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27.魔具『本音カタールちゃん』(1)
しおりを挟むクロードから忠告という名の脅しを受けた私は、アメリから距離を取ることに決めた。
――でも、今までだって悪役令嬢ポジションから抜け出すためヒロインのアメリとは関わらないようにしていたはず。その結果がこの有り様だ。
もっとあからさまに拒絶するようなことをすべきだろうか?
(アメリには失礼に当たるくらい態度で示していると思うのだけど、これ以上何をすればいいのかしら……)
昨夜から考えているものの良いアイデアが思い浮かばず今に至る。どうしたものかと思いながら教室に入ると、そこではいつも通りの光景が広がっていた。
自分の席に座るアメリを取り囲むようにして立っているレイス様とゴーシュ様。
そして見目麗しい殿下の側近を二人も侍らせた彼女を、険しい眼差しで見つめるご令嬢たち。
最近ではアメリを囲む輪の中にエドワード殿下も混ざるようになっていたけれど、今日は姿が見当たらない。公務で不在にしているのだろうか。
クラスの喧騒を横目にそしらぬ顔で席に着こうとしたが、それを妨害する者がいた。
「ジェシカ様!」
「……なんですの」
距離を取ると決めた矢先にアメリから声を掛けられてしまった。ここで無視を決めてもアメリのことだ。私が反応するまでずっと纏わりついてくるだろう。「あれ? 聞こえなかったかな? おーーーい、ジェシカ様――!」なんて言って、手を振る姿が目に浮かぶ。
解像度が高すぎるあまり、想像上のアメリにもイラっとしてしまった。これなら最初から反応した方がマシだ。
渋々振り返ると騒ぎの中心であるアメリが駆け寄ってくる。クラスメイトの好奇に満ちた視線が集まるのを感じて内心げんなりした。
「ジェシカ様! あの、昨日は」
「クランベル嬢」
アメリの声に被せるように切羽詰まった様子で名を呼ばれる。先程までアメリの席近くにいたはずのゴーシュ様まで側に寄ってきた。
真っ直ぐにこちらを見つめるゴーシュ様の表情は、どういうわけか真剣そのもの。男らしい顔付きの彼がそんな表情をしていたら、ドキリと胸を高鳴らせるご令嬢はたくさんいるはずだ。
アメリとゴーシュ様の顔を見ていると、昨日の出来事を思い起こしてしまって、じわじわと頬が熱くなる。
二人が私のもとへ来る理由といえば、昨日の授業のこと以外考えられない。しかも、ゴーシュ様には熱に浮かされた顔や変な声まで見聞きされている。
恥ずかしいと騒ぎだしたくなる感情を必死で抑えながら、下手なことを言われる前に先手を打った。
「魔法植物の授業でのことなら、わたくし気にしておりませんわ。だから貴方たちも、昨日のことは、すべてなかったことにしてちょうだい」
『すべて』の部分を強調しながら、キツイ眼差しで二人を睨むように見つめる。
目尻が赤く色付いているせいで大して怖そうには見えなかったという事実を知らない私は、威圧感を示したつもりになっていた。
「だが、それでは……」
「これ以上、昨日の話をする気はありません。失礼いたしますわ」
なおも食い下がろうとするゴーシュ様を置いて、これ以上声を掛けられないようにと取り巻きのご令嬢たちのもとへ向かった。
アメリとゴーシュ様からの物言いたげな視線を感じながらも、授業の間以外はずっと誰かと一緒にいた私は、その後一度も話し掛けられることなくその日を乗り越えることができた。
気にしていないと伝えてあるし、さすがに連日付き纏われることはないだろう。このまま記憶の奥底に沈めて、全てなかったことにしてほしい。
クロードも昨日のことは忘れてくれないだろうかと考えて、あの痴態がクロードの記憶に残ることを思うと居たたまれない気持ちになる。やっぱり記憶消去の魔法を使える魔導士を探し出すしかない。
(いくら私が公爵令嬢といえど、難易度が高すぎるわ。国お抱えの魔導士の中にできる者はいるか、父様に聞いてみようかしら)
それとも魔法教育に熱心だという隣国の伝手を辿ったほうがいいだろうか。
風紀委員関係の書類を提出するため、今日の放課後は生徒会室に行くことにしていた。
生徒会室に向かいながら、もしエドワード殿下がいたら彼にもそれとなく聞いてみようと思い立つ。
現生徒会長は第一王子が担っているため、生徒会メンバーは自然と王子側近で固められている。生徒会室の扉の前には護衛騎士が立ち、王宮さながらの警備体制だ。
入室の許可を得ると、優雅に見えるよう幼いころから教育された礼をとる。
「クランベル公爵家のジェシカでございます。書類をお持ちいたしました」
ゆっくり顔を上げると、部屋には生徒会長であるエドワード殿下はおらず、いるのは宰相の息子であり生徒会役員を務めるレイス様と、……なぜかアメリがいた。
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