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15.魔具『ペッタンくん』(1)
しおりを挟む乙女ゲームのヒロイン・アメリが作った魔具のせいで、アメリが転校してから今日に至るまでの間に、既に二回も被害を被っている。まだ出会ってから三ヵ月しか経っていないことを考えると、驚異のペースである。
しかも魔具だけではなく魔法の暴走によって生じる事件もある。いくらヒロインとはいえ、悪役令嬢を懲らしめすぎではないだろうか。
だから、休憩時に立ち寄った貴族学校の庭園で怪しい動きをするアメリを見掛けたときには、何も見なかったことにして踵を返そうか本気で悩んだ。
「貴方、何をしているの……?」
それでも声を掛けたのは風紀委員長としての使命感に他ならない。
私だって、出来ればヒロインに関わりたくない。
これまで何度も痛い目を見てきたのだ。
でも、学校で風紀委員長を任されている以上、公爵家の者として役目は果たさないといけない。庭園にいる生徒たちがアメリを見て怯えていることに気付いてしまった以上、不審なものは即刻排除すべきだろう。
「ジェシカ様!」
私に気付き、パアッと顔を輝かせたアメリは、敵ながらとても可愛い。
でも得体の知れないモノを頭上に持ち上げながらニッコリ笑われると、恐怖しか感じないのは何故だろうか。
アメリが持っている『ソレ』は、前世でいうところのお地蔵様の石像にそっくりだった。異なる点は額に付いたボタンの有無だろうか。
ただ、この世界にはお地蔵様を祀る信仰はない。仮にあったとしても異様であることに違いないが、慈愛に満ちた笑みを浮かべて両手を合わせている『ソレ』を持ち上げるアメリは明らかに浮いていた。
「……その、手に持っているモノは何ですの?」
「これは私が作ったオリジナルの魔具です! 今は太陽の光を吸収させて、充電しているんです」
「そ、そう……。変なことをしていないのならよかったわ。ほどほどになさいね」
確実に不審人物ではあるものの、自分の能力を活かすために試行錯誤しているだけなら問題ないだろう。学生として立派な心掛けである。
問題行為ではないと分かれば長居をする気はない。話を終わらせて場を離れようとしたところ、空気を読まないヒロイン・アメリは「そうだ!」と明るい声を出した。
「もしよろしければ、ジェシカ様に私の作品を紹介させてください!」
「結構よ!」
全力の拒絶も虚しく、アメリは得体の知れないモノの額に付いたスイッチを押していた。
……返事を聞く前にボタンを押すってどうなのよ……
「私が作った『ペッタンくん』は、磁石の力を応用したものになります。例えばN極のシートをジェシカ様に貼って……」
そう言って、アメリは鞄からマグネットシートのようなものを取り出すと私の胸元に貼り付けた。
――えっ、なんで抵抗しないのかって?
ふふふ、私だって逃げ出したいわ。
でもアメリがスイッチを押した瞬間、お地蔵様によく似た『ペッタンくん』から電流が放たれ、地面に流れていった。その結果、周辺一帯が磁場になったようで、体が、一切、動かないのよ……!
「貴方! 早くスイッチを切りなさい!」
「えっ、でもあともう少しなんです。あとはこのS極のシートを誰かに……」
キョロキョロと辺りを見回したアメリは、離れた場所で第一王子と騎士団団長の息子が動けないでいるのを見つけて顔を輝かせた。
……嫌な予感しかしない。
「ゴーシュ様! いいところに!」
「な、何故体が動かないんだ⁉ クソッ、エドワードに対する反逆者か⁉」
違います。このバカ(ヒロイン)の仕業です。
「ゴーシュ様、少し体をお貸しくださいね。えーっと、ゴーシュ様の体に、このS極のシートを貼ると……」
アメリがゴーシュ様に魔具を貼った瞬間、ぎゅんっと自分の体が引っ張られた。
「ひゃっ、わっ、あっ」
「なっ⁉ わ、わ」
ドンッと強い衝撃を受けて、思わず目をつぶる。
硬いけれどどこか安心感のあるものに体を支えられて、恐る恐る目を開けると……
「……また同じ体勢だな」
苦笑いを浮かべた精悍な顔が、キスしてしまうくらいすぐ近くにあった。
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