明けぬ夜には翡翠色の灯火を~愛を知らないヴァンパイアが愛を知ったら溺愛されるようになりました~

あんみつ~白玉をそえて~

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腕の中にいたのは

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帰ってからしばらくは棺作りに没頭した。満月に時期を合わせるための旅行は、私一人ならゆうに1日で終わっていただろう。そのせいで少し普段より少しハイペースで作業を進める必要があった。依頼主の要望、ウェアウルフ族の伝統、様々な要因の中でも、新しく、オリジナリティ溢れた、珍しい棺になるよう思考を重ねる。作業中、リエルは邪魔しないようにとしばらく最低限しか私に近づかなかった。いつも見ていた顔が突然いなくなるのには多少の違和感を覚えたが、正直魔法ばかり使っている作業場に近づいてこないのはありがたくもあった。
そんな協力もあり、ようやく棺の納品が終わった次の日のことだった。

いつもよりも遅れて起きると、食堂には見慣れぬものがいた。

「あ、ルイさん!おはようございます」

ごく普通に挨拶してくるリエルの腕の中にいた異質な生物は猫だった。それもまだ幼いらしい。私の方を向いて、にゃおと一声あげた。

「おはよう、それは?」

リエルの話では、庭の手入れをしていたところに迷い込んだという。親猫の姿も見えなかったため、カラスなどの野鳥に食われる可能性も否定できず、とりあえず保護したらしい。

「飼っちゃだめ……ですか?」

口調こそ問いかけではあるものの、その目にはもう離す気などないとでも言いたげな強い意志があった。

「……好きにしろ」

リエルのことだ。一人で世話もするだろう。私に迷惑がかかることはない。

「ただ、私には近づけてやるな」

目も向けずに呟くとリエルが不思議そうにこちらを向いた。

「なんでですか?」
「どうもこうも……」
「あ、苦手とか?」

なら、とでも言うかのように、満面の笑みでリエルが子猫を近づけてきた。
その小さくつぶらな瞳がじっとこちらを見つめてくる。利発そうな茶色い瞳に私と同じ真っ白な毛。けれどそのふわふわとした毛並みはどこかリエルの髪を思い起こさせる。

一瞬手を伸ばそうとして、止める。俺が関わってはいけない。こういった生物、特に幼いうちは。

「単に、昔から動物の類には好かれた試しがない。怖がらせないためにも、近づけるなと言ったんだ」
「うーん、けどこの子は平気そうですよ?ほら、こうやって撫でてみてください」

リエルの細く薄い手のひらに撫でられた猫は気持ちよさげに鳴いた。
可愛いとは、思う。正直。触れてみたい、とも。なんというか、掻き立てられるものが胸にある。これが庇護欲というものだろうか。しかし本当に小さい。私の手に収まってしまう大きさだ。

「……私が触れて壊れてしまわないか」

小さな呟きはしっかりリエルの耳にも届いたらしい。リエルが思わずといった顔で笑い出す。目線を向けるとわざとらしく姿勢を正し、それから俺に自らの頭を差し出してきた。

「大丈夫ですよ。壊れません。でも心配なら、僕で試してください。力が強かったら言いますから」

リエルの頭など何度も触れてきた。触れてきた、はずなのに。そう言われると改めてリエルの小ささも意識してしまう。自分よりずっと小さく細く、か弱い人間。特に腰なんて、よく過去の自分が躊躇いなく触れたなと思うほど薄い。

ついそうやってしり込みしていると、痺れを切らしたらしいリエルが私の手を取って無理矢理自分の頭に乗せる。暖かく、柔らかい。

「僕、ルイさんに頭撫でられると安心するんです」

そのまま手を頬へと誘導され、頬を擦り付けられる。

「大きくて暖かくて、とっても優しい手です」

いつものようににこりとするリエル。いつの間にか、リエルの笑顔を見ると安心する自分がいるとようやく気付く。おかしな話だ。一瞬で壊せるほど儚いものに安心感を覚えるなんて。
1度深く息を吸って。恐る恐る子猫の頭に手を伸ばす。ふわりと毛が手のひらをくすぐる。リエルがやったように左右にゆっくりと動かせば、猫はまた同じように、俺に向かって鳴いた。

ほらねと微笑むリエルに素直に感謝の言葉を述べると、またもやリエルは無理難題をふっかけてきた。
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