本気の宇宙戦記を書きたいが巨乳も好きなのだ 〜The saga of ΛΛ〜 巨乳戦記

砂嶋真三

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起転承[乱]結Λ

53話 狂兆。

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 旧帝都エゼキエル──。

 教理局を統べる現在のあるじは病床より復帰したレオ・セントロマ枢機卿である。

 近頃ではイリアム宮へ姿を見せず、専ら教理局から影響力を行使していた。

 イドゥン太上帝の近習役を疎かにしているのではないか──と眉をひそめる廷臣もいたが、レオの持つ天秤衆の力を怖れ誰も口にはしない。
 
 宰相エヴァン・グリフィスも状況を静観する構えを見せていた。

 ──"何と言っても、お二人には長年の友誼があるのだ。"
 ──"イリアム宮に顔を出さずとも志は同じくされていよう。"

 分断された帝国、船団国との争い、藻屑とされた天秤衆、そして焼け落ちたプロヴァンス女子修道院──。

 乱れた世相を憂いかつての安寧を懐かしむ者達は、酒席となれば互いに同じ問答を繰り広げていた。

 ──"いったい、誰の責任なのだ?"

 その問いに、皆が同じ応えを返す。

 ──"ベルニクの青二才と生臭教皇に決まっておる。"
 ──"いかにも、いかにも。"
 ──"これらを正されるのはエヴァン公と聖レオをおいてほかにあるまい。"

 さて、くだんの聖レオは己の罪悪感を苛む要因であった見事な眺望を教理局最上階の窓から見下ろしていた。

 虚飾の放つ腐臭がレオの心を曇らせる事はもはや無い。

 ──随分と様子が変わられたと聞いたが……。

 微動だにせず窓外を眺め続けるレオの背を前に、一人の女が白濁した眼球をせわしなく四方へ動かしていた。

 視力を喪失した彼女が相手の気配を探る際に見せる癖である。

「良く来た。親愛なるガブリエル」

 ガブリエル・ギー。

 天秤衆総代という要職にあり、全ての天秤を差配する立場にある女だった。
  
「猊下も、お変わりなく」

 注意深く言葉を選びガブリエルは応えた。

「ふむ──ところで、ガブリエル──」

 レオは背を向けたまま話を続けるつもりなのだと悟ったガブリエルはさらに眼球を動かした。

 音、風、匂い、生体電位──視覚以外の全情報を統合し構築される世界は、色彩の生み出す錯誤とは却って無縁である。

「カミーユの件は無念であったな」

 プロヴァンス女子修道院長にして天秤の母カミーユ・メルセンヌは棲家を焼き尽くす業火に包まれ消し炭となっていた。

 但し、頭部外傷による即死の為、灼熱の炎に苦しむ事がなかったのは慈悲とも言える。

「必ずや──」

 故カミーユ・メルセンヌの最高傑作と評される女は、聖教会史において最も多くの異端者をプルガトリウムに墜としてきた。

「大罪人を救済してみせましょう」

 之即ち、量子煉獄プルガトリウムである。

「女神ラムダの御心に適う弁である。──が、それへの備えは万端か?」
「マクギガンへ派出した者共が、本日夜半に戻って参ります」

 ジェラルド・マクギガンと数百人に及ぶ関係者を連行した天秤衆は、ウルド率いる親征軍と入れ違いで同領邦を後にしていた。

「各所に散っていた天秤も集い、帝都に凡そ三十万の手足が揃いました」

 聖座異端審問所、詩編大聖堂等々、旧帝都の聖教会関連施設は天秤衆で溢れ返っている。

「無論、忠実で思慮深い奴隷級も猛っております」

 忠実で思慮深い奴隷級とは自我を完全に喪失した殺戮部隊である。

 彼等を放し飼いにすると互いに異端と見做し殺し合いを始めてしまう為、聖座異端審問所の地下倉にて隔離幽閉されていた。

「素晴らしい報告だ、ガブリエル。弛まぬ真理の光に感謝を」

 レオの言葉とは裏腹に、鋭敏なガブリエル・ギーは不満の気配を察した。

「とはいえ、やはり十分ではなかろう」
「──」

 十分ではない理由に見当はつくが、天秤衆総代の分限で解決できる問題ではなかった。

「数多の天秤を揃えたところで、聖都アヴィニョンへは渡れぬ」

 聖都へ通ずるエステルポータルには聖骸布艦隊の堅牢な防衛陣が敷かれており、天秤衆の艦艇で押し入る事は不可能である。

くだんの大罪人は、五万の艦艇に護られ今宵も優雅に酒肉の宴を催すのだ」
「刻がきたれば我等の斧槍ふそうもお役に立てましょう。いつまでも教皇領に籠ってなどいられません」

 暫し聖都と教皇は捨て置き自陣営の引き締めを優先させる──というのがイリアム宮の方針である。

 当面は聖教会の内部抗争から距離を置き、ほとぼりが冷めたところで再び異端審問という実効力を利用しようと考えていた。

 教皇宣下があったとはいえ、教理局と天秤衆の権勢が消え失せた訳ではないのだ。

「甘い」

 だが、レオ・セントロマの考えは異なる。

「実に甘い」

 いかなる変事によるものか、彼は罪悪感と共に一切の味覚を喪っていた。

 味も分からぬままに犬歯で血肉を咀嚼し臓腑へ落とし、遥か彼方まで見通せそうな全能感に包まれ続けている。
 それは、この世に生を受けて初めて感じる悦びの日々だった。

「ベルニクの悪鬼は動きが早い。悠長に構えていては事を仕損じよう」
「はい──仰せの通りかと」

 ガブリエル自身も宮廷人の動きには歯痒さを感じていたのだ。

 聖レオが意を同じくしていた点に心強さを感じた。

「銀獅子を動かさねばならぬ」

 近衛師団擁する銀獅子艦隊は本来なら禁衛府の管轄である。

 だが、女帝と禁衛府長官が不在の現在、同艦隊は宰相エヴァン・グリフィスの指揮下にあった。

「銀獅子を使えば聖都入りも果たせましょうが、エヴァン公が同意されるかは──。公はクルノフの支配権に何やら執心されているご様子です」

 と、些か告げ口めいた口調で言った。

 数舜の沈黙が降りた後、レオは両腕を拡げ窓外の景色を抱えるような仕草を見せ──そして叫んだ。

「否否否否否ッ!!」

 不穏な空気の振動に、多数の命を奪って来たガブリエルの全身に鳥肌が立つ。

「女神ラムダへの信仰のみが無価値な世に在って無謬の価値であると知らしめるのが我等の務め!」

 ──"銀冠など無価値だよ、レオ。"

 全てを与えられた少年は、銀冠以外に何も持たない少年に告げた。

「銀冠、世俗の地位に権力、富も美も名声も──全てに意味など無い」

 ──"僕は言葉を時々間違えるんだ。そうだな──こう言い換えようか。"

「我等が信仰の行く手を阻む者は、之全て異端として裁きを下すッ!!」

 ──"全ては等しく無価値だ。"

「故に捕らえよ」

 そう言いながらレオ・セントロマはようやく振り向き、立ち尽くすめしいた信仰の奴隷を睨み据えた。

「エヴァン・グリフィスをな」
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