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20.授業で発情って何?(2)
しおりを挟む――ジャアアアアア……
「…………」
水が冷たい。でもそれ以上に怒りが込み上げてきて体が熱い。
頭から水を被り、ずぶ濡れになった私はアメリを睨み付けた。
「ア~~メ~~リ~~!」
「ご、ごめんなさいいい!」
特別教室にアメリの謝罪の声が響き渡った。
公爵令嬢が頭から水をかけられるという屈辱的な事態に、すぐさま風魔法を自分にかけて服と髪を乾かすと、私はアメリに詰め寄った。
「貴方、わたくしに何か恨みでもあるの⁉」
「ごめんなさいっ! わざとじゃないんです! 『ミドリちゃん』も悪気はないんです!」
「貴方が甘やかすからいけないのではないの? 出来の悪い子供には仕置きが必要ではなくて⁉」
「そ、それだけはご勘弁を……!」
手のひらから火球を出すと、アメリが必死に頭を下げる。
見るに見かねたのか騎士団団長の息子であるゴーシュ様がこちらにやってきた。
「おい、それくらいにしてやってくれないか」
困ったように眉を下げながらこちらを見やる。精悍な顔立ちの彼がそんな顔をすると、なんだか母性本能をくすぐられそうになるけれど、それとこれとは別だ。アメリの肩を持つゴーシュ様に言い返そうとしたときだった。
――ゾクッ……
体の奥から疼くような感覚が生まれて、私は口を閉ざした。自分の体に起きた変化についていけず、動きを止める。
(……なに、かしら……)
気のせいかと思ったのも束の間、体の奥底から強い疼きが込み上げてきた。
「……ッ!」
その疼きは熱を生み、だんだんと体が熱くなる。ふらっとよろけてしまいそうになって、体を支えるように机に手をついた。
「……ハァ……っ……」
――熱い……
熱くて、ゾクゾクが止まらない……
「ジェシカ様?」
私の異変に気付いたアメリが声を掛ける。
「どうかしましたか?」
心配そうに伸ばされた手が肩に触れる。その途端、痺れるような快感が襲い、思わずアメリの手を振り払った。
「やめて!」
思った以上に力強く振り払ってしまい、バシッと強い音が出る。
目を見開いて驚いた顔をするアメリにチクリと胸が痛みながらも、今はこの体をどうにかするのが先だった。これ以上この場にいたら醜態を見せてしまいそうで、先生に向かって声を張り上げる。
「わたくし、気分が悪いので今日はもう帰りますわ! 失礼いたします!」
「えっ、あ、はい」
先生からの許可を得る前に立ち上がり、教室を後にする。
後ろからゴーシュ様の怒鳴り声が聞こえた気がしたけれど、今はそれどころではなかった。
――熱い……熱い……熱い……
体が燃えるように熱い。
ハァハァと息を乱しながら帰り道を急ぐ。幸いなことに廊下には人気がなくて、こんな無様な姿を誰かに見られずにすんだ。
なんでこんなことになってしまったんだろう。
なんで私はこんなに高ぶっているんだろう。
体をいたぶるこの熱を一刻も早く消し去りたいのに、その手段がない。この世界では治癒魔法は禁じられており、魔法ではどうすることもできない。今まで貴族令嬢として培ってきた知識の中にも、こんな状況を変える方法などなかった。
「ッ……ァ……」
歩くだけで体の疼きは酷くなる。気を抜くとその場にしゃがみこんでしまいそうで、失態を見せる前に早く家に帰ることだけを考えていた。
それなのに……
「――クランベル嬢!」
馴染みのある低いその声を聞いた瞬間、思わず舌打ちをしたくなった。
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