こんな破廉恥な悪役令嬢が出てくるゲームって何?!

高瀬ゆみ

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6.アメリの魔具(2)



「レイス様? どうしたんですか?」
「どうしたも、こうしたも、ない……!」

 レイス様の息が荒い。見た目どおり体を動かすことは得意ではないようで、私とアメリの早足に追いついたレイス様は、呼吸を整えるのにしばし時間を要した。

「――君たち、歩くのが早すぎじゃないか?」

 先程の私と全く同じことを言う。問題なのは、私とアメリを一括りにされたことだった。

「ジェシカ様と同じ特技があるなんて嬉しいです」
「特技じゃないわ!」

 愛らしく頬を赤らめるアメリに、思わず声を荒げて反論する。公爵令嬢が野生児扱いされたらたまったものではない。
 こちらの機微など知らないレイス様は、アメリを否定されたと思ったのか目を吊り上げた。

「クランベル嬢、アメリに強く当たるのはやめていただきたい」

 感情を抑えた低い声が、私を非難する。

「そんなことしていないわ」
「自分で気付いていないのですか? アメリが転校してから、貴方は変わりましたよ」

 レイス様の言葉に思わず息をのむ。
 まさか乙女ゲームの強制力が働いて、自分でも気が付かないうちに悪役令嬢として動いていたのだろうか。
 得体の知れない薄気味悪さを感じてなんだか怖くなる。

 そう考えると、レイス様の私への態度にも説明がつく。十二歳の時に前世の記憶を思い出すまでは、第一王子や側近の二人ともそれなりに交流があった。仲が良いとまでは言わないけれど、友好的に話をした思い出だってある。

(それなのに、今は随分と嫌われてしまったものね)

 ここ数年はどこかよそよそしい態度だったけれど、ここまで酷くはなかった。少なくとも糾弾されることはなかったし、嫌悪を露わにされることもなかった。
 けれど、アメリが現れてから関係は変わってしまった。

「淑女としての教育を受けた貴方は、人に弱みを見せないようになった。それがアメリが来てからは子供のように感情を露わにしている」

 レイス様は冷ややかな視線を私に向けながら、吐き捨てるように言った。

「まさか、可愛らしいアメリに嫉妬しているのですか? 見苦しいにも程がありますよ」
「!」

 一瞬、前世で見た乙女ゲームの断罪シーンが頭をよぎって、息が止まりそうになった。
 斬首刑や投獄、修道院送りなど、ざまあされた者たちの悲惨な末路を思い起こしてしまう。不安な気持ちに心を乱されてしまったけれど、それでもゲームの強制力なんかに絶対負けたくなかった。

 唇を引き結んでレイス様を見つめる。瞳が揺れてしまっていることに気付いていたけれど止められなかった。

「嫉妬? そんな愚かなこと、わたくしがすると思って? 失礼だわ」

 目に力を入れて睨むように見つめる。私の顔を見たレイス様は小さく息をのんで、途端に慌てだした。

「ま、まさか泣いているんですか?」
「泣くわけないでしょう!」

 公爵令嬢はむやみに泣き顔を見せてはいけないと、教えられているんだから。

「そんな顔で言われても説得力がありませんよ」

 そう言って困った顔をされる。レイス様の右手が胸元まで上がり、そのままピタリと止まる。私の顔を見つめながらしばらくの間逡巡していた手は、そのまま自身の首に手を当てることで落ち着いたらしい。

「……」
「……」

 気まずい雰囲気の中、その場の空気を変えたのはアメリだった。アメリはテキストを抱えながらポンと手を叩くと、ポケットから何かを取り出した。

「私、自分の魔力量を活かして、魔具を作り始めたんです!」

 そう言って見せたのは、ピンク色の筒状の機械。先端が丸みを帯びていてマイクのような形になっている。
 アメリが魔力を込めたのか、先程まで止まっていた『ソレ』が、ヴヴヴヴヴ……と音を鳴らして振動し始めた。

「この魔具で、ジェシカ様を笑顔にして差し上げますね!」

 そう言ってアメリはニッコリ笑った。

「これで、わたくしを、笑顔に……?」

 コレを、使って。私を笑顔にするの?
 …………どうやって?

 アメリが持っていたのは、前世の記憶で言うところの『ハンディマッサージャー』。またの名を――『電マ』と呼ばれるものだった。


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