4 / 34
久々の食事
しおりを挟む
それから1週間、リエルは働き続けた。まずはこの屋敷を綺麗にするといって掃除を始め、同時に俺に生活リズムを合わせ始めた。合間合間、彼のいれる茶を飲みながら、彼自身のことを聞いた。両親を早くに亡くしている事。妹がいるが、一年前に嫁いだこと。そんなそもそもの生い立ちから、料理が好きだという些細な一面まで。自分から話しかけてばかりいるのに、ずっと幸せそうに笑っているところが印象的だった。
すっかり日常となった真夜中のある日のティータイム、彼にしては珍しく歯切れの悪い調子で、彼は私に話しかけてきた。
「あの、ルイさん」
なんだと短く返事をするも、なかなか話出さない。初対面の俺相手に一緒に暮らそうなどと言ったのに、なんて思いもするが、大人しく待つ。相手のリズムに合わせる、なんて、彼と暮らし始めてから、久しぶりに思い出した、他人と関わる時の感覚のひとつだ。
「前、人間の料理を食べはすると言ったじゃないですか」
「そうだな」
「だったら、その、これ……よかったら食べてほしいなって」
おずおずと差し出されたのは皿に盛られたクッキー。そういえば人間は茶とともに菓子を食すという、なるほど、そういう事か。
「もらおう」
サクサクと小気味良い音を立てるクッキー。舌の上でほろりと溶ける感触。程よく甘酸っぱい、表面に塗られた木苺のジャムは、この屋敷の庭でとったものだろうか。
数百年ぶりの人間の料理は、想像以上に美味だった。生きる上で必要でないからと切り捨てていたのが、少し勿体なく思うほどだ。しかし数百年前に既にあらゆる料理を食し、美味を堪能したはずだったのだが。まあ、時の流れと共に食事の質も上がるものか。考え、結果妙に納得しているうちにあっという間にクッキーが皿から消える。
リエルが驚いたような顔を私に向ける。
「とても美味だった。よければ食事も作ってくれないか」
頭に共同生活にあたってのルール3が浮かんだのは否定できない。だが、食べてみたいと思ったのも事実だった。
「……!はい、もちろんです!今日からお出ししますね!」
いつも笑顔のリエルが少し照れくさそうに、けれどやっぱり口元は緩んだ顔で、頷いた。
すっかり日常となった真夜中のある日のティータイム、彼にしては珍しく歯切れの悪い調子で、彼は私に話しかけてきた。
「あの、ルイさん」
なんだと短く返事をするも、なかなか話出さない。初対面の俺相手に一緒に暮らそうなどと言ったのに、なんて思いもするが、大人しく待つ。相手のリズムに合わせる、なんて、彼と暮らし始めてから、久しぶりに思い出した、他人と関わる時の感覚のひとつだ。
「前、人間の料理を食べはすると言ったじゃないですか」
「そうだな」
「だったら、その、これ……よかったら食べてほしいなって」
おずおずと差し出されたのは皿に盛られたクッキー。そういえば人間は茶とともに菓子を食すという、なるほど、そういう事か。
「もらおう」
サクサクと小気味良い音を立てるクッキー。舌の上でほろりと溶ける感触。程よく甘酸っぱい、表面に塗られた木苺のジャムは、この屋敷の庭でとったものだろうか。
数百年ぶりの人間の料理は、想像以上に美味だった。生きる上で必要でないからと切り捨てていたのが、少し勿体なく思うほどだ。しかし数百年前に既にあらゆる料理を食し、美味を堪能したはずだったのだが。まあ、時の流れと共に食事の質も上がるものか。考え、結果妙に納得しているうちにあっという間にクッキーが皿から消える。
リエルが驚いたような顔を私に向ける。
「とても美味だった。よければ食事も作ってくれないか」
頭に共同生活にあたってのルール3が浮かんだのは否定できない。だが、食べてみたいと思ったのも事実だった。
「……!はい、もちろんです!今日からお出ししますね!」
いつも笑顔のリエルが少し照れくさそうに、けれどやっぱり口元は緩んだ顔で、頷いた。
5
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる