僕は骨が好きだ。大好きだ!

まいまい@”

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4章 僕は骨折り損で儲けもの

19.骨になるまで愛し合おうか、と、その青年は言った。

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 僕は骨が好きだ。
 僕は地球にいた頃、骨を売る仕事をしていた。動物の全身骨格を売っていたのだ。それは理科や美術の授業に使われたり、どこかの研究施設で使われていたりであったが、時々、個人的な取引もあった。
 さすがに人の骨は販売できなかったが、骨の需要はそこそこあった――



 そこは骨の部屋であった。
 烏の、猫の、犬の、魚の、トカゲの、コウモリの、人の、全身骨格。それらが理路整然と棚に並べられている。それらはすべて本物だ。
 地球に存在する骨は動かない。それは覆らない法則だ。しかし、異なる世界ではその法則は当てはまらないことを僕は知った。

 僕はぼんやりと辺りを見渡す。
 この空間に違和感がある。なぜ、僕は仕事場の貸倉庫にいるのか。いつ日本に戻ってきたのか。思考がうまくまとまらない。
 僕が立ちつくしていると、人骨のひとつが突然動き出した。見る人が見ればそれは悪夢であるが、僕にとっては喜ばしい現象である。

「あぁ、やっぱり夢じゃないんだ」
 風景は地球にある貸倉庫。しかし、骨は動き出した。景色と法則が一致しなかった。しかし、それは些細なことだ。

 ほねは誘うように、白い肌をさらして、ゆっくりと歩いてくる。
 僕はそれに答えなくてはならない。その体に触れなくてはならない。僕の思いをぶつけなくてはならない。
 女に吸い寄せられるように、僕は女の手を取り、引き寄せた。

 霞がかかった頭で考える。
 ここはどこなのか。
 骨はこんなに柔らかかっただろうか。
 そして、僕はいつの間に全裸になったのか。
 いくつか、疑問が浮かぶが、それは重要なことだろうか。

 女の体温を感じ、僕の体は本能的のままに熱を帯びる。意識のすべては、もうその女のことしか考えられなくなっていた。

 僕は、女の肋骨に指を這わせる。
「?」
 僕は違和を覚えた。あるはずのものがないのだ。第二肋骨と第三肋骨の隙間に指が入らない。何か肉の塊でもあるように、僕の指を阻むのだ。同じように骨盤の心地もおかしい。クニクニとした感触が指先にあるのだ。

「そう、そこ。優しく、入れて、ね?」
 女の手が僕の指先を誘導する。ぬめりとした温かいものがが僕の中指を覆う。
 まるでリアリティのない骨の感触。僕は動きを止める。

「細かいことは気にしないで。このまま身をゆだねて?」
 動ごかない僕を見て、おんなは言う。

 しかし、僕は気がついてしまった。目の前にいるのは、愛しい骨ではないと。肉体をまとった生身の者であることを。
 僕がはっきりとそう認識したことで、その作られた世界は崩れていく。

「ちっ、あと少しのところを」
 僕にまたがり、今まさに先端めがけ腰を落とそうとしている裸の女と目があった。艶めかしい肢体を持つ女は、確か淫魔スクブスという種族だったか。

「……僕に何か用ですか。淫魔のお姉さん?」
 淫魔が就寝中の男の部屋にいる、といったらヤることは、ただひとつだけである。

「伝言ついでに、少し頂こうと思っただけよ。この前は失敗したから」
「この前?」
 彼女は僕のことを知っているようだったが、僕の記憶には全くない。

「……あら、覚えていないって顔しているわね。ショックだわぁ。路地裏であんなに熱く愛を語ったじゃな、い、の」
 淫魔は腕を組みたわわな房を持ち上げる。包み隠さない肉体は、それだけで欲情をそそる。
 褐色の肌に隠れる鎖骨、たわわな乳をささえる腕の骨、乳の下にうっすらと浮かぶ肋骨、骨盤のなだらかな丸み、恥骨の丘。彼女の皮膚の下に眠る骨はどんなものだろうと、想像が沸き立つ。

(この骨の感じ。なんか知っている……かも?)
 うろ覚えではあるが、どこかで彼女の骨格は見たことがあるかもしれないという記憶が蘇ってきた。しかし、目の前にいる淫魔があの時の者であるという確信が未だに持てずにいた。それほどまでに、彼女の姿は記憶に残っていなかったのである。
 僕はとにかく人の顔を覚えるのは得意ではないのだ。印象に残るほど美しい骨の持ち主であったなら、決して忘れることはないのだけれど。

「廃人にしない程度にちょっと頂こうと思ったのに……なんで骨なのよ、まったく」
 手をひらひらさせながら、忌々しそうに僕を見る。
 淫魔は、夢の中で相手に理想の異性を見せることができる。あくまで見せるだけなので、感触はごまかせない。その男性の思う理想が淫魔の姿とあまりにもかけ離れていた場合、幻覚との差異によって、うまく惑わせなくなることもあるのだ。

「廃人って。……それはそうと、僕に何か用ですか?」
 何はともあれ、用件を聞きださなくては。

「そうね。まずは……」
 淫魔は赤い石を投げてよこした。複雑な紋章が刻まれた石は、うっすらと魔力を帯びている。
「これは?」

「魔王様が、あなたの登城を望んでいるわ。その石は入城許可証よ」
「魔王……さまが?」
 何度も対人間戦に参加し、優秀な戦果をあげたということで魔王の目に止まったらしい。

「光栄に思いなさい。人間ごときが魔王様に謁見できるのだから。確かに伝えたわよ……」
 そう言うと淫魔は僕の股に顔を埋めた。温かく柔らかいものが覆い、吸われる感触がする。

「っ、て何をしているんですか」
 淫魔は前後に頭を動かしている。巧みに舌を絡ませながら、根元まで一気に、そして、先端まで引き抜く。繰り返される快感の波。はっきり言って気持ちがいい。意識を強く持たなければ、襲い来る快楽に自分を見失いそうだった。
 これで相手が淫魔ではなく骨であったなら、僕は精神的にも完全に虜になっていただろう。口では満足できずに、下の口に突きたてていたに違いない。

「最近頂いてないし、こんな雄々しいものを目の前にして、引けないの。ちょっとだけよ。それより、裸の女が乱れていて……あなたは何も感じないの?」
 粘度の高い透明な糸を唇の端に滴らせ、上目で見上げてくる。唇を舐める舌の動きがいちいちイヤラシイ。

「あなたのココは正直なのにねぇ」
 淫魔はいきり立つ先端に口付けをする。淫魔の巧みな刺激は、僕の意思に関係なく、体に快楽を伝えてくる。何人もの男を虜にしてきたのも頷ける技術だ。

「じゃあ、骨になるまで愛し合おうか? 君のせいで、僕は骨がとても欲しい気分なんだ」
 僕の欲は、骨と結びついている。高まれば高まるほどに、それが欲しくなる。求めてしまう。だから、行為の最中に、相手を骨にするために、殺してしまうのだ。
 僕と骨、二つが交わって、そうなって初めて、僕らはお互いに最高潮に達し、最高の幸福を得られる、と思うのだ。

「ちっ、ブレないヤツ。私は骨になる気はないわよ。だって他の人間おとこを食べられなくなるじゃない」
 淫魔は再び口に含む。そして、また快感を作り出す淫乱な動きを始めるのだった。

「はぁ……はぁ、」
 こんなに気持ちがいいのなら、骨だったならもっとイイに違いないのに。本当にこの淫魔が骨ではないのだけが残念だ。


 時間にして五分ほどであろうか、淫魔の動きがふいに止まる。
「少しは味わえたし……今日はこれくらいにしてあげるわ。さっさと行くわよ」

「え、もう終わり?」
 と言う言葉を口に出して、僕はこの淫魔の虜になり始めていたことに気がついた。

「あなたを虜にすると、命がいくつあっても足りなさそうなのよ。地の果てまで私の骨を求めて追ってきそうだもの。ほら、早くこれに着替えなさい。謁見に恥ずかしくない服は、この館の主が用意して下さったわ。どうせ持っていないでしょう? 感謝なさい。羽織るだけのローブだから、どんな体型になっていても、大丈夫でしょうね」
 すでに領主様も、僕が魔王様に呼ばれたことを、知っているらしい。
 すべて準備は成されていた。どうやら僕には拒否権はないようだ。

「もうちょっと、収まってから……」
 僕は淫魔のせいで、とても堂々と歩ける状態ではないのだ。
「竜車の中で、せいぜい悶々とするのね」
「ぐっ」
 ローブで隠されるので、外からは分からないからいいものを。
 僕はこの状態にした淫魔を恨みながら、竜車が駐車してある中庭へと向かう。


「これが竜車」
 翼を持つ竜が二匹、半球形の箱に繋がれている。魔王が用意したというだけあり、外装は白を基調とした品のよい色調で、縁の模様には金が使われている。この竜車にどれほどの金がかかっているのだろうと考えてしまうあたり、僕は小市民なのだろう。

「ツトム様、こちらへ」
 骨人の御者が扉を開き僕を促す。その動きは滑らかで、その骨人が丁寧に作られたことが伺える。この骨人を作った者の技術の高さが伺える。

「ごゆっくり、御寛ぎください」
「ありがとう」
 竜車の中には、大人一人が寝転がれそうな広さの椅子が設置してあった。一人で座るには広すぎる。僕には不釣り合いな立派すぎる内装に、尻込みしてしまう。
 しかし、僕が座らないことには竜車は発車しない。御者に迷惑をかけるわけには行かないので、僕は椅子に座る。座り心地も良く、長く座っていても疲れないだろう。

 僕が座ったのを確認すると、御者は台に乗り竜に鞭を入れた。
 離陸の直前に少し傾いた程度で、その後は揺れもなく竜車は空を移動する。

 本当ならば、窓から見える景色を堪能できたであろうが、僕はそれどころではなかった。
「着くまでにこれを何とか収めないと」
 淫魔のせいで歩くのが少しつらい状態なのだ。

 竜車には僕ひとり、御者は外だ。
 大空をまう竜車は頑丈にできており、大声を出さなければ、中でナニか行われても外に音は漏れないだろう。
 しかし、領主さまが用意した立派なローブやこの椅子にかけられた白いカバーを汚すかもしれない行為をするなんて、小心者の僕には無理な話。

 体のほてりは、なかなか収まらない。
「くっ。あの淫魔め、今度会ったら骨にしてやろうか」
 かくして僕は爆弾を抱えたまま、空の旅をした。
 やっと落ち着いたと思うころには魔王城が見え始めたところで、ろくに景色は楽しめなかった。
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