【本編完結】婚約者は猫がお好き

のんのこ

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猫ねこネコ

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side セドリック



■□▪▫■□▫▪■□▪




セドリック・ラングレイ

侯爵家の次男であり、最近の幸福度で言えば圧倒的世界ナンバー1の果報者である。


多分、俺は前世で国でも救ったんだと思う。


それくらい、今世では幸せな日々を過ごさせてもらっている。

可愛いミレイユとは本当の意味で心を通わせ、可愛いルイスに、たまに猫の姿で僕の膝に座ってくれるミレイユ。

ルイスももちろんのことだが、ミレイユの猫化の破壊力はえげつない。

それをわかっているミレイユは僕に何か頼み事をする時など、ここぞとばかりに猫の姿になってしまう。


そんなことしなくても、僕はミレイユの頼み事なら絶対に叶えてみせるのに。

人と猫、どちらの姿のミレイユも見ることができるのは願ってもないことだから黙っておくけど。



ある日、ミレイユに頼まれて、どこかにふらっといなくなってしまったルイスを探して屋敷を回っていると、一つの部屋にたどり着いた。


物置なのか、部屋の中はよくわからない実験道具のようなものや、積まれた箱などが整理されて並べられていた。



「何だこれ…魔法陣?」

荷物を避けて、部屋の中央に描かれた幾何学模様に目を奪われる。


ああ、わかった…これはミレイユの趣味の部屋なのだろう。

少し埃っぽいそこは、今はあまり使われていないのかもしれない。


去年僕も卒業した学園で、ミレイユは魔法学が得意だと生徒の間でも有名だった。

ならば、自分の家で下手に危険な魔法などは扱っていないだろう。


そんな愚かな考えで、僕は軽率にもその魔法陣に手を合わせてしまった。




ぽんっ

聞こえたのそんな小さな音だった。



「ん…え、何これ!?」


事態が飲み込めず、最初に見えたのは、小さな小さな獣の手だった。


「これって…もしかして、一年前の」


ミレイユが、猫になった時の魔法陣!?


いや、落ち着け…ミレイユは人に戻ることがちゃんとできている。

焦る必要はない。


うん。


頭ではわかっているが、いきなりのことで半ばパニックになる僕。



「何してんだよお前」


ふと背後から聞こえた声は、僕の聞き覚えのない不機嫌な少年のような声だった。


振り返ると、そこに立っていたのは



「る、ルイス!?」

ミレイユの次に可愛いマンチカンのルイスだ。

え、喋ってる?

あ、ミレイユも猫になってルイスの声が聞こえるようになったんだっけ!?



「ルイス!!!!ルイスぅぅう!!」 

「わっ、来んなよ!お前に抱きつかれても嬉しくねえんだよバカ」


駆け寄って猫の短い手でぎゅっと抱きつくと、表情はよくわからないがルイスが確かに顔を顰めたのを感じた。


君ってば結構口が悪いんだね。

ミレイユに少しだけ聞いてわかってはいたんだけど、初めて実感したよ。


「たく、人がせっかく気持ちよく家の中荒らしてたのに」

「あ、最近ルイスがいろんなとこ引っ掻いて困ってるってミレイユが言ってたよ」

「猫には猫なりのストレスがあんだよ」


ふんっと鼻息を荒くして主張するルイス。

ミレイユのうちは公爵家で、家具や内装もきっと超一流のものがあしらってあるんだろうに。

困った猫だ。



「ん、あれ?この姿でも僕のことわかるの?」

「馬鹿みてえにルイス~ルイス~なんて俺も探してる声が聞こえたんだよ。そしたらいきなりこの部屋が光ったのが見えて、様子を伺いに来たら間抜け面の猫が転がってるし…はぁ」

呆れたようにそう言うルイス。


「心配して見に来てくれたんだね」

「あぁ!?頭湧いてんのかてめえ!ご主人に面倒かけてねえか見に来たんだよ!」

「もう少し優しい言葉を使った方が可愛いよ、ルイス」

僕の言葉に、ルイスは殺意むき出しの目でがんを飛ばしてきた。

え、怖いよルイス。



「ルイスこんなところにいたのね!」

「ご主人~!」

背後から聞こえたミレイユの声に、打って変わって猫なで声(猫だけに)で駆け寄るルイス。


「あら、その子はお友達?」

「僕だよミレイユ!」


「え………セドリック様ぁ!?」


驚愕で目を見開くミレイユも可愛い。


「ああ、この部屋しばらく使っていませんでしたから魔法陣もそのままでしたのね…!」

「何気なく手をあててみたら、こんな姿になってしまったよ」


「なんて品のある…ペルシャ猫!」

腕しか見えてなかったが、僕はどうやらペルシャ猫らしい。

猫好きとしてはこの姿も早く見てみたい。


「セドリック様」

「っ」

ミレイユは僕の名前を呼びながら、しゃがんで腕を広げた。

その姿が可愛らしくて少し動揺してしまった。


ぴょんっと助走をつけて飛び乗ると、ミレイユはそのまま僕を抱き抱え部屋の奥に進んでいく。

足元でルイスがとことこついてくるのが見えた。


「これが今のセドリック様ですわよ?」

姿見の前に立つミレイユの腕の中には、真っ白でふわふわなペルシャ猫がいた。

ちょっとこれは、可愛すぎない?


自分自身が返信した姿とはいえ、猫好きの僕の血が騒いでしまう。

ううっ、自分で自分を愛でることができないのが口惜しい。


「ふんっ、俺の方が可愛いじゃねえか」

「もちろんルイス君も可愛いですわ?」


ミレイユはもう一度かがむと、僕とルイスを一緒に抱き抱える。

子猫の僕と少し大きなルイスくらいなら華奢な彼女でも軽々と持ち上げることができた。


「ご主人、早く下ろしてくれよ!!俺はこんなへたれ男とくっつく趣味はねえ」

「ふふっ、でも寄り添う二人はすごく可愛いわよ?」


ルイスはげえ~と汚い声をあげる。

ちょっと僕のルイスに抱いていたイメージがさっきから壊されまくっているんだけど。



「私も猫になっちゃおうかしら」


そう言って、ミレイユは僕らをそっと床におろすと、今度は自分も垂れ耳のスコティッシュフォールドになってしまった。


姿見にうつる僕ら三匹。


「か、かわ…!」

「僕この光景が尊すぎて泣きそう」

「けっ」


どうやらこの猫化は、心の中で念じると戻ったりまた猫になったりとけっこう自由なものらしい。


たまには愛しいミレイユと、ルイスと僕の三人で猫になるのも悪くないかもしれない。


「この姿になって、やることは一つですわ」

ミレイユは一頻り鏡の中の三匹を堪能してから、にやりと口角を上げた。



「さあっ、使用人のみんなにおやつをもらいにいきましょう!」


…ミレイユが最近ふっくらしてきた理由がわかった気がするよ。


ルイス君と一緒に、嬉しそうなミレイユの後を追った。







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