婚約者を奪われ追放された王女ですが、新天地で突然求婚されました。

のんのこ

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悪名高き王女様

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隣国にやって来て数日、新しく編入する学園にようやく足を踏み入れた。

緑が多くて、風通しのいい爽やかな学び舎。

どのような学園生活が待っているのか、不安と期待が入り交じった不思議な心地だった。


「ようこそ、我が校へ。ルルシア殿下」

応接室で丁寧に出迎えてくれたのは、この学園の学園長、ルブラン卿。

代々王族の家庭教師を務めるルブラン公爵家出身で、彼自身もこうして国の教育機関に携わる要人だった。


「僭越ながら、ルルシア殿下の評判は良くも悪くもこちらの国にも届いております。気分を害されることもあるやもしれません。しかしながら、貴殿の祖国とはまた違った景色、違った文化に触れ、充実した日々を過ごしていただきたいと、そう心より願っております」

「ありがとうございます。この学園で多くの学びを得られるよう、精進いたします」

「それでは、今からは学園の教員として、一生徒への対応に切り替えさせていただきますが、よろしいですか?」

「勿論です」

そうしてしばらく談笑していると、トントンと扉をノックする音。

卿が返事を返すとすぐに扉が開き、入ってきたのは私と同じ柄の制服に身を包んだ男子生徒だった。


「我が学園には生徒会という組織があって、こちらの彼は会長を務めるアレクセイ。この国の王太子でもあり、何かと忙しい身ではあるが、君と同じクラスだから困ったことがあれば頼るといい」

「ルルシア・ルーチェ・ローゼンハイムです。よろしくお願いいたします」

王太子でありながら、生徒会長だなんて、きっと優秀な方なのだろう。

学園についてはまだまだわからないことだらけで、少し気は引けるものの頼らせてもらうことも出てくるはずだ。

丁寧にお辞儀をすると、目の前の彼は大きく目を見開いて固まっていた。


「では、後は頼んだぞアレクセイ。教室に案内してやってくれ」

学園長の声で応接室を出て、アレクセイ殿下の後に続く。

数歩歩いた後、ぴたりと止まってしまった彼。

こちらをくるりと振り向くと、殿下は青ざめた顔で口を開いた。


「…う、嘘だ」

「はい?」

「そなたが、隣国を追放された、王女…?」

事実ではあるが、面と向かって言ってのける彼には、政治の手腕はあまりないのかもしれない。

腐っても、私は隣国の王女だ。言葉尻一つで関係が悪化してしまうこともあるというのに。


「…そうですが」

「嘘だ、平民にだって優しく接していたではないか…!悪女は地べたに膝をついて幼子を介抱等しない!!」

なんだか思い当たる出来事が脳裏を過ぎる。


「っ、私は、プロポーズまでしたのに!」

「え」

「こんな悪女の王子になりたいなんて、私は…私はどうかしていたのかっ」


彼はもしかして、なんて、頭に浮かんだのは衝撃すぎるファーストコンタクト。

あの港町で出会った男性は、きっと…


「もしかして、私の王子になりたいなんておっしゃってくださった方でしょうか?」

「そんなことは言っていない!!!!!」

……鼓膜が敗れるかと思った。


「先日のことは忘れてくれ!私は自国の民を虐げるような人間は、心底理解ができない。軽蔑する。あれは何かの間違いだ」


「そうですか…殿下の考えは正しいと思います」


こうも面と向かって否定されてしまっては、多少なりともショックは受けるもので、眉が下がるのも仕方ないことだろう。

平民を嫌い、か弱い少女を虐げた悪女。

そんな扱いは、この国も祖国も大差ないのだ。

留学が決まった時点で噂というのは回るもので、この学園の人々だって私を目の敵にしているのも当然のことだった。


「っ、落ち込んでいるのか?」

「…いえ、嫌われるのも当然だと改めて納得していただけです」


「ぐっ、私の前でしょんぼりした顔をするのはやめてくれ!!」

そんなこと言われたって…。

なんだか急に、縁もゆかりも無い、ただ立ち寄っただけのあの港町が恋しくなってしまった。


「幼子にはあんなにも親切だったと言うのに、どうして同じ学園に通う令嬢を…」

「さあ、私にもわかりません」

「っ、まるで他人事だな」


どうしてあんな噂が立ったのか、どうしてあそこまて憎まれてしまったのか…そんなことは私にだってわからないのだ。


「気分を害してしまったのなら申し訳ございません。お望みなら、できる限り殿下とは関わらないように努力します。教室へ案内だけしていただけると助かるのですが…」

「…学園に来たばかりの留学生を置き去りになんてしない。着いてくるといい」


私を嫌っているのに、親切な人だ。


殿下の数歩後ろに続き、さらさらのブロンドヘアを見つめながら辿り着いた教室は、どこか緊迫した雰囲気で少しだけ息苦しかった。


「案内していただきありがとうございました」

「会長として、生徒をサポートするのなんて当然のことだ」

担任の先生に促されて自己紹介をするも、誰一人目を合わせてくれることはなくて、予想できた事態ではあるが、やっぱり寂しい。


…ダンはうまくやっているかしら?

共にやってきた大切な護衛は、騎士クラスに編入したため、私とは別行動だった。


朝と帰りは一緒でも、こうして離れると彼のことが気がかりで仕方ない。

虐められてないといいけど、なんて。

こんなことを言ったらまた自分の心配をしろと怒られてしまいそうだ。



「ルルシアさん、ちょっといい?」

休み時間、声をかけてきたのは情熱的な赤毛が素敵な一人の令嬢。

「…はい?えっと、あなたは」

「カリナ・ベルクよ。ベルク伯爵家の一人娘。とは言え、もともとはあなたが嫌う平民との間にできた庶子だったけれど」

ズバズバとした彼女の言葉はいっそ気持ちがいいと思った。


「この学園にはあなたが嫌悪する平民だって多くいるの。前と同じように誰かを貶めたり、迫害したりなんて考えないことね。私も、周囲も、そんな横暴絶対許さないんだから!」


…認識を改めなければならない。

殿下だってそうだったように、こうやって堂々と他者に、それも隣国の王族相手に、歯に衣着せない物言い。

きっとこの学園では、どんな生徒も対等で、平等であるべきなのだろう。


よっぽどのことでなければ、家の立場や家格なんて関係ないのだ。

生徒同士が立場を気にすることなく、伸び伸びと学ぶことが出来る、きっとここはそういう学び舎。


____素敵な学園ね。



「ご忠告ありがとう。悪名高い私に意見するなんて、きっとすごく勇気がいったでしょう?あなたってとっても強い人ね!郷に入っては郷に従え。私もこの学園の校風を乱さないように気をつけるから、もしも私がルール違反を犯したら、こうやってまた叱ってくれる?」

「っ、ええ、叱ってやるから覚悟しておくことね」

「ありがとう、カリナさん!」

「…別にお礼を言われるようなことじゃ、」


まずは、カリナさんに叱られないように、早くこの学園に慣れよう。

そうして…友人なんて呼べる存在ができたら、なんて。夢見がちな自分に苦笑が漏れた。



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