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26.執事の忠告(2)
しおりを挟む顎に手をあてて考え込むクロードを見ながら、ふと、取り巻きのご令嬢から聞いた噂話を思い出す。
『アメリ・バーナードは在学中に婚約者を見つけないと、好色と有名な商人の妾にされてしまうそうですよ』
だから第一王子たちに対して必死になって媚びを売っているのだと、そう言って笑っていた。
「……」
学校でのアメリの様子を思い起こす。恋愛どころか、得体の知れない魔具を作ってはトラブルを起こしてばかりで、自発的に婚約者を見つけようとしている様子は全くない。けれどその噂は本当のようで、取り巻きのご令嬢の質問に困ったように笑いながら肯定するアメリを見たことがあった。
アメリがどうなろうが、私には関係ない。婚約者を見つけられないまま一年間の学校生活を終えようが、第一王子と婚約しようが、どうでもいい。
だから――……
「お嬢様、でしたら彼女を……」
「今回のことは不慮の事故だったのよ!」
クロードの言葉を遮って私は声を上げた。僅かに目を見開いたクロードが咎めるようにこちらを見る。視線が少し怖くて、逃れるようにツンと顎を上げてそっぽを向いた。
「授業に失敗は付き物でしょう? 慈悲深いわたくしは、身を挺してクラスメイトを事故から守って差し上げたの。我ながらなんて器が大きいのかしら!」
「……ですが……」
「それに!」
赤く染まった頬を隠すようにクロードを睨む。
「わたくしの身にあんな、は、破廉恥なことが起きたなんて誰かに知られるのは絶対に嫌よ」
ベッド横に立つクロードを見上げ、唇を引き結んでじっと見つめる。
名誉のために公にしたくないと言えば、理由としては十分だろう。
絶対に引かないぞ、と意思の強い顔をしてみせると、溜息をついてクロードが折れた。
「……分かりました。お嬢様がそこまでおっしゃるのなら、今回は何もいたしません」
「そう」
ホッとしたのも束の間、クロードは厳しい顔を変えないまま忠告した。
「ただし。次に同じようなことがあれば、その時はアメリ・バーナードに何らかの対応を取りますので、そのつもりでいらしてください」
「分かったわ」
「お嬢様もですよ」
「えっ?」
なんのことか分からず首を傾げる私を、感情の読めない目でクロードが見つめる。
「次にお嬢様の身に何かあれば、同じように何らかの手を打たせていただきます」
急にクロードから発せられる圧が強くなったようで、無意識のうちに体を後ろに反らす。
「お嬢様の申告上では、今回は悪意ある行為ではなく、なおかつ誰にも触られていないようですが?」
じりじりと焼けつくような強い眼差しに、視線を逸らしたくなるのを必死で耐える。
……ゴーシュ様に触れられたことは言ってないけれど、別に大丈夫よね?
ほんの少し腕を掴まれたくらいだものね⁉
ただ、その後あられもない声を上げたことまで思い出して、居た堪れない気持ちになる。
気まずい……ゴーシュ様と学校で顔を合わせるのが憂鬱すぎる。
僅かな表情の変化を見逃さなかったクロードが眉を吊り上げた。
「お嬢様?」
「なんでもないわ!」
「……全力で否定する方が逆に怪しいのだと、ご理解された方がよろしいかと」
うっ……と言葉を詰まらせると、追い討ちをかけるように不穏な質問を投げかけられた。
「お嬢様は学校がお好きですか?」
「え? ……ええ、まあ」
クロードの質問の意味が分かりかねて、とりあえず曖昧に言葉を返す。腰が引けた私に対して畳み掛けるようにクロードは続けた。
「ちゃんと卒業したいですか?」
「……ええ、まあ……」
なんだろう。執事から脅されているように感じるのは気のせいだろうか……
「それなら貴方の身を危険に晒すような真似はなさらない方が賢明です。よろしいですね?」
クロードが真っ直ぐ私を見つめる。
執事のくせに、随分と上からの物言いね! ……と抗議したい気持ちはあったものの。
長年の付き合いから、こういう時のクロードには逆らわない方がいいと身に染みている私は、大人しく頷いた。
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