上 下
25 / 45

スイーツな恋の続きをおしえて

しおりを挟む
 
 二時間ほど熟睡して起きると、家族がちょうど帰ってきたのか、階下が賑やかだった。


 冷静になってくると、色々といたたまれない。

 私が帰った後、シーツとか洗濯したのかな、とか。明日からどんな顔したらいいのかな、とか。
 それにあの初めての行為を思い出すと顔から火が出るほど恥ずかしい。


 私は一人で赤面してはジタバタしたあと、何食わぬ顔を装ってリビングを突っ切り、勝手口に落とされた鍵を無事に回収した。音がしないよう、握りしめて玄関へ向かう。


「あら、お姉ちゃん。ただいま~!ご飯の支度、面倒だからコンビニでお弁当とか買ってきたわよー」


 母もアルコールを飲まされたのか、ご機嫌だ。


「お、おかえりー。私はみんなが選んだ後でいいよ。残ったの、もらうからー」


 そう言いながら、急いで玄関クローゼットに鍵を戻しに行った。

 うう、アソコが痛くて早歩きもできないとは。
 筋肉痛も酷いし、私、不自然にならないように歩けているんだろうか。


「お姉ちゃん、歩き方変じゃない?」


 ぎく。早速、妹に指摘された。


「あ、あー、パンプスで結構歩いたから?」
「そうよねぇ。今日は本当ーに疲れたわね。神社からホテルまであんなに歩くとは思わなかったわ」


 母、ナイス!


「お姉ちゃん」
「な、何よ」


 妹が私の顔をじっと見る。


「ピアス、片方なくない?」
「………へ?」


 え、どっち?
 慌てて左右を確認すると、左のピアスが取れていた。


「パールのじゃなかった?お母さんに貰ったシンプルなやつ」


 高校の卒業記念にピアスホールを開けた私に母が買ってくれた、冠婚葬祭用の大きめなパールのピアス。


「やだ、結構高かったんだから、ちゃんと探しなさいよー」
「う、うん。あれ?ベッドかなぁ。さっき寝ちゃったから………」


 ごまかして答えつつ青ざめる。
 まさか彼の部屋だったりして?後で聞いてみなきゃ。話すのはまだ恥ずかしいから、もちろんメールで。


 簡単に食事を済ませて部屋に戻ると、スマホを手に取る。
 彼からメールが届いていた。


『明日のおやつはナシでいいので、ゆっくり休むこと!あと、ピアス拾ったから、そのうち取りに来て』


 ………あぁ、やっぱりか。


 『わかりました』と返事を送信してベッドにゴロリと横になると、まだお腹の鈍痛が治まっていない。お腹に手を当てて、摩っていたらまた思い出してしまう。
 ………ここに、彼を受け容れたんだってこと。夢じゃないんだ、って。
 
 もう、ただの従兄妹には戻れない。そんな感傷のようなものを感じていた。戻れないのが悲しいとかではないのに、何故か鼻の奥がツンとしてしまう。



 お風呂に入って鏡を見たら、他に誰もいないのに「きゃぁっ!」と叫んで胸元を隠した。

 胸には彼の所有の印。ひとつ、ふたつ、みっつ………?

 確かに“見えない所には付けない”って言ったけど!ひとつじゃなかったの?!全然気付かなかったよ……!

 シャワーを浴びながら、その跡をそっとなぞる。痛みはまったくないけれど、これはいつまで残るんだろう。
 それに、胸の尖端はまだ赤みを帯びていて、そこはシャワーが当たる度に少しだけピリピリと痛い。

 全体的に小柄、というコンプレックスの塊だった私の、あちこちに愛された証拠の残る身体が、今はなんだか、とても愛しく思える。

 湯船に浸かり、ほぅっ、と息をつく。どうしよう。今夜は眠れないかもしれない。


 お風呂から上がり、自室に向かう途中で妹とすれ違った。この子、なんか鋭いんだよね。


「お姉ちゃん、女になったでしょ」
「………は、はい?!」


 突然の指摘に声が裏返る。


「な、な、なんで、あんたにそんな事がわかるのよっ」
「んー?経験者の勘?かなー」
「“経験者”って……」
「あぁ。私の初体験、今カレと高校の時。別にお姉ちゃんみたいに、誰かさん一筋じゃなかったから。私はごく普通に恋愛してたんだよ。だから当然と言えば当然っていうか」
「え?え?」
「お姉ちゃんバレバレー。あ、でもうちの親は多分わかってないよ。しかし凄いな、お兄ちゃん。ホントに手を出したんだぁ」
「……………」


 昔から私よりは奔放な子だとは思ってたけど。

 ………お見通しか!!


「良かったじゃん。瑛士兄ちゃん、お姉ちゃんの事、ずっと大事にしてたんだもんね。いいと思うよー。避妊さえ気を付ければ」
「な、な………避妊って、あんた……」
「ゴム、薄いの持ってるよ?あげよっか?」


 人の顔を覗き込んで、いひひっ、と笑う。
 昔から、イタズラっ子の妹には敵わない。


「いーやー!!」


 私は部屋に逃げ込んだ。一目散に。


 濡れた髪もそのままに、ベッドに潜り込む。けれど、どんなに硬く瞼を閉じても目は冴えて、結局明け方まで色々思い出しては悶えていた。

 “初めて”の時って、みんなこんなに疲れるのかな。
 さすがに妹にも聞けないけれど。


 瑛士くんも、思い出していますか?

しおりを挟む

処理中です...