【本編完結】最愛の勇者が同郷の迷い人に夢中なので、この婚約は破棄したいです。

のんのこ

文字の大きさ
4 / 31

信用

しおりを挟む




「けどっ、あたしは今まで何度もハルちゃんの家にお泊まりしてたし…今更ダメなんておかしいですっ」

「元の世界にいた時とは状況が変わっていますわ。婚約者がいながら他の女性を家に泊めるなんて不純です」


王女としての威厳なんて忘れて少し頬を膨らませて言葉を返す私を、ハルト様はうっとりとしたような瞳で見つめていた。

…なんだか恥ずかしい。



「でもっ、あたし知らないところにいきなり来て不安で…怖くてっ、ここには日本人なんていないしっ、それどころか地球ですらないみたいだし…目や髪だってまるで漫画の様で、こんなの海外にだっていないよっ…そんなとこで一人ぼっちなんて嫌ですっ」

そう言って彼女はぽろぽろと涙を零し始めた。


これには正直…罪悪感が湧いてくる。


もし私が逆の立場だったら、王女として何か起こった際のそれなりの心構えは教育されているけれど、内心の不安は計り知れない。

そして目の前の私と同じくらいの少女は、王族でもなんでもない、普通の女の子だ。



「…ごめんなさいアカリさん。あなたの気持ちを考えていませんでした」


「ひっく、ぐすっ」

貴族の矜恃をしっかり持ったご令嬢とばかり接してきたせいで、きっとこの世界では平民と呼ばれる階級に値する彼女の気持ちに配慮できなかった。

これでは民の気持ちすら考えることすらできない温室育ちの頭の悪いお姫様だ。



「ハルト様…私は、ハルト様を信用しています。アカリさんを泊めてあげてください」

「ミリア?君が嫌なら僕は別に構わないんだよ?」

「今彼女の負担を取り除いてあげられるのはあなただけですから…」


本当はすごく嫌だ。

だけど、私はこの国の民を導く立場の人間なのだから、このくらいの度量くらい見せなければ務まらないだろう。



「僕はミリアには自分の事だげ考えていて欲しいんだけど…あ、そうだ。それなら、ミリアも僕の家に来るといいよ」

「結婚前に婚約者の家に滞在するなんてできませんわっ!不純ですっ」

「……不純かぁ」


ぷんぷんしてそう言う私にハルト様は残念そうに苦笑するのだった。


「お気持ちだけで十分です。それに、ちゃんと毎日様子を見に行かせてもらいますから」

黙って傍観している程私は優しくありません。


「それと、このひと月という短い間ではありますが、アカリさんには、ハルト様が選んだこの世界のことを少しでも知って欲しいです。そうですね、歳もちょうど良さそうですし、もし良ければ私と一緒に学園に通いませんか?」

半分は本心で、もう半分は公爵家で仕事をする彼の傍から、昼間くらい彼女を引き離したかったから。


異世界人が学園に入学なんて特例だが、無理な話ではない。

それにひと月きりの話だ。

留学生だって頻繁にやってくるし、彼女も同じような扱いで大丈夫なはずだ。



「ええっ、あたしはハルちゃんと一緒に…」

「…僕もアカリにはしっかりこの世界を知って欲しいな。素敵なところだから」

「……ハルちゃんがそう言うなら」


しぶしぶと言ったように彼女が頷く。



「うむ、退屈しのぎにもなるだろう。私から学園には話を通しておこう」


「ありがとうございます陛下」

「多大な配慮感謝致します」


彼女のためにお礼を言う彼に少し悶々としてしまったが、私のわがままが通ったのはハルト様のおかげなので文句は言えない。



「ではよろしく頼んだぞ、オーツ公爵。もちろん王家からの援助は惜しまない。王宮の不始末を押し付けるような形になってしまって申し訳ないが…」

「いいえ、不測の事態であれば仕方ありません。たったひと月のことですから。彼女のことはお任せください」


「感謝する。じゃが、オーツ公爵」


一言お礼を口にして、陛下は言葉を続けた。




「もしも我が娘を傷つけるようなことがあれば、即刻そなたも迷い人と同様に元の世界に帰ってもらうぞ?」


「……肝に銘じて起きます」


どうやら父も、ハルト様と関係の近い女性が彼の屋敷に滞在することを気に病んでいるらしい。

国王陛下ではなく、娘を心配する父の顔を久しぶりに見ることができて胸が熱くなった。


アカリさんを連れ添って王宮を後にするハルト様の後ろ姿にどうしようもなく不安を覚えるけれど…私は彼を信じよう。



確かに、そう思っていた…





しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

どうぞお好きになさってください

みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。 婚約者の第一王子殿下は言った。 「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」 公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。 「好きになさればよろしいわ」

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

平手打ちされたので、婚約破棄宣言に拳でお答えしました

Megumi
恋愛
婚約破棄を告げられ、婚約者に平手打ちされた——その瞬間。 伯爵令嬢イヴの拳が炸裂した。 理不尽に耐える淑女の時代は、もう終わり。 これは“我慢しない令嬢”が、これまでの常識を覆す話。

貴方の願いが叶うよう、私は祈っただけ

ひづき
恋愛
舞踏会に行ったら、私の婚約者を取り合って3人の令嬢が言い争いをしていた。 よし、逃げよう。 婚約者様、貴方の願い、叶って良かったですね?

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

処理中です...