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54.執事への命令(2)
しおりを挟む「アメリ!」
慌てて側に駆け寄る。支えながら体を起こすも、まだ目をつぶったまま。
「お嬢様、彼女は今どのような状況ですか?」
「睡眠効果のある煙を吸ってしまったの」
私がそう言うと、クロードはアメリの額に手を近付けた。手のひらからぽうっと金色の光が溢れる。
私たちが見守る中、しばらくしてアメリはゆっくりと瞼を開けた。
「あれ? 私は……?」
ピンク色の瞳をパチパチと瞬かせて、アメリが不思議そうに辺りを見回す。
「アメリ! 良かった!」
「ジェシカ様……あれ? クロード様もいる」
首を傾げたアメリに、クロードはゆっくり伝えた。
「貴方たちは不届き者によって捕らえられていたようです。犯人の男はあちらで拘束しておりますので、どうぞご安心ください。もう無事ですよ」
「えっ! 男って、あそこにいる先生のことですか⁉」
そう言ってアメリが目を見開く。
私はその様子を見ながら、男が語っていたことはアメリには伏せておこうと改めて思った。ゲームの世界だとか、しかもそれが成人向けで、私たちが登場人物だとか、そんなことはアメリに聞かせたくない。
もしかしたら、犯行の供述時に男が何か言い出すかもしれない。万が一のことがないようクロードにも頼んでおこうと彼の方を見て、私は息をのんだ。
「ええ、そうです。危うく大変なことになるところでしたが、貴方の魔具のおかげで事なきを得ました」
「もしかして『覚醒できールくん』ですか? お役に立てたようでよかったです!」
ニコニコと笑うアメリを見て、クロードが小さく微笑む。
そして床から何かを拾うと私に見せてくれた。それはクロードから貰ったネックレスについていたペンダントトップで、見ると黒い石が割れて壊れてしまっている。
「お嬢様にお渡ししていたこのペンダントトップは、バーナード様に作っていただいたものです。魔法石に私の魔力を込めて、お嬢様にお持ちいただいておりました」
「『覚醒できールくん』は身に着けた人が強い恐怖を感じたときに、魔法石の魔力を使ってパワーアップできるようにしたんです!」
折角二人が説明してくれているのに、頭にちっとも入ってこないまま話が通り抜けていく。
私の頭を占めるのは、クロードの優しい表情だけ。嬉しそうなアメリを見て、優しく微笑んだ彼の表情が頭から離れない。
「『覚醒できールくん』を作るときは大変だったんですよ! クロード様がジェシカ様の……」
「おっと。バーナード様、髪に何かついておりますよ」
アメリの乱れたピンクブロンドの髪に、クロードの細く綺麗な指がそっと触れる。
クロードの顔がアメリに近づき、耳元で何事か囁くのが分かった。
絵画になりそうなほど、お似合いの二人。
悪役令嬢が入り込む隙間なんて、かけらもない……
クロードに何か言われて「あはは……」と頭をかいたアメリは、クロードから離れると私に向かって明るく笑った。
「ジェシカ様がご無事でよかったです!」
「アメリ……」
私の心の陰りなんて追い払ってしまうほどの眩い笑顔。
今の私には明るすぎてしまって、無意識のうちに目を細めた。こんなの、二人の仲を祝福しないわけにはいかないじゃない。
「……ありがとう」
胸に巣食う思いと決別して、小さく微笑んだ。
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