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休日の過ごし方ってこんなんだったっけ?
あかさは迷い込んでいた。
長い連休の初日に朝ゆっくり起き出して、人が激怒するのを見、かなり辛抱して人を待ち、少しだけ理解が進んだような気になって、でも実は何一つ解決していないことに気づく。
もちろん友人が二人もできた。
学校も環境も接点がほとんど無いのにも関わらず。
降って湧いたような関係なのだが、互いに下の名前で呼び合うし、同じ特別な経験も共有した。
しおんとはあの妙なわだかまりが解けたようで、あかさの喜びはひとしおだ。
で、二人は何故だか夜の街を、かさばる茶色の封筒を小脇に抱え歩いている。
まだ八時くらいのはずだが、夜の街は人通りが少なく、車の往来がたまにあるだけ。
こんな時間に少女二人がすることとと言えば…。
散歩である。
その過ごし方の正誤の判断に迷っていたし、実際この辺りの道に疎くてしばし小道を彷徨ってもいた。
暗がりに大通りの街灯の灯りが広がり、視界が開けてくる。
「あかさ、これだよね」
「そう、一番最初」
しおんと行き着いた先は、あかさが最初にトリップした場所である。
時間は少し深くて暗さが異なるが、彫刻には照明が当たり、状況はよく似ている。
二人で意見交換して、おそらく夢の入り口は彫刻だろうと推測した。
トリップ、この名もまた二人で話し合った結果の呼び名なのだが、トリップ先は自分で決められるのかチャレンジしてみようと、厚ぼったい封筒にはしおんの書いた小説が入っていた。
休日というのに父は珍しく出張でおらず、母との二人の夕食をはやばやと終えると、あかさはぱらぱらと読み下した。
待ち合わせの場所、それはしおん宅なのだが、家の前で待つしおんに会うや開口一番、
「どうだった?」
と、あかさに意見を聞いてきた。
最近書いた作品だそうで、文章力は別物のように良くなって読みやすく、物語にすっと入っていけたと伝えると、
「うん、良かった。この話はね…」
と早口で解説されて、物語よりしおんの言葉の方が難解で、そのほとんどを受け流したことは秘密である。
ずんずん彫刻に向かって進む。
どこからどう見ても普通の、至ってごく普通の彫刻である。
普通というのは、しおんの解説のように難解であるという意味においてである。
ぐるりとじっくり見回ってみる二人。
一周して隣り合い、見上げると、
「やっぱり何もないね」
「そうだね」
二人してうなる。
結局はこうなるだろう気がしていた。
だっていつも突然だもん、と理由付けを試みるあかさだが、その実納得はできない。
「何なんだろうね」
「何だろうね」
互いにとりとめのない会話である。
「触れてはない?」
「うん、話してただけ」
「じゃぁ、関係ないのかな」
しおんと一緒の時は確か触れたように思う。
僅かにさびが浮いていて、手を払った記憶がある。
同じようにしてみようと、二人並んでベンチに腰掛ける。
ふっと体が浮いたような気がして…、という期待も淡く消える。
ただの休憩になってしまっていた。
どうしたものだろうか。
ちかやから連絡がないなら、しおんの家に今からお邪魔してしまおうか。
まだまだ知らないことだらけだ。
そういう休日もいいんじゃないだろうか。
そんなあかさの諦めムードを吹き飛ばすようにしおんが、
「他のも見てみよう」
と上機嫌で、かつ建設的な意見を述べるので、あかさは拒否できなくなってしまった。
「ちかやとトリップしたところ?ちょっと遠いよ」
電車なら一区間程度、小学生だって歩いて毎日通学する距離に、ちょっとためらう。
「そう、そうだね」
まさか行くのかと内心はらはらだったが、しおんも賛同した。
今のやる気はどこへ?と口をついて出そうになるが、ここは黙しておくべきだろう。
「じゃあ、川沿いの公園行ってみない?」
間髪入れなかったので、すでに予定を組んでいたのかとあかさは諦めた。
「川沿い?公園あったっけ」
ここら辺りの土地勘はあまりないのですぐにピンとこないあかさだったが、そう言えば確かにあった。
「そういやあるね」
かつてこの辺りは海で、炭鉱で排出される土で埋め立てられたと聞いたことがある。
遠浅の海の名残で、川なのに干満の差が大きいそうだ。
川と言うより、河口という方が正しい気がするそれを挟む堤防のように公園が両側に伸びている。
ここに幾多の彫刻が設置されているそうだ。
すぐそこだから、駅前の噴水より近いし、
「行ってみよう」
あかさは迷い込んでいた。
長い連休の初日に朝ゆっくり起き出して、人が激怒するのを見、かなり辛抱して人を待ち、少しだけ理解が進んだような気になって、でも実は何一つ解決していないことに気づく。
もちろん友人が二人もできた。
学校も環境も接点がほとんど無いのにも関わらず。
降って湧いたような関係なのだが、互いに下の名前で呼び合うし、同じ特別な経験も共有した。
しおんとはあの妙なわだかまりが解けたようで、あかさの喜びはひとしおだ。
で、二人は何故だか夜の街を、かさばる茶色の封筒を小脇に抱え歩いている。
まだ八時くらいのはずだが、夜の街は人通りが少なく、車の往来がたまにあるだけ。
こんな時間に少女二人がすることとと言えば…。
散歩である。
その過ごし方の正誤の判断に迷っていたし、実際この辺りの道に疎くてしばし小道を彷徨ってもいた。
暗がりに大通りの街灯の灯りが広がり、視界が開けてくる。
「あかさ、これだよね」
「そう、一番最初」
しおんと行き着いた先は、あかさが最初にトリップした場所である。
時間は少し深くて暗さが異なるが、彫刻には照明が当たり、状況はよく似ている。
二人で意見交換して、おそらく夢の入り口は彫刻だろうと推測した。
トリップ、この名もまた二人で話し合った結果の呼び名なのだが、トリップ先は自分で決められるのかチャレンジしてみようと、厚ぼったい封筒にはしおんの書いた小説が入っていた。
休日というのに父は珍しく出張でおらず、母との二人の夕食をはやばやと終えると、あかさはぱらぱらと読み下した。
待ち合わせの場所、それはしおん宅なのだが、家の前で待つしおんに会うや開口一番、
「どうだった?」
と、あかさに意見を聞いてきた。
最近書いた作品だそうで、文章力は別物のように良くなって読みやすく、物語にすっと入っていけたと伝えると、
「うん、良かった。この話はね…」
と早口で解説されて、物語よりしおんの言葉の方が難解で、そのほとんどを受け流したことは秘密である。
ずんずん彫刻に向かって進む。
どこからどう見ても普通の、至ってごく普通の彫刻である。
普通というのは、しおんの解説のように難解であるという意味においてである。
ぐるりとじっくり見回ってみる二人。
一周して隣り合い、見上げると、
「やっぱり何もないね」
「そうだね」
二人してうなる。
結局はこうなるだろう気がしていた。
だっていつも突然だもん、と理由付けを試みるあかさだが、その実納得はできない。
「何なんだろうね」
「何だろうね」
互いにとりとめのない会話である。
「触れてはない?」
「うん、話してただけ」
「じゃぁ、関係ないのかな」
しおんと一緒の時は確か触れたように思う。
僅かにさびが浮いていて、手を払った記憶がある。
同じようにしてみようと、二人並んでベンチに腰掛ける。
ふっと体が浮いたような気がして…、という期待も淡く消える。
ただの休憩になってしまっていた。
どうしたものだろうか。
ちかやから連絡がないなら、しおんの家に今からお邪魔してしまおうか。
まだまだ知らないことだらけだ。
そういう休日もいいんじゃないだろうか。
そんなあかさの諦めムードを吹き飛ばすようにしおんが、
「他のも見てみよう」
と上機嫌で、かつ建設的な意見を述べるので、あかさは拒否できなくなってしまった。
「ちかやとトリップしたところ?ちょっと遠いよ」
電車なら一区間程度、小学生だって歩いて毎日通学する距離に、ちょっとためらう。
「そう、そうだね」
まさか行くのかと内心はらはらだったが、しおんも賛同した。
今のやる気はどこへ?と口をついて出そうになるが、ここは黙しておくべきだろう。
「じゃあ、川沿いの公園行ってみない?」
間髪入れなかったので、すでに予定を組んでいたのかとあかさは諦めた。
「川沿い?公園あったっけ」
ここら辺りの土地勘はあまりないのですぐにピンとこないあかさだったが、そう言えば確かにあった。
「そういやあるね」
かつてこの辺りは海で、炭鉱で排出される土で埋め立てられたと聞いたことがある。
遠浅の海の名残で、川なのに干満の差が大きいそうだ。
川と言うより、河口という方が正しい気がするそれを挟む堤防のように公園が両側に伸びている。
ここに幾多の彫刻が設置されているそうだ。
すぐそこだから、駅前の噴水より近いし、
「行ってみよう」
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