【本編完結】最愛の勇者が同郷の迷い人に夢中なので、この婚約は破棄したいです。

のんのこ

文字の大きさ
2 / 31

異世界からの迷い人

しおりを挟む





勇者のおかげで平和を取り戻したこの国に、再び異世界から誰かがやって来るなど、どんな文献を探したって見当たらない。

ひと世代に二人も召喚されるなんて普通なら有り得ないことだった。




「ハルト様っ」


「ミリア?そんなに慌ててどうしたの?」


事態を知らせるため、爵位と共にお父様が与えたハルト様の屋敷に向かうと、彼はいつもと同じ優しい声で私を迎えてくれた。



「異世界から、女性の迷い人が現れたんです…その方はどうやらニホンという国から来られたらしくて…以前ハルト様からお聞きしたお話に出ていた国ですよね?」


意図して召喚されたハルト様とは違う、突如として現れた存在を迷い人と称する。



私の言葉を聞いたハルト様は、大きく目を見開いた。



「日本から…?」

「はい、ハルト様にお教えした方がいいと思って」

「そうか。ありがとう、ミリア。僕もその方にお会いしたいのだけど、いいかな?」


ニホンという場所は、やはりハルト様が生まれ育ったと聞いた国と同じだったようで、普段物事にあまり興味を持たないハルト様も気になっている様子だった。


「既に父には話を通しています!せっかく同郷の方と会えるのですから、急ぎましょうハルト様。私も興味がありますわ」

「君は本当に優しいね、ミリア」


蕩けるような優しい瞳でそんなことを言うハルト様に見蕩れていると、手を引かれて停めていた馬車に乗せられた。



「まさか異世界で日本人と会えるなんて思ってもみなかったよ」


「…いつまでも異世界だなんて寂しいです。私とハルト様は、もう同じ世界の住人ですわ」


わざとらしく拗ねたように唇を尖らせるとハルト様は困ったように小さく笑った。



「そうだね、ごめんねミリア。もうこの世界にきて二年も経つのに、未だに剣や魔法の世界に慣れない自分がいるんだ。今はこんなに可愛い婚約者までいるのにおかしいよね?」


隣に座る私の頬に軽い口付けを落としてそう言うハルト様は、一つしか歳も変わらないのにすごく大人に見える。



「…私も、少し面倒くさいことを言ってしまいました」


「ミリアが面倒なわけないよ。別の世界にさえヤキモチやいちゃうなんて本当に可愛い」


「……やきもちなんて」


十分すぎる愛情を感じて、私は恥ずかしさでいたたまれなくなる。

俯くと隣からクスクスという笑い声が聞こえた。



早く王宮につかないかしら…



「僕の婚約者が愛しすぎてつらい」


そんな声は全力で聞こえないふりに徹する。






王宮に到着して、私達が足を運んだのは一つの応接間だった。


中には父である国王陛下とその側近、そして私と同じくらいの年頃に見える少女が革張りのソファに腰を下ろしている。

…可愛い人だ。

ハルト様と同じ烏の濡れ羽色のような黒髪に、くりくりとした大きな瞳は黒に近い茶色。

不安そうな表情に庇護欲を刺激されるようだった。


目の前の美少女が、ハルト様と同郷の方…もしかして彼の世界はこんな人で溢れているのかもしれない。

ハルト様もすごくかっこいいし。


…本当にハルト様はこんな私で良かったのだろうか。

なんて、自信の無い考えが頭をよぎる。



チラリと隣にいるハルト様を見やると、何故か彼は驚いたようにぱちぱちと瞳を瞬かせていた。



不思議なことでもあったのか。

自分の故郷からやってきた少女だということは事前に知っているはずだから、その髪や瞳が自分と同系色だということに驚いているわけではないと思う。


首を傾げるが、私の疑問は次の彼のセリフによってすぐに解消されることとなった。



「…アカリ!」


明らかに動揺の色が滲んだその言葉は、半ば叫ぶようにハルト様の口から零された。


アカリ…?

それが少女の名前なのかもしれない。


異世界からの迷い人は、ハルト様の知り合いだったのだろうか。



「え、ハルちゃん!?」


ハル…ちゃん…?


ハルちゃんと言うのは、もしかしてハルト様の愛称?



そうだとすると二人は、名前を呼び捨てたり、愛称で呼んだりする程の仲だということ。


どういう関係なのだろうか。



「ハルちゃん!ハルちゃんだっ!!」

「アカリ、久しぶり」


ハルト様が再会の挨拶を述べると、彼女はすぐさまハルト様に駆け寄り…



「っ!?」


あろうことか、勢いよく彼に抱きついてしまったのだった。


え……?



「会いたかったよぉぉおハルちゃぁぁあんっひっく、ハルちゃんっ、本物のハルちゃんだあっ」


「ははっアカリは相変わらず泣き虫だね」


ハルト様も拒否することなく、少しよろつきながらもしっかりと彼女を胸の中に受け止めた。

そして、されるがまま彼女に抱きしめられ続ける。



正直、物凄く不愉快だった。

今すぐ彼にひっついてる少女を力任せにひっぺがしてしまいたい程には。


だけど、我慢だ。


彼女だって突然異世界にやってきてしまってきっと物凄く不安なのだと思う。

そんな時に元の世界で知り合いだった人間に会えたらどれだけ安心するだろう。


抱きつきたくもなるわよね。


仕方ないことだわ。




うん。



ぷるぷると震える拳をぎゅっと握りしめて平常心を保った。



「あの、ハルト様…その方は、お知り合いですか?」


精一杯の笑みを貼り付けて口を開く。


「うん、そうだよ。幼馴染なんだ」

「幼馴染、ですか」


幼馴染というのは、あれですか?


生まれてからずっと傍で育って、思春期になれば自然にお互いを意識し始めて、ライバルや当て馬の出現など、あまたの困難を乗り越えた末愛を育み、当たり前のようにハッピーエンドにたどり着くという…あの幼馴染?



………そんな幼馴染さんが、この世界にいったい何の御用です?



「ハルちゃん、ここどこなのっ?私、ハルちゃんが二ヶ月前急にいなくなって、寂しくてハルちゃんのお部屋に遊びに行ったら…突然知らない場所に…もっ、わけわかんないよぉ」


…………お二人は、お部屋に気軽に入っちゃえるような仲だったのですか?


もう思わず王女らしからぬ白目を剥いてしまいそうなくらいショックだった。


いや、今はとりあえずそれは置いておこう。



「今、二ヶ月っておっしゃいました?」


ハルト様が来て、この世界では約二年が経過しようとしているというのに。

あちらの世界ではまだほんの二ヶ月…?



十二分の一の時間しか経っていないの?



「二ヶ月って、そんな…」

「ハルちゃん?どうかしたの?」


「僕が消えてもう二年は経過しているはずだよ」


ハルト様は信じられないと言った様子でそんなことを言う。



「ええっ?二年!?ハルちゃんが行方不明になってから…?そんなわけないよっ、二年も経ってたらハルちゃんはもう二十歳になったゃうよぉ!?」


「…うん、僕はもう二十歳だよ」


「そんなのありえないよぉ!だって見た目だって何にも変わってない……て、あれ…ハルちゃん、なんか大人っぽくなった??」


大人っぽくなったというか、二年前のハルト様とは結構大きく変わっているんじゃない?


髪の毛も爽やかな短髪から、肩につきそうな程の、まるで王子様のようなミステリアスな雰囲気の美青年ヘアになっている。

もちろんこの国の王子であるお兄様達なんかより断然かっこいい。


それに、身長だって以前より少し伸びて、勇者として戦ってきたからか、細い体には適度な筋肉がついていて見る度惚れ惚れしてしまうし。


うん、二年間でとんでもない成長を遂げてしまった。



こんなに変わったハルト様に気づかないなんて、彼女の目は節穴に違いない。



「僕がこの世界にきて二年も経っているからね。向こうとは時間軸が違うみたいだ」

「…この世界?えっと、どういうこと?」


彼女はしっかり混乱してしまっている。


……それより、いい加減離れませんか?



「立ち話もなんですし、座って話をしましょう。ね、ハルト様?」


にっこり微笑んで促す。


「ミリア…?なんか、怒ってる?」

「そう見えますか?」


私は明確な答えを返さず、一人先にソファに腰を下ろした。




しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

どうぞお好きになさってください

みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。 婚約者の第一王子殿下は言った。 「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」 公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。 「好きになさればよろしいわ」

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

平手打ちされたので、婚約破棄宣言に拳でお答えしました

Megumi
恋愛
婚約破棄を告げられ、婚約者に平手打ちされた——その瞬間。 伯爵令嬢イヴの拳が炸裂した。 理不尽に耐える淑女の時代は、もう終わり。 これは“我慢しない令嬢”が、これまでの常識を覆す話。

貴方の願いが叶うよう、私は祈っただけ

ひづき
恋愛
舞踏会に行ったら、私の婚約者を取り合って3人の令嬢が言い争いをしていた。 よし、逃げよう。 婚約者様、貴方の願い、叶って良かったですね?

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

処理中です...