僕は骨が好きだ。大好きだ!

まいまい@”

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3章 僕の骨休めな日々

15.化石を発掘しに行こう。と、その青年は言った。

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 僕は骨が好きだ。
 それは太古の昔に生きた生物の骨も例外ではない。つまるところ、化石も大好きなのだ。さすがに本物の恐竜の骨には手が出なかったが模型レプリカは持っていたし、魚の化石は自分で何度か発掘したことがある。
 この世界にも生物がいる以上、進化の歴史が大地に刻まれているわけで――


 僕が今立っているのは、太古の昔から存在しているという渓谷、通称「魔物の墓場」と呼ばれる場所。この地には死期が近い魔物が引き寄せられる性質がある。そして、死した魔物は渓谷に囚われ、不死者アンデッドとなるのだ。

 この渓谷で死を迎えた生物は、数日で土に沈む。この渓谷は死骸を食う、という表現が生まれるほどに、土の中へと消えるのだ。そして、大地に埋もれた者たちは、そこで新たな命を宿すのだ。しかし、すべてが不死者として蘇るわけではない。不死者になり損ねた者たちは、長い年月をかけ化石となるのだ。
 巨大な魔物や、魔力の高い魔物は、その傾向が強い。渓谷の奥地ではそれらの死体が積み重なり、血のしみた褐色の地層を作っているのだという。僕の目的はそれだ。巨大で魔力の高い魔物、その代表は竜だ。僕は竜の化石を求めてこの地へ来たのだ。

 両側は絶壁が天までそびえ、象牙色の空が細く地平の果てまで続いている。道は基本的に一本で迷うことはないが、奥へ行けば行くほど強力な魔物が出現するようになる。
 しかしこの谷に住む魔物は僕の敵ではない。この渓谷の魔物は死霊、しかも九割には骨がある。骨がある限り彼らは僕の敵ではないのだ。残りの一割も、襲うしか能のない思念体は軽く蹴散らせるし、ある程度知性があるなら話し合いで何とかなる。僕は一応死霊使いの端くれ、彼らに敵意を示さぬ限り戦闘になることは、そうそうないのだ。

「うう……この子、連れて帰りたい。でも、そんなこと言ったらきりがないよね」
 僕は未練がましく骨馬の頭蓋を撫でる。実はこのやりとりは、すでに二十回を超えていた。ここは死がうごめく地、骨の多種多様が息づいているのだ。
 このすばらしい地の生態系を壊してまで、全てを手に入れようなどとは思わない。しかし、この1匹だけならばどうだろうと、魔物に遭遇するたびに思ってしまうのだ。

「ツトム、そろそろ行きましょう」
 そう告げるのは元獣人の冒険者であるフラウだ。旅慣れていないツトムは、フラウをアドバイザーとして連れ、この渓谷を訪れていた。フラウは、骨になったとはいえ五感が鋭い。周囲の警戒を担うにはうってつけだったのだ。

「あまり遅くなるとリサが心配しますよ」
 フラウはツトムに効果抜群な言葉を投げる。
 魔物が出現しなかったのならば、おそらく目的地に着いていただろう。しかし、魔物と遭遇するたびに、時間を取られるのだ。もちろん、戦闘に時間がかかっているのではなく、愛でることに消費しているのだが。

「ああ……こんなことしている場合じゃないよね」
 ツトムにとって、この渓谷に敵はないとはいえ、探索中に何が起こるか分からない。か弱い一般人なリサを危険な目に合わせるわけにはいかないので、今回は連れてきていない。領主さまの館で、リサはツトムの帰りを待っているのだ。

「ばいばい」
 別れを惜しみながらツトムは骨馬にそう告げた。骨馬は渓谷を駆け抜け去っていった。


 褐色の絶壁はどこまでも続く。渓谷も中盤にさしかかると、地殻変動のせいだろうか、ところどころ化石ほねの一部が見られるようになってくる。目的の化石ではないものの、ついつい見とれてしまう。どんな状態でも骨はいいものだ。
「ツートーム!」
「……はい」

 芸術のような化石の壁を眺めながら歩いていると、ふと魔力の淀みを感じた。それは絶壁の中から感じる小さな鼓動で、だんだんと大きく、そして、ひとつの形に整っていく。壁が粘土のように盛り上がると、中から朽ちかけた羊型の魔物がぽとりと地に落ちた。今まさに、新たな命が宿った者が誕生したのだ。このようにして生まれるのかと、僕は感動を覚えた。
 この魔物は非常に怪力な魔物として恐れられている。恐るべき速さで突進し、人を引きずり回すことさえ容易な程なのだ。蘇った後でもその力は生前と謙遜ない。しかも脳の制御機能が外れているため、常に最大の力をふるえる分、脅威が増す存在なのだ。

「骨なら、なお良かったのに」
 ただれた肉が臓腑が、骨の周りにまとわりついている。邪魔なモノは取り払ってしまいたい。声には出さなかったが、僕はそう思ってしまう。
「ぎめー!」
 僕の邪念を感じたのか羊の魔物は一目散に逃げ出してしまった。
「さすがですね、戦わずして勝つとは」
 フラウは呆れたように言う。
 弱肉強食の世界に生きる魔物は相手との力量の差を測ることができる。到底適いそうにないほど開きがある場合、戦いを挑まない。逃げられるのであれば、そうするのだ。
 死霊の類は特に生者の精神状態に敏感だ。ツトムの骨に対する異常な執着を受け、身の危険を感じてもおかしくはない。
「でも、だからと言って、逃げられるのは少し悲しいな」
 あの羊のちらりと覗いた肋骨はなかなかに艶のある色をしていた。触れ合うことはなかったが、それでもやはり骨はいいものだ。

「今度会ったら、角でも触らせて貰おうかな」
「……行きますよ」
 もはやこの場所に留まっている理由はない。僕らは先を進むことにした。


 何匹もの魔物を愛でて退け、進むこと数十分、渓谷は突如終わりを告げた。目の前を褐色の絶壁がたちはだかる。
「ここが最奥の場所か」
 この場所は渓谷の始まりの場所であり、最も古い時代の地層がある。この場所ならば、目的の化石もあるだろう。

「では、周囲を警戒しますね」
 フラウは見張りをかってでる。
「いつもありがとう」
 魔法は集中力を要する。どうしても詠唱中は無防備になってしまうのだ。
 見張りをフラウに任せ、僕は魔法の詠唱に入る。

 死体を繰る魔法ネクロマンシー。もとは、墓に埋葬された死骸、つまり土の中にある死骸を繰る魔法である。土の中にある死体を探知する魔法など、初歩の初歩。これができなくて、死霊魔術師ネクロマンサーは名乗れない。
 僕は地面に己の魔力を照射する。込める魔力で探知範囲は決まる。今回は墓とは異なり深さを求めるので、消費する魔力は多めだ。

「あった」
 魔法を発動させてから数秒、結果が返って来る。
 使ってみて分かる。化石発掘にはこれとないほど便利な魔法だ。周辺にある死骸かせきのおおよその位置、おおよその状態が脳裏に映る。化石についての情報が分かる、古生物学者が聞いたら、喜びそうな魔法である。

「あそこの下に眠る化石が一番、大きい反応が返ってきた」
 僕は気になる場所へ移動する。
「さて、どんな化石が眠っているのかな」
 もちろん、化石を掘り起こすなどという、重労働はしない。土の中の骨めがけて「骨よ、醒めよ」と魔法をかけるだけでいい。手を触れず墓場から下僕を作ることができてこそ、一人前なのだ。

 僕は念には念を入れ、魔法の威力を高める術式を地面に描く。そして、陣に魔力を通し、骨に命を与える魔法を使う。
 しばしの沈黙ののち、土が盛り上がり、鋭い爪が現れる。そして短い角の生えた頭骨、鎧のようなものをまとった背中、長い尾が地面から姿を現し、その全貌が明らかになる。四足の爬虫類で、がっしりと力強い骨をしている。翼は無く空は飛びそうにないが、突進でもされたらひとたまりもないだろう。
 動き出した化石は身震いし、身体についた土を払う。光沢のある深い赤褐色の身体は、長い年月、大地に抱かれ眠っていたことを物語っている。そして、牙の生えた口を大きく開け雄叫びをあげる。映画か何かであったなら次の瞬間、その骨は襲いに来るであろうことは想像に難くない。しかし、おとなしいもので、その竜は僕の指示を待っていた。

「これが古い時代の竜。昔はこんな生き物が、たくさんいたのですね」
 フラウは蘇った骨竜についての感想を述べる。竜が現れた時、恐怖でフラウの長い骨のしっぽがぴんと伸びていたことに、僕は少し萌えてしまったのは内緒だ。

「あぁ、こんな恐竜みたいな化石が動く。しかも、それが僕のものだなんて。すばらしい」
 博物館でしかみることがなかった、巨大爬虫類の骨が目の前に。感動しないわけがなかった。
 大昔、人も魔も無かった時代、世界は竜の楽園だったという。しかし、気候の変化か、植生の変化か、今ではその数を減らし、辺境の森か火山の麓かに行かない限りは出会えない程度に数を減らしてしまっていた。この世界でも、繁栄と衰退の歴史が繰り返されてきたのだ。

「丈夫な骨だ」
 古い時代の化石なので脆いかと思ったが、触ってみれば杞憂だと分かる。魔力を帯びた幕が骨を保護していた。
 僕はさっそく竜に指示を出し、伏せをさせ、背中にまたがる。
「進め!」
 のそりと竜は歩きだす。背中を覆う鎧のごつごつが、揺れるたびに僕のおしりに当たる。地味ながら痛い。このままでは長時間乗るのは無理だろう。
 そこで僕はぷにぷにな骨ともふもふな骨を召喚した。竜の背中にぷにぷにな骨を敷き、その上からもふもふな骨をかけた。そうすれば、いい感じの座り心地だ。

「ゆっくりと旅行する時にはいいかも」
 駿馬のような速さはないが、リサと二人で景色を楽しみながらのんびり移動するにはちょうどいい。あぁ、骨は本当に本当にいいものだ。

「目的も果たしたし帰ろうか」
「はい」
 竜の骨に乗って、僕らは渓谷の入り口へ向かう。
 もちろん帰り道では、骨蛇や骨兎なんかも、何種類か仲間にして、満足のうちに帰還したのだった。
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