図書感想 六月

犬束

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『蔵の中』 横溝正史

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  怖るべき子供たちを求めて



 横溝正史をよく読んでいたのは、中高生の頃だったと思う。
 どの作品がきっかけだったのか、最初に読んだのが何だったのか、今となっては全く記憶にないのだが、映画化もされたような有名な長編より、どちらかといえば初期の洒落た短編が好きで、それよりなにより思い入れのあるのが、中期の耽美的な作風の作品群、特に『蔵の中』である。
 タイトルと、概要をどこで知ったのかも覚えていなくて、どうやら蔵の中に美しい姉と弟が閉じこもって暮らしている物語らしいので、まるで、和風の『怖るべき子供たち』じゃないか、と興奮した訳です。なかなか手に入れられず、内容を、ふんわり思い描き、下手な水彩のイラストを何枚も描いたものです。
 国語の教師にまで、横溝正史ヨコセイの『蔵の中』が読みたいのだが、みたいな抑えきれない気持ちを吐露して、「宇野浩二のなら知ってるけど、横溝正史のは知らない」と返されたのを、気が遠くなるほど久しぶりに思い出した。
 さて、ようやく手にした角川文庫で読んだ時、最初と最後は素晴らしいのに、途中の、つまりメインの殺人事件が不満に思えなくもなかった。と書けば語弊がある。いや、出来が悪かろうはずがない。耽美的、幻想的な雰囲気、小道具、人物設定も完璧。小説ならではのトリックに唸らされもする。
 では、何故、どこが。
 当時の私が求めていたのは、美貌の姉弟が薄暗い蔵に閉じこもり、お人形や千代紙で遊ぶ様子。古い箪笥や葛籠つづら花簪はなかんざし、鮮やかな友禅の振袖、鼓を打つ機械からくり人形、和時計、歌舞伎役者の錦絵や草双紙。薄く差し込む光、たゆたう埃のきらめき。ただそれだけを眺めていたかった。
的皪てきれき』と言う言葉を知ったのは、この小説の凄まじいほど美しいラストシーンでした。
 納められている他の作品も、解説で中島河太郎が表するように、『妖艶幽美』の世界に浸れます。もっと読まれ、評価されるべき一冊だと思います。



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