9 / 30
8.イケメンも地位も望んでません!
しおりを挟むいつものように図書室で勉強していたエリザベスは、目の前に現れた男を見て眉をひそめた。
――なんか、増えた……
突然やってきて勉強の邪魔をするのはアンソワ殿下だけだったはずなのに……
なんで彼まで……
エリザベスは、自信に満ち溢れた様子のレイフォード・ユナイドルを見て内心溜息をついた。
……と思っていたら、内心だけでなく実際に出てしまっていたらしい。
ハァ……と溜息をついたエリザベスに、レイフォードは誰からも称賛される魅力的な顔を強張らせた。
「……僕の顔を見てあからさまに溜息をつく奴は初めてだよ」
「申し訳ございません。止めようと思ったのですが、我慢できずに出てしまいました」
「そっちの方がムカつく」
女性受けしそうな甘いマスクを歪ませたレイフォードは、気を取り直してエリザベスに向かって言った。
「今日は、キミと取引をしたくて来たんだ」
「取引、ですか?」
「そう。キミが王太子殿下と懇意になりたがっていることは知っている。そして、王太子殿下と週に一度会話をする機会を与えられていることも」
「……ちょっと待ってください。そもそも前提が違います!」
ペラペラと話し始めたレイフォードに思わず待ったをかける。
――なんで私が殿下とお近付きになりたい前提なんだ!!
しかもなぜか、殿下の優しさでエリザベスに時間を与えられているような口ぶりだ。
「貴方が私のことをどう思っているのか知りませんが、私は自分の身の丈をよく分かっています! 殿下と釣り合わないことくらい分かります!」
「お前なんかがアンソワと釣り合うわけないだろ。なんて恐れ多い」
――だぁかぁらぁぁぁ!!
心の中でぎゃああと叫んだエリザベスは、会話が噛み合わないことに諦めてとりあえず話を聞くことにした。
「……なんだソレは」
突然ハンカチで口を押さえだしたエリザベスに、レイフォードが訝しげに尋ねる。
「自分を必死で押さえておりますの。気になさらず話を続けてください」
ハンカチで口を覆ったままモゴモゴと話す。
そんなエリザベスを怪しいものでも見るような目で見たレイフォードは、気を取り直して話を続けた。
「キミの生い立ちは調べたから知っている。平民として暮らしてきたキミには貴族としての素養がない」
嫌なところを突いてくるレイフォードに、エリザベスは文句を言いたくなるが口元のハンカチがそれを止めてくれている。
ハンカチが意外と役に立っている。
「そんな女が王太子殿下の側にいるのはこちらにとっても都合が悪い。だから、僕がキミに、貴族としての完璧なマナーを叩きこんであげるよ」
「!」
思いがけない提案に、エリザベスは目を見開く。
エリザベスが玉の輿に乗るために、ずっと抱えていた問題を解決するチャンス。
それが本当なら、ぜひともお願いしたい。
でも――
貴族の提案には、きっと何か裏がある。
レイフォードの目的はなんだろうか?
エリザベスの視線に気付いたレイフォードが、目を細め魅惑的な笑みを浮かべて言った。
「その代わり、条件がある。ここにいる間だけ、僕の恋人になってほしい」
「恋人……?」
不可解な言葉に、エリザベスは思わずハンカチを離して尋ねてしまう。
「そう。図書室にいる間だけの、かりそめの恋人。もちろん図書室から出たら僕たちは何の関係もない。ただの他人だ」
レイフォードの言葉にエリザベスは少し考えて、そして口を開いた。
「二つ質問してもいいかしら」
「どうぞ?」
「貴方に婚約者は?」
「いないよ」
「そうですか……。あと、恋人というのは身体的接触も含まれますか?」
「含むかもしれないね。でもそれは一般的な恋人同様、お互いに同意すれば、だけど」
「……」
エリザベスはレイフォードを見つめる。
レイフォードは『恋人』と言ったけれど、彼がエリザベスに恋心を抱いているようには到底見えない。
それに、偽りの恋人を求めるほど女性に困っているようにも見えなかった。
甘いマスクに侯爵家という地位、どこを取っても魅力的な彼ならば、例え性格に難があったとしてもいくらでも女性が寄ってくるはずだ。
でも、言い出すからには何か意図があるのだろう。
それが何なのか今はまだ分からない。
単純に「抱かせろ」と言われていたら即座にお断りしていたけれど、接触があるかもしれない程度ならエリザベスに選択の余地はありそうだ。
エリザベスは得られるものとリスクとを天秤にかけて、得られるものを選んだ。
「いいわ。貴方との取引に応じます」
エリザベスは今の状況を打開しないといけない。
そのためには歩みを止めるわけにはいかなかった。
「私のことはエリザベスとお呼びください」
ニコリと笑ったエリザベスに、レイフォードも不敵に笑う。
「僕のことはレイフォード、と。よろしく、エリザベス」
「よろしくお願いします。レイフォード様」
お互い真っ直ぐに見つめ合う。
挨拶をしながら二人は自然と握手を交わしていた。
……それは、『恋人』と言いながら『ビジネス』にしか見えないやり取りだったけれど、達成感でいっぱいになっていた二人は残念ながら気付いていなかった……
1
あなたにおすすめの小説
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
田舎娘をバカにした令嬢の末路
冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。
それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。
――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。
田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。
夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!
佐藤 美奈
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。
「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」
冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。
さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。
優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。
悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」
公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。
忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。
「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」
冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。
彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。
一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。
これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。
私はざまぁされた悪役令嬢。……ってなんだか違う!
杵島 灯
恋愛
王子様から「お前と婚約破棄する!」と言われちゃいました。
彼の隣には幼馴染がちゃっかりおさまっています。
さあ、私どうしよう?
とにかく処刑を避けるためにとっさの行動に出たら、なんか変なことになっちゃった……。
小説家になろう、カクヨムにも投稿中。
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる