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キミの永遠に僕の涙は落ちてゆく
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種族の差を超えた愛。一生を添い遂げると決めた相手が異種族。
そんな時、どうしたって付きまとうのは寿命差だ。同じ種族同士であれば最期のその時までどちらが先にいってしまうかわからない。だが、異種族であればその差は最初からわかっているものになる。
エルフである俺が一生を捧げたいと願った相手は、人間だった。数百年生きるエルフと数十年しか生きられない人間。
置いていく覚悟。置いていかれる覚悟。お互いよく考えた上で、俺たちは一緒になった。
そんなある時。俺と同じく、人間を生涯の相手と定めた同胞の相手の訃報が届いた。葬式の後、不意に言葉が口をついて出た。
「……俺も見送られたいものだ」
聞き取れるかどうか微妙なほどかすかな呟きに、彼は笑って答えた。
「僕は看取りたいけどね」
「……残されるのは、寂しくはないか」
「そうだね。でも、それ以上に……」
夕日をバックに、振り向いた彼の長い髪が、反射して、きらきらと輝いていた。目元を細めて、彼は口を噤んだ。
そんな、とあるなんでもない日から数十年。今まさに、彼は最期を迎えようとしていた。
知らず知らずのうちに、握った手に力がこもる。笑えていないのは自分でもわかっていた。けれど、涙を堪えること、置いていかないでと叫ぶことに耐えるので、精一杯だった。
こうなるとはわかっていた。日に日に老いゆく彼の隣で、俺はずっとそのままで。
深いシワが刻み込まれた彼の手と、未だ何一つ衰えることのない俺の手は、俺たちの超えられない壁をよく表していた。
「ねえ」
弱々しく、彼が声をあげた。
「無理に喋ろうとしなくていい」
そう反射的に返そうとした俺をゆっくりと目だけで制止して。彼は少しずつ話し始めた。
「僕を受け入れてくれて、ありがとう。キミのそばで過ごす日々は、とても穏やかで、暖かくて。心地よかった」
昔と何も変わらない笑顔で彼は言う。自分の中の何かが、覚悟を決めた音がした。
「キミが僕を愛していると言ってくれる度に、何度だって僕はたまらなくなって、キミに飛びついたね。それをキミは抱きしめてくれた。それもとびきり優しく、ね。ふふっ、僕はそう簡単に折れたりしないのに」
そうか、あの時、彼が言っていたのは。
「愛してくれてありがとう、幸せにしてくれてありがとう。本当に、本当に、僕は幸せだった」
今できる精一杯の笑顔で。今ある力全てを握った手に込めて。
「愛してるよ」
彼は静かに、眠りについた。
まだ体温の残る、けれど二度と動きはしないその手を、そっと両手で包み込んだ。
「ああ、やっと、わかったよ」
お前があの時言ったこと。
「お前が最後まで幸せであれたと知れたことが、それをこの目で見届けられたことが、俺は、とても嬉しい……嬉しいよ」
彼の最後が笑顔だったこと。彼の最期の言葉が愛してる、だったこと。彼の最後の鼓動の音。
全部全部、俺は知ることが出来た。
愛した人が最期まで幸せだったと、俺は知ることが出来た。
それはきっと、とても幸福な事だ。
「俺も愛しているよ、愛しい人……ゆっくりと、おやすみ」
零れた涙は、ほんの少しだけ塩辛かった。
そんな時、どうしたって付きまとうのは寿命差だ。同じ種族同士であれば最期のその時までどちらが先にいってしまうかわからない。だが、異種族であればその差は最初からわかっているものになる。
エルフである俺が一生を捧げたいと願った相手は、人間だった。数百年生きるエルフと数十年しか生きられない人間。
置いていく覚悟。置いていかれる覚悟。お互いよく考えた上で、俺たちは一緒になった。
そんなある時。俺と同じく、人間を生涯の相手と定めた同胞の相手の訃報が届いた。葬式の後、不意に言葉が口をついて出た。
「……俺も見送られたいものだ」
聞き取れるかどうか微妙なほどかすかな呟きに、彼は笑って答えた。
「僕は看取りたいけどね」
「……残されるのは、寂しくはないか」
「そうだね。でも、それ以上に……」
夕日をバックに、振り向いた彼の長い髪が、反射して、きらきらと輝いていた。目元を細めて、彼は口を噤んだ。
そんな、とあるなんでもない日から数十年。今まさに、彼は最期を迎えようとしていた。
知らず知らずのうちに、握った手に力がこもる。笑えていないのは自分でもわかっていた。けれど、涙を堪えること、置いていかないでと叫ぶことに耐えるので、精一杯だった。
こうなるとはわかっていた。日に日に老いゆく彼の隣で、俺はずっとそのままで。
深いシワが刻み込まれた彼の手と、未だ何一つ衰えることのない俺の手は、俺たちの超えられない壁をよく表していた。
「ねえ」
弱々しく、彼が声をあげた。
「無理に喋ろうとしなくていい」
そう反射的に返そうとした俺をゆっくりと目だけで制止して。彼は少しずつ話し始めた。
「僕を受け入れてくれて、ありがとう。キミのそばで過ごす日々は、とても穏やかで、暖かくて。心地よかった」
昔と何も変わらない笑顔で彼は言う。自分の中の何かが、覚悟を決めた音がした。
「キミが僕を愛していると言ってくれる度に、何度だって僕はたまらなくなって、キミに飛びついたね。それをキミは抱きしめてくれた。それもとびきり優しく、ね。ふふっ、僕はそう簡単に折れたりしないのに」
そうか、あの時、彼が言っていたのは。
「愛してくれてありがとう、幸せにしてくれてありがとう。本当に、本当に、僕は幸せだった」
今できる精一杯の笑顔で。今ある力全てを握った手に込めて。
「愛してるよ」
彼は静かに、眠りについた。
まだ体温の残る、けれど二度と動きはしないその手を、そっと両手で包み込んだ。
「ああ、やっと、わかったよ」
お前があの時言ったこと。
「お前が最後まで幸せであれたと知れたことが、それをこの目で見届けられたことが、俺は、とても嬉しい……嬉しいよ」
彼の最後が笑顔だったこと。彼の最期の言葉が愛してる、だったこと。彼の最後の鼓動の音。
全部全部、俺は知ることが出来た。
愛した人が最期まで幸せだったと、俺は知ることが出来た。
それはきっと、とても幸福な事だ。
「俺も愛しているよ、愛しい人……ゆっくりと、おやすみ」
零れた涙は、ほんの少しだけ塩辛かった。
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