【本編完結】婚約者は猫がお好き

のんのこ

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焦れったい

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side ルイス


■□▪▫■□▫▪■□▪▫




「セドリック様、今日のお茶うけはセドリック様の好きなシトロンのダックワーズにしてもらいましたの」

執事が差し出した小さなお菓子を、にこにこと嬉しそうに紹介するご主人。


「…ああ、うん。頂くよ」

相変わらず、目を合わせずにそっけなく言ったセドリックだった。


だけど俺は知っている。

俺を撫でる手が一瞬止まり、この男の膝の上から覗いたその顔が赤く染っていることを。


俺に視線をやるように俯いたセドリックの顔は、ご主人には見えていない。

だから今日も、ご主人は悲しそうな表情を浮かべている。



「にゃあ~」

セドリックなんてこのまま嫌われちまえ~。


そんな思いをこめて口を開くが、俺の声はただにゃあにゃあと意味の無い声を紡ぐ。


本当はセドリックに撫でさせるためにこんなにふわふわな毛並みをしているわけじゃないが、この時間だけは我慢だ。

俺の目が黒いうちはセドリックとご主人を仲良くなんてさせてやらないぜ。



それに、もうすぐ…



「おいで、ルイス君」


ほら来た。

あんまり表情には出ていないと思うが、俺はしめしめと笑ってアホのセドリックから飛び降りる。


「ああっ」

名残惜しそうなセドリックの声なんて無視だ。

こいつは婚約者にうまく接することができないから必要以上に俺にかまっている振りをするが、その内情には俺への愛情もしっかり含まれている。


だけど俺は、へたれ男よりも大好きなご主人の膝を選ぶに決まってんだよ。


「ルイス君はいい子ね」

セドリックに当てつけるように告げられた言葉だったが、ご主人の手はすこぶる優しい。

やっぱりこの手だ。

ちらりとセドリックに視線をやると、こちらを恨めしいような、羨ましいような目で見つめていた。



「にゃあ」

勝ち誇った声で鳴いてやると、ぐっと唇を噛み締めた。


ご主人は、セドリックの思いに微塵も気づいていない。

哀れな男だな、とは思うが、自業自得だ。


そんなことじゃいつか捨てられんぜ?



「この、お菓子…すごくおいしいね」


蚊の鳴くような声が聞こえた。

珍しくセドリックが勇気を出したようだ。


「え…セドリックがいつも食べている好物のお菓子ですわよ?」

「う、うん。そうだね」


何を今更?とでも言わんばかりのご主人。

はい完敗~。

話題のチョイス下手くそ~。



「おかしなセドリック様ですわね」

俺に視線をやりながらそう呟くご主人。


その顔は嬉しそうに笑っていた。


例のごとく、頭は膝の上の俺を向いているため、セドリックにその表情は見えていない。


揃いも揃って、焦れったい。


ま、俺はまだしばらくご主人を一人占めできるみたいだからいいけどよ~。



そんなことを悠長に思っていた。


だが、この二人が気持ちを通わせるのは、そう遠くない未来。



いきなり現れた耳の垂れた猫からご主人の声がした時は、さすがの俺もド肝を抜かれてしもった。





「ご主人~!おはよう、腹減ったぜ!」

「おはよう、ルイス君。今ご飯用意するわ」


そして、ご主人と会話を交わせるようになって、これはなんていう奇跡だと思った。


こんな奇跡が続くのならば、セドリックとご主人の仲も少しは応援してやらなくもない。


「この前セドリックからご主人とは違う香水の匂いがしたぜ~?」

「っ!?ルイス君それ本当!?」


ま、あれはセドリックがよろめいた老年の侍女を抱きとめた時についたものだと知っているが。

嘘は言っていない。



「セドリック様の浮気者!!」

「まあまあ俺がいるじゃねえか」

俺をぎゅっと抱きしめてぷんぷん怒るご主人。


きっとこんな風にセドリックにとってはタチの悪い助言をしながら、俺はご主人達を見守って生きていくんだろう。

俺よりずっとずっと長く生きるんだから、これくらいの悪戯は許せよな、セドリック。


俺を抱きしめる温かい温もりに口角が上がった。





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