からはとめどなく蜜が溢れ出した。
 どうやらマンイーターはかつてのスレミーよろしく、ルドヴィカの愛液に含まれる魔力を摂取しようとしているようだ。


 にゅるんっ♡にゅるんっ♡にゅるんっ♡

「んぅ~っ♡ クリとびらびらっ♡ いっぱいこすれてきもちぃっ♡ しかも足ピンしてるからぁっ♡ ナカがすっごいきゅんきゅんしてるよぉっ♡」


 手と足をまっすぐ伸ばした体勢のまま身動きを封じられ、更には全身を締め付けられながら陰部を擦り上げられ、ルドヴィカの膣がひくひくと収縮し始める。
 当然のことながら足ピンオナニーの常習犯であるルドヴィカにとって、この体勢は最も膣内の感度が上がる魔の体勢であった。
 案の定、何度か舌が股の間を往復しただけで、急速に絶頂感が込み上げてくる。


「やばいっ♡ おまんこっ♡ ひくひくってぇっ♡ イッちゃう♡ すまただけでイッちゃうぅぅぅっ♡」

 にゅるんっ♡にゅるんっ♡にゅるんっ♡

「あーっ♡♡♡ イクイク、イクぅーーーっ♡♡♡」

 ガクガクガクッ♡ きゅんきゅんきゅん♡


 不規則な膣の引き締めを感じながら、ルドヴィカがあっけなく絶頂へと昇りつめた。
 同時に溢れ出た愛液をマンイーターは残らず舐め掬い、真っ赤に晴れ上がった陰核と肉びらが更に擦り上げられる。
 イッても尚続く快感にルドヴィカが身もだえしていると、快感で白んだ脳内に、ふと聞き覚えのない声が響いた。


【…しつっこいなぁ、お前! いい加減に消化されろよ! 普通の人間ならもう死んでるぞ?】


 スレミーのものとも、モードのものとも違う、男とも女ともつかないその声が聞こえた途端、ルドヴィカの脳を支配していた熱が急速に冷めていった。
 スレミーとのスライム姦プレイの時以来、運よく発生していなかったルドヴィカの最大級の地雷、”異種姦もので異種側が喋る”というアレである。
 十中八九、ルドヴィカの愛液に含まれている魔力を摂取したことにより能力が極めて向上し、心伝魔法による意志疎通が可能になったことによるものだろう。


「…はい、ゲームセットぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 ルドヴィカはありったけの魔力を込めて、植物系の魔物が最も苦手とする炎魔法を、マンイーターの袋の中からぶっ放した。
 ルドヴィカを単なる獲物と認識していたマンイーターは最期に【えっ?】とだけ言い残すと、次の瞬間にはその身体をすべて燃やし尽くされ、あっという間にただの消し炭へと化す。
 消化液まみれの全裸姿でマンイーターの捕食袋から生還したルドヴィカを、見張りをしていたスレミーがぷるんぷるんと飛び跳ねながら出迎えた。


【おかえりなさいでし、ご主人様! 無事に討伐できたでしね、さすがでし!】
「忘れてたわ、わたしのマン汁を飲んだヤツって喋りはじめるのよね! あーっ、せっかくの丸呑み体験、もうちょっと楽しみたかったのにーっ! くやしぃーっ!」


 丸吞みプレイを満喫しきれなかった悔しさのあまり地団太を踏むルドヴィカに、スレミーが困惑した様子で【勝ったのに悔しいんでしか…?】と疑問を呈する。
 贅沢を言えばもっとこう、呼吸困難なレベルの締め付けの中で全身をしゃぶられたり、みるみるうちに自身の身体が消化されていく絶望感のようなものを味わいたかったのだ。
 後者に至っては一歩間違えれば死に直結するプレイではあるが、ルドヴィカとしては文字通り消化不良に終わってしまったのが無念極まりなかった。


「魔人樹とヤったときも、リザードマンとヤったときも喋らなかったのに、なんで今回はこんなに早く喋りだしたのよ! いったい何の因果が…」


 直近の異種姦プレイを思い返すうち、ルドヴィカの脳裏にある仮説が浮かび上がってくる。
 魔人樹がルドヴィカの膨大な魔力を摂取したにも関わらず喋りださなかったのは、もともと魔人樹に施されていた成長促進の魔法に魔力が流れていったから、というのがスレミーの説明によるところだった。
 そしてリザードマンにはあらかじめ、ルドヴィカが催淫魔法を施しておいてから輪姦プレイへと臨んだ。
 つまるところルドヴィカを犯して尚喋りださなかったこの2種の魔物は、事前に魔法がかけられている状態でルドヴィカの体液を摂取した、という共通点があるというわけだ。


「…ってことは、その魔物にあらかじめ別の魔法をかけておけば、そっちの魔法に魔力が流れていくから魔物自体の能力は上がらないんじゃない!? つまり催淫魔法をかけておけば、わたしの体液を取れば取るほど魔物が発情していくという最強のループが完成するんじゃ!?♡」
【ぴえっ? ご主人様、どこに行くでし?】
「決まってるでしょ、この辺にいる別の魔物をとっ捕まえて実験するのよ!♡ ほらほら出ておいで、魔物ちゃーんっ♡ いっぱいシコシコしてあげるわよーっ♡」
【あっ、ご主人様お待ちくださいでしーっ! 人間って服を着なきゃいけないって聞いたでしけど、いいんでしかー!?】


 全裸のまま森を闊歩する魔物じみた人間を、主人に付き添ううちに人間への理解度が上がった魔物が必死で追いかけていった。



 * * *



 一方その頃、ルドヴィカの丸呑みへの情熱に一片の理解も示さない古代竜のモードは、人間の姿を取って街の中へ紛れ込んでいた。


(ふむ、あの荒れ地が千年でここまで発展を遂げるとは…。人間の知恵と意地は、時折目を見張るものがあるのう)


 千年前は草木も生えない荒れ地だった地が、千年の時を経て賑わいのある大きな街へと変貌していることに、モードは素直に感嘆した。
 あらゆる生物の頂点に君臨する竜種は根本的に人間を見下しているが、人間の男を伴侶に持つモードは比較的人間に興味を抱いている方である。
 このように街を散策して人間の営みを見ることは、モードにとって知的好奇心が満たされる謂わば趣味のようなものであった。


「そこのお嬢ちゃん、美味しい飴菓子はいかがかな?」


 ふと道すがらに並ぶ露店の店主から声を掛けられ、モードは足を止めた。
 店の前には木の棒に刺さった色とりどりの飴菓子が並んでおり、中には果物や動物の形をしたものもある。
 魔物であるモードが菓子を食べたところで腹は膨れないが、千年前にはなかった美しさと甘い香りに惹きつけられ、モードはその場から動けなくなってしまった。


「むぅ、精巧な細工じゃの…」
「そうだろうそうだろう、このイチゴ型の飴なんて本物そっくりの出来栄えだ! 1本でたった30G、どうだい?」
「なに、金子を取るのか? あいにく儂は手持ちがない」
「そうかい…。そいつは残念だな、さすがにタダであげるわけには…」
「おじさん、その真っ赤なイチゴの飴を2本ちょうだい?」


 ふと隣から聞こえてきた声に、モードと店主が同時に振り向く。
 2人の視線の先にいたのは、一目見て高価なものだとわかるほど作りのいいワンピースを着た、赤い髪と赤い瞳を持つ可憐な少女だった。
 モードと殆ど横ばいの背丈の幼い少女は、懐から飴2本分の硬貨を取り出して店主へと差し出し、にっこりと笑う。


「はい、お金」
「あ…ああ、確かに2本分だね。毎度あり!」


 店主は代金を確かめると、精巧に作られた苺の飴細工を2本取って、赤髪の少女へと差し出す。
 少女は「ありがとう」と微笑みながらそれを受け取ると、うち1本をモードに向かって差し出した。


「はい、どうぞ」
「……」
「はやく食べないと、溶けちゃうよ?」


 愛らしく首をかしげる少女に押し切られ、モードは黙って飴細工を受け取る。
 すると少女は満足そうに笑って、そのまま踵を返してどこかへ走り去っていった。
 ふわふわと揺れる少女の赤い髪を目で追いながら、モードは何やら奇妙な感覚が背筋に伝うのを感じた。


(あの娘、どこかで会ったことがあるような…? いや…儂は知らぬ、あのような赤い瞳を持つ人間など…)


 自身の瞳とよく似た色をした少女の瞳が、ふとモードの目蓋に焼きつく。
 この奇妙な感覚がいったい何なのか、この時のモードには皆目見当もつかなかった。



 * * *



「ミーシャ様、お薬の時間ですよ…って、なんですそれ?」


 アールノート伯爵家に仕えるメイドのコレットは、体調を崩して床に臥せているはずのミーシャの手に真っ赤な飴菓子が握られているのを見つけ、不思議そうに首を傾げた。
 ミーシャは楽しそうに笑いながら、本物の果実そっくりに作られたそれをぺろぺろと舐めている。


「お父さまのおみやげよ、キレイでしょ?」
「ヴェイグ様の? いつの間にお戻りになってたのかしら、てんで見かけていないけれど…」
「それより、またお薬? ミーシャ、もう元気だから大丈夫よ。はやくお外に出たいなぁ」
「いけませんよ、ミーシャ様はお身体が丈夫でないんですから。万が一また熱が出たりしたら、ヴェイグ様が悲しまれます」


 コレットの頑なさにぷくりと頬を膨らませるものの、ミーシャは素直に差し出された薬を飲み干した。
 飴菓子とは正反対の苦さが舌へと広がり、「うえぇ…」と舌を出しながら悶えるミーシャに対して、コレットは満足げな笑顔を浮かべている。


「コレットのいじわる…」
「なんとでもお言いになってください。ではわたしはまだ仕事がありますので、失礼いたしますね。また勝手にお屋敷を抜け出して、遊びに行ったりしたらダメですからね!」
「はーい」


 ミーシャが素直に頷いたことに安心し、コレットは仕事に戻るためミーシャの部屋を後にした。
 ぱたん、と扉が閉まったことを確認すると、ミーシャは口直しと言わんばかりに飴細工をぱくりと口に含む。
 自身の髪と瞳の色によく似た赤いそれに舌を這わせながら、ミーシャはふと、少女らしからぬ老獪な笑みを浮かべてみせた。


「ふふ…黒き竜モードよ、やはりお前も転生を果たしていたか。雌というのはまこと、愚かで哀れな生き物だな」


 口の中に含んだ飴を噛み砕きながら、ミーシャは仄暗く笑っていた。
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