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潔癖症とは思っていないが、男子は別にカウントしても、女子でも結構上履きを置いているのを目の前にして、見た目だけで汚れてないとは言えないでしょと誰に言うでもなく加織は言い訳した。
あかさの下駄箱から取るものを取ると履き替え、すぐさま足を体育館に向けた。
一旦学校を離れたせいで、多くの生徒は帰宅し、あるいは部活に励んでいた。
すっかり掃除は終わったらしく、過ぎる各教室はがらんとしている。
もうカンナも舞綺亜も居ないだろう。
あかさがどう考えているのかは聞いていないが、おそらく余計なことを考えずにちゃんと佐村と話すと心に決めたのだろうと感じた。
加織も話すことは必要と痛切に感じていたし、もし迷っているなら背中を押したろう。
だが、もうあかさは大丈夫だ。
それより、加織には気になる人がいた。
一方の佐村の方である。
ツカツカとあかさの上履きを音をさせて颯爽と歩く加織。
グラウンドからは部活中の生徒の檄が聞こえ、片や体育館からはボールの跳ねる音が太鼓のように響いて耳に届く。
おそらく佐村も練習中のはずだ。
確認せねばならない。
加織の心はぶれなかった。
加織の見立てでは、佐村は少し優柔不断なところがある。
たぶん、急冷といえるほどにあかさと佐村の間に何かがあったわけではないと思えた。
先日の美月の提案の件、そして今回の舞綺亜の写真。
偶然ではなく、必然。
舞綺亜は幼顔で可愛い容姿で、人が行動する裏でその顛末を楽しむ性格だ。
決して前面に出るような人物像とは違う。
いつも一緒にいるのだ、美月と話が通っていると思うのが自然というもの。
それに、あかさに近い人物のグループとの接触、そして情報の流布。
疑いようもなく佐村の方が踊らされている、加織はそう思っていた。
だから確かめなければならない。
佐村がどこまで考えているのか、そもそもどこまで知っているのかを。
近づくにつれ大きくなる音に、加織は鼓舞されているかのような錯覚を覚えた。
ドン、ドン…、シーン。
加織が大股立ちで勇ましく入口に立っているのを見たバスケ部員たちは一斉に動きを止めた。
「またかよ」
「まさか」
口々に何かを呟いている。
つぶやきというには大きすぎる声で、しかも感情丸出しな言い方に加織は気持ちひるんだ。
なんだろう、この空気。
加織に気づいた佐村が、ボールを手に走ってくる。
「やっぱりお前か」
「お前だけ、外走ってこい」
羨んだり妬んだり、そんな感情に満ちている。
佐村が加織の元にやってきたころには、またボールが跳ねる音を数は少ないが出し始めた。
「何のこと?」
皆目見当がつかないその質問は自然な流れだったが、佐村の反応は視線を外すという不自然なものだった。
「何?」
じれったい、その感情が表に出たのか、加織の勢いに気圧され、
「今、羽仁が来てたんだよ」
「舞綺亜が?」
意外な返事に加織の時間が止まったようだった。
その間も、佐村の汗がぽつぽつとコンクリートに滲んで消えていった。
むしろその話題なら話が早いと、考えるのをやめた加織が、
「何しに来たの?」
「いや、別に…」
佐村をしっかり者だと思っていた加織には、刃のない包丁のように切れ味悪い佐村のしぐさが新たな発見ではあったが、それは嬉しくない一面だった。
「あの写真…」
「あれは突然だったから」
加織が言う終わる前に問いを察して佐村が遮る。
「突然?」
「あぁ。昨日の昼、こんな感じで羽仁が来て…」
佐村の話は続いた。
「昨日の部活の最中に二人してやってきて、あいつがいきなり抱き付いて来たんだよ。付き合ってくれって」
佐村の汗はまだ滴り落ちている。
もちろん暑いからだろうが、落ち着かないその素振りがそれだけが理由ではないといっているようだった。
「でも、付き合ってる人がいるからって言ったんだよ」
「それ、あかさのこと?」
「もちろん」
佐村の即答に加織は安心した。
押されて揺らぐ、そんな佐村だが、少なくとも現状は身綺麗なようだったからだ。
他方、外見はぱっと女子の目を引くような良い顔立ちをしているがために、芯がしっかりしていないところが加織にはどうにも気になる。
押され切られるかもしれないが、どうしようもない。
その一線を越えることは加織に許されてはいない。
もちろん、舞綺亜が本心からそう動いているのなら、という条件付きの話ではある。
「そしたら、またさっき来てて」
「来て?」
「あぁ。でも何も。ただ見てるだけだった」
佐村にはわからないことが多そうだが、加織にもそれは意味が分からなかった。
何があるのだろう。
もしかして、カンナが見せてくれた写真のことはまだ知らない?
「とにかく、あかさとちゃんと話ししてね」
「そのつもりだよ、最初から」
じっと目を見て話す佐村に、逆に不安がぬぐいきれない加織。
ぐいっと前に出て加織もボールを掴んで、さらに見つめる。
まるでキスシーンかというほどで、こらえかねて
「マジかよ」
「あいつ、モテ過ぎじゃね」
「ボール邪魔だろ」
熱い視線を投げるギャラリーが騒ぐが、加織は佐村の目の動きだけを見続けた。
茶色く透ける瞳は明るく差し込む日差しを写し、陰影の中にシルエットだけの加織の姿が映る。
一瞬目が逃げる。
加織はようやく踵を付けて深く息をついた。
「信じる」
「あ、当たり前だろ。あいつにも電話するっていってあるし」
「へぇ」
「なんだよ、その目。疑ってるだろ」
「そうじゃなくて。まだ一度もあかさって聞いてない」
ちょっとだけ後ずさると、
「いいだろ、別に」
加織は踵を返し、階段を数段降りてから振り向くと、
「あかさって呼べるようになりなよ」
と言って、加織は佐村に背を向けた。
加織の言葉には別に真意があったが、佐村がそれを理解できないかもしれないことを承知で言い放った。
「いつか言うよ」
佐村の声は自身が一番驚いたほど小さく、当然加織に届くはずがなかった。
渡り廊下を抜けて消えていく加織をぼーっと見送り、そういえばと思い出す佐村。
舞綺亜が部員の一人と何か話しているのを目にしたことを。
しかしそれを思い出したが気に留めず、佐村はボールを弾いて練習に戻った。
体育館を後にした加織はそのまますたすたと速足で歩きながら校舎内の階段下で急に止まった。
携帯を取り出して、ぱぱっと弾く。
すぐにブルブルと携帯が震えて、返信メッセージがあったことがわかる。
「すぐそこじゃん」
加織は携帯を鞄にしまうと、返信にあった場所へ急いだ。
学校玄関口を出てすぐ、フェンス沿いの歩道を舞綺亜が一人歩いている。
「何か用?」
帰り道だろう、怪訝な表情の舞綺亜の横に並び共に歩く。
「佐村くんのこと」
「やっぱり」
「写真、見た」
「あかさも?」
「うん。ちょっとびっくりしてたけど」
加織の言葉に反応をあまり見せない。
「本気?」
「何が?」
考える時間稼ぎにしか思えないが、時間が増えたからと言って答えは二者択一で逃げようがない。
「好きなの?」
ふふっと手を口に当て、小さく笑う舞綺亜。
「どうかな」
「じゃぁ、冗談だったんだ」
「話のネタ、その程度」
加織の推測通りの答えだった。
教室で舞綺亜が佐村と話す場面はよく見かけた。
二人は仲好さそうで、だが加織は佐村の話し方があかさの時だけ少し違うことを感じ取っていた。
だからあかさにけしかけてみたわけで、あかさの佐村と話すときの表情も他とは違うところがあったし、加織の目には自然の成り行きに映った。
舞綺亜の口調の変化、視線の動きや表情の豊かさは乏しいが、それは日ごろ話すときのものと変わりなく、彼女の言うことが事実だろうことを証明していた。
冗談だと分かった以上、もう事を荒立てる必要はない。
二人に、あるいは三人の問題なのだ。
「この前のあれ、どういう意味?」
舞綺亜の突然の言葉は他人には脈絡ないように聞こえるはずだが、加織はすぐに思い当たる。
「あかさはあんまり歌が上手じゃないから」
あかさには聞かせられない言葉である。
何しろ歌声はまだ聞いたことがないのだから。
「美月が不思議がってた」
それはそうだろうと思う。
そして、いつか美月には話をしなければいけないとわかっていながら、その機会を得ることはなかったし、場を作ろうともしなかったのは自分の責任だともわかっていた。
「美月は?」
「みんなと一緒に帰ったんだと思う」
「そっか」
これがいい機会だと一時奮い立った一方で、居ないことに少なからず安堵している自分に気が付いて辛かった。
「そういえばさぁ…」
加織は共通の話題に変えて、しばらく舞綺亜と話をした。
よくよく思い出せば二人っきりで話すことは今までにないことだった。
いつも誰かのそばにいるというのが加織の舞綺亜に対する印象。
それが今、隣に自分しかいない。
話が大きく盛り上がらなくてもそれが普段の舞綺亜の反応なのかもしれないと、加織は常に笑みを浮かべて楽しそうな表情を見て思った。
さっき私に呼び止められたときの顔と言い、冗談だと言い切ったときの顔と言い、心情が顔に出ていたのは間違いない。
と、今度は自分が真顔になって、
「しまった」
と、くるりと急に向きを変える加織。
「どうしたの?」
「ごめん、忘れ物した」
「忘れ物って?今日は授業もお昼もないし」
「上履き」
「持って帰るもの?それ」
やっぱ自分だけなのね。
「ごめん。先、帰って」
「うん。じゃね」
手を振り、別れる二人。
温かい空気は以前と変わらない関係を醸し出していた。
「あかさの上履き、持って帰るの忘れた」
加織は今日三回目の登校だとカウントし、その後ろ姿を舞綺亜は笑顔の消えつつある顔で見送った。
「冗談だったのは本当だよ、あの時は」
舞綺亜は独り言をつぶやいて向きを変えると、二人は背中合わせにその場から離れていった。
あかさの下駄箱から取るものを取ると履き替え、すぐさま足を体育館に向けた。
一旦学校を離れたせいで、多くの生徒は帰宅し、あるいは部活に励んでいた。
すっかり掃除は終わったらしく、過ぎる各教室はがらんとしている。
もうカンナも舞綺亜も居ないだろう。
あかさがどう考えているのかは聞いていないが、おそらく余計なことを考えずにちゃんと佐村と話すと心に決めたのだろうと感じた。
加織も話すことは必要と痛切に感じていたし、もし迷っているなら背中を押したろう。
だが、もうあかさは大丈夫だ。
それより、加織には気になる人がいた。
一方の佐村の方である。
ツカツカとあかさの上履きを音をさせて颯爽と歩く加織。
グラウンドからは部活中の生徒の檄が聞こえ、片や体育館からはボールの跳ねる音が太鼓のように響いて耳に届く。
おそらく佐村も練習中のはずだ。
確認せねばならない。
加織の心はぶれなかった。
加織の見立てでは、佐村は少し優柔不断なところがある。
たぶん、急冷といえるほどにあかさと佐村の間に何かがあったわけではないと思えた。
先日の美月の提案の件、そして今回の舞綺亜の写真。
偶然ではなく、必然。
舞綺亜は幼顔で可愛い容姿で、人が行動する裏でその顛末を楽しむ性格だ。
決して前面に出るような人物像とは違う。
いつも一緒にいるのだ、美月と話が通っていると思うのが自然というもの。
それに、あかさに近い人物のグループとの接触、そして情報の流布。
疑いようもなく佐村の方が踊らされている、加織はそう思っていた。
だから確かめなければならない。
佐村がどこまで考えているのか、そもそもどこまで知っているのかを。
近づくにつれ大きくなる音に、加織は鼓舞されているかのような錯覚を覚えた。
ドン、ドン…、シーン。
加織が大股立ちで勇ましく入口に立っているのを見たバスケ部員たちは一斉に動きを止めた。
「またかよ」
「まさか」
口々に何かを呟いている。
つぶやきというには大きすぎる声で、しかも感情丸出しな言い方に加織は気持ちひるんだ。
なんだろう、この空気。
加織に気づいた佐村が、ボールを手に走ってくる。
「やっぱりお前か」
「お前だけ、外走ってこい」
羨んだり妬んだり、そんな感情に満ちている。
佐村が加織の元にやってきたころには、またボールが跳ねる音を数は少ないが出し始めた。
「何のこと?」
皆目見当がつかないその質問は自然な流れだったが、佐村の反応は視線を外すという不自然なものだった。
「何?」
じれったい、その感情が表に出たのか、加織の勢いに気圧され、
「今、羽仁が来てたんだよ」
「舞綺亜が?」
意外な返事に加織の時間が止まったようだった。
その間も、佐村の汗がぽつぽつとコンクリートに滲んで消えていった。
むしろその話題なら話が早いと、考えるのをやめた加織が、
「何しに来たの?」
「いや、別に…」
佐村をしっかり者だと思っていた加織には、刃のない包丁のように切れ味悪い佐村のしぐさが新たな発見ではあったが、それは嬉しくない一面だった。
「あの写真…」
「あれは突然だったから」
加織が言う終わる前に問いを察して佐村が遮る。
「突然?」
「あぁ。昨日の昼、こんな感じで羽仁が来て…」
佐村の話は続いた。
「昨日の部活の最中に二人してやってきて、あいつがいきなり抱き付いて来たんだよ。付き合ってくれって」
佐村の汗はまだ滴り落ちている。
もちろん暑いからだろうが、落ち着かないその素振りがそれだけが理由ではないといっているようだった。
「でも、付き合ってる人がいるからって言ったんだよ」
「それ、あかさのこと?」
「もちろん」
佐村の即答に加織は安心した。
押されて揺らぐ、そんな佐村だが、少なくとも現状は身綺麗なようだったからだ。
他方、外見はぱっと女子の目を引くような良い顔立ちをしているがために、芯がしっかりしていないところが加織にはどうにも気になる。
押され切られるかもしれないが、どうしようもない。
その一線を越えることは加織に許されてはいない。
もちろん、舞綺亜が本心からそう動いているのなら、という条件付きの話ではある。
「そしたら、またさっき来てて」
「来て?」
「あぁ。でも何も。ただ見てるだけだった」
佐村にはわからないことが多そうだが、加織にもそれは意味が分からなかった。
何があるのだろう。
もしかして、カンナが見せてくれた写真のことはまだ知らない?
「とにかく、あかさとちゃんと話ししてね」
「そのつもりだよ、最初から」
じっと目を見て話す佐村に、逆に不安がぬぐいきれない加織。
ぐいっと前に出て加織もボールを掴んで、さらに見つめる。
まるでキスシーンかというほどで、こらえかねて
「マジかよ」
「あいつ、モテ過ぎじゃね」
「ボール邪魔だろ」
熱い視線を投げるギャラリーが騒ぐが、加織は佐村の目の動きだけを見続けた。
茶色く透ける瞳は明るく差し込む日差しを写し、陰影の中にシルエットだけの加織の姿が映る。
一瞬目が逃げる。
加織はようやく踵を付けて深く息をついた。
「信じる」
「あ、当たり前だろ。あいつにも電話するっていってあるし」
「へぇ」
「なんだよ、その目。疑ってるだろ」
「そうじゃなくて。まだ一度もあかさって聞いてない」
ちょっとだけ後ずさると、
「いいだろ、別に」
加織は踵を返し、階段を数段降りてから振り向くと、
「あかさって呼べるようになりなよ」
と言って、加織は佐村に背を向けた。
加織の言葉には別に真意があったが、佐村がそれを理解できないかもしれないことを承知で言い放った。
「いつか言うよ」
佐村の声は自身が一番驚いたほど小さく、当然加織に届くはずがなかった。
渡り廊下を抜けて消えていく加織をぼーっと見送り、そういえばと思い出す佐村。
舞綺亜が部員の一人と何か話しているのを目にしたことを。
しかしそれを思い出したが気に留めず、佐村はボールを弾いて練習に戻った。
体育館を後にした加織はそのまますたすたと速足で歩きながら校舎内の階段下で急に止まった。
携帯を取り出して、ぱぱっと弾く。
すぐにブルブルと携帯が震えて、返信メッセージがあったことがわかる。
「すぐそこじゃん」
加織は携帯を鞄にしまうと、返信にあった場所へ急いだ。
学校玄関口を出てすぐ、フェンス沿いの歩道を舞綺亜が一人歩いている。
「何か用?」
帰り道だろう、怪訝な表情の舞綺亜の横に並び共に歩く。
「佐村くんのこと」
「やっぱり」
「写真、見た」
「あかさも?」
「うん。ちょっとびっくりしてたけど」
加織の言葉に反応をあまり見せない。
「本気?」
「何が?」
考える時間稼ぎにしか思えないが、時間が増えたからと言って答えは二者択一で逃げようがない。
「好きなの?」
ふふっと手を口に当て、小さく笑う舞綺亜。
「どうかな」
「じゃぁ、冗談だったんだ」
「話のネタ、その程度」
加織の推測通りの答えだった。
教室で舞綺亜が佐村と話す場面はよく見かけた。
二人は仲好さそうで、だが加織は佐村の話し方があかさの時だけ少し違うことを感じ取っていた。
だからあかさにけしかけてみたわけで、あかさの佐村と話すときの表情も他とは違うところがあったし、加織の目には自然の成り行きに映った。
舞綺亜の口調の変化、視線の動きや表情の豊かさは乏しいが、それは日ごろ話すときのものと変わりなく、彼女の言うことが事実だろうことを証明していた。
冗談だと分かった以上、もう事を荒立てる必要はない。
二人に、あるいは三人の問題なのだ。
「この前のあれ、どういう意味?」
舞綺亜の突然の言葉は他人には脈絡ないように聞こえるはずだが、加織はすぐに思い当たる。
「あかさはあんまり歌が上手じゃないから」
あかさには聞かせられない言葉である。
何しろ歌声はまだ聞いたことがないのだから。
「美月が不思議がってた」
それはそうだろうと思う。
そして、いつか美月には話をしなければいけないとわかっていながら、その機会を得ることはなかったし、場を作ろうともしなかったのは自分の責任だともわかっていた。
「美月は?」
「みんなと一緒に帰ったんだと思う」
「そっか」
これがいい機会だと一時奮い立った一方で、居ないことに少なからず安堵している自分に気が付いて辛かった。
「そういえばさぁ…」
加織は共通の話題に変えて、しばらく舞綺亜と話をした。
よくよく思い出せば二人っきりで話すことは今までにないことだった。
いつも誰かのそばにいるというのが加織の舞綺亜に対する印象。
それが今、隣に自分しかいない。
話が大きく盛り上がらなくてもそれが普段の舞綺亜の反応なのかもしれないと、加織は常に笑みを浮かべて楽しそうな表情を見て思った。
さっき私に呼び止められたときの顔と言い、冗談だと言い切ったときの顔と言い、心情が顔に出ていたのは間違いない。
と、今度は自分が真顔になって、
「しまった」
と、くるりと急に向きを変える加織。
「どうしたの?」
「ごめん、忘れ物した」
「忘れ物って?今日は授業もお昼もないし」
「上履き」
「持って帰るもの?それ」
やっぱ自分だけなのね。
「ごめん。先、帰って」
「うん。じゃね」
手を振り、別れる二人。
温かい空気は以前と変わらない関係を醸し出していた。
「あかさの上履き、持って帰るの忘れた」
加織は今日三回目の登校だとカウントし、その後ろ姿を舞綺亜は笑顔の消えつつある顔で見送った。
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