4 / 4
悪名高き王女様
しおりを挟む隣国にやって来て数日、新しく編入する学園にようやく足を踏み入れた。
緑が多くて、風通しのいい爽やかな学び舎。
どのような学園生活が待っているのか、不安と期待が入り交じった不思議な心地だった。
「ようこそ、我が校へ。ルルシア殿下」
応接室で丁寧に出迎えてくれたのは、この学園の学園長、ルブラン卿。
代々王族の家庭教師を務めるルブラン公爵家出身で、彼自身もこうして国の教育機関に携わる要人だった。
「僭越ながら、ルルシア殿下の評判は良くも悪くもこちらの国にも届いております。気分を害されることもあるやもしれません。しかしながら、貴殿の祖国とはまた違った景色、違った文化に触れ、充実した日々を過ごしていただきたいと、そう心より願っております」
「ありがとうございます。この学園で多くの学びを得られるよう、精進いたします」
「それでは、今からは学園の教員として、一生徒への対応に切り替えさせていただきますが、よろしいですか?」
「勿論です」
そうしてしばらく談笑していると、トントンと扉をノックする音。
卿が返事を返すとすぐに扉が開き、入ってきたのは私と同じ柄の制服に身を包んだ男子生徒だった。
「我が学園には生徒会という組織があって、こちらの彼は会長を務めるアレクセイ。この国の王太子でもあり、何かと忙しい身ではあるが、君と同じクラスだから困ったことがあれば頼るといい」
「ルルシア・ルーチェ・ローゼンハイムです。よろしくお願いいたします」
王太子でありながら、生徒会長だなんて、きっと優秀な方なのだろう。
学園についてはまだまだわからないことだらけで、少し気は引けるものの頼らせてもらうことも出てくるはずだ。
丁寧にお辞儀をすると、目の前の彼は大きく目を見開いて固まっていた。
「では、後は頼んだぞアレクセイ。教室に案内してやってくれ」
学園長の声で応接室を出て、アレクセイ殿下の後に続く。
数歩歩いた後、ぴたりと止まってしまった彼。
こちらをくるりと振り向くと、殿下は青ざめた顔で口を開いた。
「…う、嘘だ」
「はい?」
「そなたが、隣国を追放された、王女…?」
事実ではあるが、面と向かって言ってのける彼には、政治の手腕はあまりないのかもしれない。
腐っても、私は隣国の王女だ。言葉尻一つで関係が悪化してしまうこともあるというのに。
「…そうですが」
「嘘だ、平民にだって優しく接していたではないか…!悪女は地べたに膝をついて幼子を介抱等しない!!」
なんだか思い当たる出来事が脳裏を過ぎる。
「っ、私は、プロポーズまでしたのに!」
「え」
「こんな悪女の王子になりたいなんて、私は…私はどうかしていたのかっ」
彼はもしかして、なんて、頭に浮かんだのは衝撃すぎるファーストコンタクト。
あの港町で出会った男性は、きっと…
「もしかして、私の王子になりたいなんておっしゃってくださった方でしょうか?」
「そんなことは言っていない!!!!!」
……鼓膜が敗れるかと思った。
「先日のことは忘れてくれ!私は自国の民を虐げるような人間は、心底理解ができない。軽蔑する。あれは何かの間違いだ」
「そうですか…殿下の考えは正しいと思います」
こうも面と向かって否定されてしまっては、多少なりともショックは受けるもので、眉が下がるのも仕方ないことだろう。
平民を嫌い、か弱い少女を虐げた悪女。
そんな扱いは、この国も祖国も大差ないのだ。
留学が決まった時点で噂というのは回るもので、この学園の人々だって私を目の敵にしているのも当然のことだった。
「っ、落ち込んでいるのか?」
「…いえ、嫌われるのも当然だと改めて納得していただけです」
「ぐっ、私の前でしょんぼりした顔をするのはやめてくれ!!」
そんなこと言われたって…。
なんだか急に、縁もゆかりも無い、ただ立ち寄っただけのあの港町が恋しくなってしまった。
「幼子にはあんなにも親切だったと言うのに、どうして同じ学園に通う令嬢を…」
「さあ、私にもわかりません」
「っ、まるで他人事だな」
どうしてあんな噂が立ったのか、どうしてあそこまて憎まれてしまったのか…そんなことは私にだってわからないのだ。
「気分を害してしまったのなら申し訳ございません。お望みなら、できる限り殿下とは関わらないように努力します。教室へ案内だけしていただけると助かるのですが…」
「…学園に来たばかりの留学生を置き去りになんてしない。着いてくるといい」
私を嫌っているのに、親切な人だ。
殿下の数歩後ろに続き、さらさらのブロンドヘアを見つめながら辿り着いた教室は、どこか緊迫した雰囲気で少しだけ息苦しかった。
「案内していただきありがとうございました」
「会長として、生徒をサポートするのなんて当然のことだ」
担任の先生に促されて自己紹介をするも、誰一人目を合わせてくれることはなくて、予想できた事態ではあるが、やっぱり寂しい。
…ダンはうまくやっているかしら?
共にやってきた大切な護衛は、騎士クラスに編入したため、私とは別行動だった。
朝と帰りは一緒でも、こうして離れると彼のことが気がかりで仕方ない。
虐められてないといいけど、なんて。
こんなことを言ったらまた自分の心配をしろと怒られてしまいそうだ。
「ルルシアさん、ちょっといい?」
休み時間、声をかけてきたのは情熱的な赤毛が素敵な一人の令嬢。
「…はい?えっと、あなたは」
「カリナ・ベルクよ。ベルク伯爵家の一人娘。とは言え、もともとはあなたが嫌う平民との間にできた庶子だったけれど」
ズバズバとした彼女の言葉はいっそ気持ちがいいと思った。
「この学園にはあなたが嫌悪する平民だって多くいるの。前と同じように誰かを貶めたり、迫害したりなんて考えないことね。私も、周囲も、そんな横暴絶対許さないんだから!」
…認識を改めなければならない。
殿下だってそうだったように、こうやって堂々と他者に、それも隣国の王族相手に、歯に衣着せない物言い。
きっとこの学園では、どんな生徒も対等で、平等であるべきなのだろう。
よっぽどのことでなければ、家の立場や家格なんて関係ないのだ。
生徒同士が立場を気にすることなく、伸び伸びと学ぶことが出来る、きっとここはそういう学び舎。
____素敵な学園ね。
「ご忠告ありがとう。悪名高い私に意見するなんて、きっとすごく勇気がいったでしょう?あなたってとっても強い人ね!郷に入っては郷に従え。私もこの学園の校風を乱さないように気をつけるから、もしも私がルール違反を犯したら、こうやってまた叱ってくれる?」
「っ、ええ、叱ってやるから覚悟しておくことね」
「ありがとう、カリナさん!」
「…別にお礼を言われるようなことじゃ、」
まずは、カリナさんに叱られないように、早くこの学園に慣れよう。
そうして…友人なんて呼べる存在ができたら、なんて。夢見がちな自分に苦笑が漏れた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
追放された悪役令嬢は辺境にて隠し子を養育する
3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)
恋愛
婚約者である王太子からの突然の断罪!
それは自分の婚約者を奪おうとする義妹に嫉妬してイジメをしていたエステルを糾弾するものだった。
しかしこれは義妹に仕組まれた罠であったのだ。
味方のいないエステルは理不尽にも王城の敷地の端にある粗末な離れへと幽閉される。
「あぁ……。私は一生涯ここから出ることは叶わず、この場所で独り朽ち果ててしまうのね」
エステルは絶望の中で高い塀からのぞく狭い空を見上げた。
そこでの生活も数ヵ月が経って落ち着いてきた頃に突然の来訪者が。
「お姉様。ここから出してさし上げましょうか? そのかわり……」
義妹はエステルに悪魔の様な契約を押し付けようとしてくるのであった。
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
偽りの断罪で追放された悪役令嬢ですが、実は「豊穣の聖女」でした。辺境を開拓していたら、氷の辺境伯様からの溺愛が止まりません!
黒崎隼人
ファンタジー
「お前のような女が聖女であるはずがない!」
婚約者の王子に、身に覚えのない罪で断罪され、婚約破棄を言い渡された公爵令嬢セレスティナ。
罰として与えられたのは、冷酷非情と噂される「氷の辺境伯」への降嫁だった。
それは事実上の追放。実家にも見放され、全てを失った――はずだった。
しかし、窮屈な王宮から解放された彼女は、前世で培った知識を武器に、雪と氷に閉ざされた大地で新たな一歩を踏み出す。
「どんな場所でも、私は生きていける」
打ち捨てられた温室で土に触れた時、彼女の中に眠る「豊穣の聖女」の力が目覚め始める。
これは、不遇の令嬢が自らの力で運命を切り開き、不器用な辺境伯の凍てついた心を溶かし、やがて世界一の愛を手に入れるまでの、奇跡と感動の逆転ラブストーリー。
国を捨てた王子と偽りの聖女への、最高のざまぁをあなたに。
今、目の前で娘が婚約破棄されていますが、夫が盛大にブチ切れているようです
シアノ
恋愛
「アンナレーナ・エリアルト公爵令嬢、僕は君との婚約を破棄する!」
卒業パーティーで王太子ソルタンからそう告げられたのは──わたくしの娘!?
娘のアンナレーナはとてもいい子で、婚約破棄されるような非などないはずだ。
しかし、ソルタンの意味ありげな視線が、何故かわたくしに向けられていて……。
婚約破棄されている令嬢のお母様視点。
サクッと読める短編です。細かいことは気にしない人向け。
過激なざまぁ描写はありません。因果応報レベルです。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
平手打ちされたので、婚約破棄宣言に拳でお答えしました
Megumi
恋愛
婚約破棄を告げられ、婚約者に平手打ちされた——その瞬間。
伯爵令嬢イヴの拳が炸裂した。
理不尽に耐える淑女の時代は、もう終わり。
これは“我慢しない令嬢”が、これまでの常識を覆す話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる