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桜の木の下で

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よかった、まだ話している最中だ。走ったせいでうるさい呼吸を静める様に息を吐き、顔を上げる。小高い丘の上、桜色のなかにふんわりと揺れる金髪が見えた。隣のレフラルの若草色の髪色も相まって、おとぎ話の様な色合いになっている。こんな時は、その美しさに、元居た世界とのギャップを感じてしまうこともある。ああ、私は本当にゲームの中の世界に入ってしまったんだなあ。
見惚れてしばらく、はっと我に帰る。それと同時に、ここに濃いグレーの髪の私が入ると景観が壊れるということに気付いてしまう。一度そのことに気付けば、どうにも入りにくい。
あと少しだけなら、見てても大丈夫よね?そんな甘い考えが浮かび、気が緩んだその時、ふとこちらに顔を向けたフィリちゃんと目線が交差する。
その真っすぐで煌めいた瞳は、手薄になっていた私の心をいともたやすく打ちぬいた。これはみんな惚れますわ。だって意味不明なくらい美人だもん。どこか冷静な脳が告げる。これは大団円とかいうハーレムエンドも迎えますわそりゃ、はい。よく分からないことになっている私の脳などお構いなしに、どうやら彼女は私が自分に用があると思ったらしい。ぴょこぴょことこれまた可愛らしく走って来て、

「どうかしたの?私に何か用?」

とイメージぴったりの可愛い声で話しかけてくる。それに加えて優しい花の香り。見れば見るほど感動してしまう。しかしここですぐに言葉が出てきたのは、先にリーシェンと会っておいたからだろう。きちんと学んでいる。そこは評価すべきだ。だが、その言葉が何かによるもので。

「えっ、ええ!少し!」

思わず肯定してしまったが、頭が真っ白で、何を言うべきかが思い出せない。その間も純粋にフィリちゃんはこちらを見つめ続ける。それもあって、もごもごと何も言えずにいると、後ろからひょっこり、フィリちゃんに隠れるようにして、レフラルが顔を出した。

「フィ、フィリ、この子少し顔が赤いよ」
「あら、確かに。言われてみれば、そう見えるわ。ねえ、大丈夫?」

走った後の頬の赤みがまだ引いていなかったらしい。理由はどうであれ、少しでも時間が確保できてよかった。なんて考えるうちに、ようやく思考がまとまってくる。そうだ、道に迷ったという口実でいくんだった。それにしたってレフラルも可愛いな。予想以上に線が細いのに、手はフィリちゃんよりおっきいとか……なんてまた脱線しそうになる自分の頭を無理やり矯正する。
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