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25.執事の忠告(1)
しおりを挟むじんわりと体の中が温かくなる。
心地良いぬくもりが体を癒すように、足の先から頭のてっぺんまで体全体に染み渡っていく。無意識のうちにほぅっと息をついた。
ゆっくりと現実に引き戻されていくのが分かる。促されるまま目を開けると、クロードがベッド脇に立っているのが見えた。
「起きられましたか」
いつもと変わらない執事の姿。
いつの間にか眠ってしまっていたようだった。気分はすっきりとしていて、逆に違和感を覚える。自分の体を見ると、きちんと夜着を身に纏っていた。
「わたくしは、一体……」
体を起こそうとすると、クロードが手を差し伸べて背中を支えてくれた。
成長液によって強制的に高められていたはずなのに、その現象が今は全くない。それどころか気分は爽快ですっかり元気になっている。
「覚えていらっしゃいますか?」
「ええ。でも……」
あれだけの体の疼きが綺麗さっぱり無くなっていることが不思議でならない。
戸惑う私に、クロードはしれっととんでもないことを言い放った。
「お嬢様は一人遊びで盛大にイってしまわれましたから、それで満足なさったんじゃないですか?」
「!」
意識を失う前の痴態を指摘されて、カッと頬が赤く染まる。
「なっ……なっ……」
「気を失うくらいの快感だったみたいですし、状態異常はそれで発散……」
「もう言わなくていいわッ!」
淡々と告げられる言葉に居たたまれなくなって思わず声を荒げて制止する。
幼少期から側にいた執事に初めての自慰を見つかったばかりか、イく瞬間まで見られてしまった。トラウマになるレベルの黒歴史だ。私の自尊心はボロボロだった。
(どうにかしてクロードの記憶を消せないかしら⁉)
クランベル公爵家の力を使ってどうにかできないかと考えていた私は、クロードの雰囲気が変わったことに気付くまで時間を要した。
「――それで?」
「えっ?」
「どうしてこんなことになったのですか?」
クロードの黒い瞳が真っ直ぐに私を捉える。
全てを見抜くような強い視線。先程の禍々しい圧と比べて、今はとても静かだけれど、どこか張り詰めた緊張感がある。
ここで選択を誤ったら、今の生活が変わってしまいそうな、そんな雰囲気。それはまるでゲームの選択肢を提示されているようだった。四つ中、三つがバッドエンドに繋がる回答で、このままゲームを続けたければ一つを選ぶしかない。
元より嘘をつくつもりはなかったため、私は貴族学校で起きた出来事をそのまま伝えた。
「またアメリ・バーナードですか……」
話が進むにつれて、クロードの顔がどんどん険しくなる。
その顔を見て本能的な危険を感じた私は、これ以上怒らせるのは得策ではないとゴーシュ様との一件は黙っていることにした。
「危険因子ですね。腑に落ちない点はありますが、それでも彼女の存在はお嬢様に悪い影響を与えていそうです」
淡々と言葉を発するクロードの声は、どこか冷たい響きをしている。
邪魔な存在を排除するのも厭わないと言わんばかりの、そんな響きだった。
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