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24.医療行為だから……(3)
しおりを挟むクロードと目が合う。
感情の読めない顔で、クロードが私を凝視している。
時が止まったような心地だった私は、自分の状況を思い出して悲鳴を上げた。
「なっ⁉ な、な、なん、なんでクロードがここにいるの⁉」
確かに人払いをお願いしたはずなのに!
――というか……
「ノックくらいしなさいよ馬鹿ァ!」
(クロードに見られたクロードに見られたクロードに見られた……!)
羞恥と混乱とで目が回りそうになる。私、今、どんな格好をしているの……?
「……侍女から様子がおかしいと聞いて、てっきり体調不良で臥せっているのかと思い、入眠を妨げないよう入室したのですが……」
クロードの黒い瞳が私を一瞥する。
「まさかお嬢様の自慰の現場に遭遇するとは思ってもみませんでした」
「いやあああ!」
死んだ! 社会的に死んだ! 羞恥で恥ずか死ぬ!
しかも最悪なことを思い出してしまったけれど、私まだスカートの中に手を入れたままなのよね⁉
慌てて手をどかそうとした私に更なる悲劇が起きた。
つい先程までショーツに向かって伸ばされていた手を動かしたことで、勢い余ってクロッチの、それも蓄積された快感によって大きく膨らんだ花芯を擦ってしまった。
「ああぁぁあ! だめええええ!」
固くしこった突起をぐりっと勢いよく自分の指の腹で押し潰してしまい、背筋を突き抜ける強い快感に目を大きく見開く。体が跳ねるのを止めることができない。
信じられないくらい、気持ち良い。
ずっと溜め込まれていた欲望が一気に爆発して、多幸感に包み込まれる。
「ぁぁ……んっ、は……ぁ……」
ベッドヘッドにしどけなく体を預けながら、全身に広がる甘い余韻に浸る。
生まれて初めての絶頂は頭をピンク色に染め上げて、一瞬クロードのことを忘れてしまった。
一度イッたことで本来であれば落ち着くはずが、私の体は再び熱を帯びて刺激を求めだす。成長液での強制的な発情は、一度の絶頂ではおさまらないようだった。
「やっ! また……」
再びもたらされる体の疼きに思わず涙目になる。前かがみになりながら、ハァハァと荒い息をついていると、迫るような低い声が耳に届いた。
「…………これは、どういうことですか?」
一時ではあるもののクロードのことをすっかり忘れていた私は、のろのろと顔を上げる。
眉をひそめたクロードが私を凝視する。
「その状態異常はなんです? お嬢様は何故発情しているのですか?」
クロードの纏う空気がピリピリとした張り詰めたものに変わっていく。
「薬でも飲まされましたか? 誰に? ……いえ、それよりも……」
黒い瞳がギラリと光る。
「――何か、されましたか?」
クロードから燃え滾るような激情が滲み出る。
苛立っているどころではない。恐ろしいほどの憤りがクロードから伝わってきた。
「あ……」
熱に浮かされた今の状況でも、クロードが怒っているのが分かる。
ベッド脇にいたクロードが、荒々しくベッドに乗り上げた
「無理矢理欲情させて、貴方の体を見て、触れて、好きにしたヤツがいる?」
どす黒いオーラを身にまとい、端正な顔立ちに怒りの色を露わにしたクロードからは、抑えきれない魔力が溢れ出ていた。
「どうなんですか?」
ドンッ! と音を立ててクロードの手が壁を殴る。ベッドヘッドに背を預ける私に覆いかぶさるように近付くと、クロードは顔を寄せた。
私を見つめる黒い瞳は凶悪な光を放っている。
「答えろ、ジェシカ」
普段は冷静沈着な執事が、今にも人を殺してしまいそうな目で私を見下ろしていた。
ギラギラとした眼差しは狂気を孕んでいるようだった。普段冷静なクロードがここまで感情を露わにしている。
自分の発言次第で、執事が殺人鬼になってしまうという恐るべき状況の中、私はゴクリと唾をのんだ。
「わ、たくし……誰にも触れられてなんか、いないわ……」
体は再びドロドロとした熱を抱えて、快感を求めている。早く刺激をよこせと訴える体に身震いした。
「何も、されてなんか、ない……」
その言葉を聞いて、クロードは眉を吊り上げる。きっと誰かを庇っていると思ったのだろう。クロードは苛立たしそうに声を荒げた。
「だとしたら一体何故⁉」
「そんなこと、より」
ハァ……と吐き出した息が熱い。頬の熱さを感じながら、目の前にいるクロードをじっと見つめる。
「クロード……」
縋るような声が出てしまったのは仕方ない。彼にこの熱をどうにかしてほしかった。
「お嬢様」
驚いたように見開かれる瞳。クロードの強い眼差しを一心に浴びながら、私は口を開いた。
「あのね。もう、限界……」
ぐるぐると目が回って、これ以上会話を続けていられない。もう、無理、意識が遠のいていく……
焦るクロードの声を聞きながら、私はすうっと意識を手放した。
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