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月夜の元で

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淡いグレーの髪に真っ青な瞳。ステップを刻む度、腰まで垂らした長い髪が揺れる。
これまでお相手した男性の誰よりも可憐に、その人は舞った。私もつられて足が軽くなる。

月夜のもと、2人でダンスを踊る。旦那様とも、そうだった。綺麗な月夜、私は彼に口説かれた。ぜひ私と結婚してください。あなたを幸せにするのは私です。必ず幸せにします……今思えば、それが家同士のための嘘だとわかったのに。あの時の私は、社交界でも美しいと名高い彼に求婚されて舞い上がっていたのだ。彼が既にあの女と関係を持っていることなど見ない振りをして。なんだったら、振り向かせてみせる、なんておこがましいことすら考えて。
彼との最初の出会いは幼いころ、いじめられていた彼を助けたことから始まった。端正な顔立ちに細い線。同世代の男の子のいじめの対象になるのも必然だった。成長の早く、昔から大柄だった私はそれを庇った。亜麻色の髪の毛をした男の子は深く私に礼を言った。その時のことを、覚えていらっしゃるんだと思ったのに。旦那様も、それを覚えていてくださったんだと思ったのに。だからこんなにのっぽで男性にも負けないくらいの大柄な私に求婚してくださったと思ったのに。
ぽろりと、知らず知らずのうちに涙がこぼれた。ああ、愛しているのです。私は今も昔も、旦那様だけを。
目の前の彼は目ざとくそれに気付いた。目尻に溜まった涙をすくった。

「……美しい方は泣いている姿も美しいのですね」

美しい、なんて初めて言われた。お世辞だとわかっていても、嬉しくなる。

「その理由、よければ僕にどうか教えて頂けませんか」
「なんでもないのです……なんでも」
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