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しおりを挟む週末の夜遅く、キッチンでポップコーンを作っていたら、日付けが変わる頃、美味しそうな匂いがする、と云いながら、Nがやって来た。お昼前から出かけていたようだったけれど、いつの間にか帰っていたらしい。
「テレビで映画を観ながら、食べようと思って」
「何か面白いのがあるの?」
「ブラッド・ピットの『セブン』。デヴィッド・フィンチャーの、って云うべきかな。テレビで放映されるたびに、観てしまうんだよね」
「何時から?シャワーを浴びたいんだけど、間に合うかな」
彼はストライプ柄のパジャマ(白と濃紺のやたらと幅の広いストライプ)に着替え、私の隣に坐って、クッションを抱えた。彼の表情には、めずらしく微かな疲労が滲んでおり、急に大人びた彼の様子が、私をひどく戸惑わせた。
私は上がってしまい、いつもはそんなことはないのに、映画の最中なのに、つい言葉数が多くなるのをとめられなかった。黙っていたいのに。むしろ彼の声を聞きたいのに。
「でもまさか、こんなヒット狙いの、暗くてサイコな娯楽映画とか、観るとは思わなかったな」
「気取った映画しか興味ないイメージだった?ドクター・レクターはもちろん、チャールズ・マンソンやデッド・バンディがモデルの作品とか好きだよ。暗い映画が好き」
彼は煩がらず、私のお喋りにつきあってくれた。
「デヴィッド・ボウイのCD、あったはず。『1.アウトサイド』。ぼくのじゃなくて、オーナーのライブラリーだけど」
『セブン』のエンディングで流れる『ハーツ・フィルシー・レッスン』は『アウトサイド』の中の曲だ。
全く、フィルシー(淫らな)どころか、ヘルシーでクリーンな彼の口から、ゾディアックやイル・モストロの名前を聞かされるとは。
CMの間に彼はラジカセ(!)を持って来た。ローテーブルのポップコーンやグラスを退かせて、ラジカセを置き、さっそくCDを鳴らしだした。かなり大きな音だった。
「ねえ、踊ろうよ」
だけど、すぐに彼のお姉さんが起きて来て、叱られてしまう。
彼は神妙な顔で、
「ごめんなさい、もう寝ます」とボリュームを幾らか下げ、部屋の灯りも消した。テレビの画面が眩しかった。
「踊るよね」
そう囁く彼は、悪戯っぽく嬉しそうだった。
私たちは空が明るくなるまで、大声で笑い出さないよう堪えながら、本当にバカみたいにはしゃいで、ずっと踊りつづけた。
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