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いっしょにお風呂
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あれから、三日が過ぎた。
おばあさんの葬儀も終わり、一段落ついた頃。
俺と瞳は、「シエラの樹」というマンガ喫茶にてラノベ談義を行っていた。
この店は、いわゆる個室タイプのものじゃなくて、『普通よりマンガの本がたくさん置いてある喫茶店』という感じで、食べ物か飲み物を注文すると90分間、マンガ読み放題となる。それ以上滞在する場合は、延長料金が発生するシステムだ。
コーヒーも料理もおいしく、雰囲気も良く、インターネットも使えるし、資料として利用できるマンガも多いので俺達にはうってつけだ。
時刻は午後三時、俺はホットコーヒー、瞳はオレンジジュースを注文していた。
彼女はまだ、おばあさんを亡くしたショックから立ち直ったわけではなかったが……それでも、徐々に明るさを取り戻していた。
また、彼女が死んじゃったと勘違いし、必死になって駆けつけたことは、それはそれで嬉しかったと言ってくれた。
「……特にお姉ちゃん、うらやましがってくれたよ……『いい彼氏出来たね』って。全然そんなんじゃないのにね」
あっけらかんと笑う瞳。
……そんなんじゃないんだ……。
「……それで、『タク』と『ユウ』の関係なんだけど……やっぱり序盤は『単なるパートナー』で、後半になるにつれてお互いに離れられない関係になる、っていうのでいいかな?」
瞳が、目を輝かせながら構想を語る。
ちなみに、『タク』は主人公。男の子で、十六歳。
『花粉症用の点鼻薬と間違えて殺虫剤を鼻の中に噴射してしまった結果、異常状態絶対耐性能力者(アンチバッドステイタスプレイヤー)として異世界に転生した新米冒険者』……ものすごくイヤな設定だけど、俺が入院した本当の理由なんてごく一握りの人しか知らないから、まあいいかなって思っている。
『ユウ』はヒロイン。
『ジュースと間違って農薬を飲んで死んじゃった結果、猛毒を操る狩人として異世界に転生した女の子』という設定。
これは瞳が嫌がったが、『タク』の設定を生かすならこれしかないと押し切った。
歳は十七歳、一つだけ年上にした。
その理由は、瞳の提案により
『タクに対して上から目線の、ツンデレキャラ』
となったためだ。
彼女の方が一年早く転生しており、一流の冒険者と認識されているという自負も影響しているという。
やがて『タク』の成長と共に、立場が逆転していくらしいのだが……。
「……でも、この二人を恋愛感情にまで発展させるかどうか、難しいのよね……」
そこで瞳は悩んでいるのだという。
「そうだな……ラノベのお約束にするならば、タクを慕うサブヒロインを何人か登場させて、ユウにヤキモチを焼かせるっていうのが定番だけど……」
「ふーん……そっか、なるほど。さすが、男の子の意見は参考になるね」
この手の話には、瞳はやけに素直だ。いわゆる『ネタ帳』に、俺との会話の内容で参考になったところをメモしている。
「……私、恋愛経験あんまりないから、こういうの苦手で……」
と、謙遜? する瞳だったが……俺には、ある単語が引っかかった。
「『あんまり』っていうことは……多少はあるのか?」
「うん、少しだけど……私だって、中学校の時に先輩に憧れたことだってあるし、年下の、後輩に告白された事もあるし……」
「へえ、告白、か。で、付き合ったの?」
「付き合ったって言うか……うん、まあ、一緒に映画見に行ったり、ご飯食べに行ったり……あ、私の家に泊まりに来たこともあったわ」
なっ……っ!
「そ、それって、家族公認、ってこと?」
「うん、別に何にも言われなかったけど」
「……ひょっとして、一緒に寝た、とか?」
「うん、そう。お風呂にも一緒に入ったよ。まあ、中学生のときだけど」
衝撃の事実……なんか、めまいがしてきた……瞳、中学生で……もうそこまで経験してたのか。
「……で、今も付き合ってるの?」
「ううん、私が卒業して、それっきり。でも、卒業式で手紙あげたら喜んでたよ」
……今は、彼氏居ないのか……。
でも、正直、ショックだ……。
「でも、その子も後輩に告白されたって言ってて、迷ってたから……これで良かったのかも。可愛い子だったし……ま、歴史は繰り返すってことかな」
相変わらずあっけらかんとしている瞳。
彼女は告白された側だし、本気じゃなかったのかな。
「でも、一緒にお風呂まで入るなんて、よく家族が許可してくれたな……」
「別に平気なんじゃなかったのかな? 女の子同士だし……」
……へっ?
「……ちょっとまってくれ……告白されたのって、ひょっとして、女の子から?」
「そうよ。後輩って言ったでしょ?」
……そうだった、彼女、中学、高校と女子校だったんだ……。
「……ひょっとして、女子校って、そういうの多いのか?」
「うん、まあ……流行ってはいたね……えっ、和也君、もしかして、私が男の子と付き合ってたって思ってた?」
「ああ……だって普通に考えて、告白って、異性にするものだから……」
「……そっか、普通はそうね……ふふっ、また得意の勘違い、しちゃってたんだ……」
悪戯っぽい、彼女の微笑み。
ほっとしたような、悔しいような……。
「……じゃあ、男の子と付き合ったことはないんだ」
「うん、恋愛っていうのはないかな。たぶん、あの子も私に対しては、単なる『憧れ』みたいなものだったのかなって思ってる。その子、ちょっとボーイッシュだったし、ね」
……ふう、一安心。
「そういう和也君は、恋愛経験、どうなの?」
「……いや、俺もないな」
「そうなの? 頭いい高校通ってるし、結構モテそうだけど……」
「いや、同じ高校の中じゃあ大して成績良いわけでもないし、そんなにスポーツが得意なわけでもないし……」
「じゃあ、女の子から告白されたりしたこと、ないの?」
「いや、まあ……あるにはあるけど……」
「え、やっぱり? 付き合ったの?」
「いや、その子に恋愛感情は持ってなかったから……普通に友達でいよう、で終わった」
「なーんだ」
彼女はつまらなそうに、一口ジュースを飲んだ。
「でも、ちょっと嬉しかったんじゃない?」
「そりゃまあ……告白されて、嬉しくないわけじゃないけど……」
「……そうよね、分かるよ、その気持ち。好きって言われるのは、やっぱり嬉しいね」
まあ、彼女の場合、同性にしか言われたこと無いんだろうけど……。
「じゃあ、瞳……俺も君の事、好きになっていいかな……」
俺はメモを取っている彼女を見つめながら、そうつぶやいた。
「……えっ……」
瞳は、驚いたように視線を上げて俺と目を合わせ、数秒、固まった。
「……ドキッとした?」
と、俺が笑顔で話すと
「……もう、からかったの? 最悪っ!」
ちょっと頬を染め、照れたように笑みを浮かべる。
「……でも、ちょっとドキッとしたよ。男の子にそんな風に言われたの、初めてだから……うん、確かに女の子に言われるのとは違うかも……」
そう言って、なにやらメモを取り始めた……うーん、研究熱心なのか、どうなのか。
「じゃあ、さ、和也君……」
「うん?」
と、今度は瞳が、俺の目を見つめる。
「……私も、和也君のこと、好きになっていい?」
トクンッ――。
俺の鼓動が、一気に跳ね上がった。
「……ドキッとした?」
と、また瞳の悪戯っぽい笑顔。
「した……」
「ふふっ、お返し、よ」
彼女はそう言って、頬をちょっと赤く染めたまま、またストローでジュースを飲み始めた。
その可愛らしい姿に、俺は完全にやられてしまった。
おばあさんの葬儀も終わり、一段落ついた頃。
俺と瞳は、「シエラの樹」というマンガ喫茶にてラノベ談義を行っていた。
この店は、いわゆる個室タイプのものじゃなくて、『普通よりマンガの本がたくさん置いてある喫茶店』という感じで、食べ物か飲み物を注文すると90分間、マンガ読み放題となる。それ以上滞在する場合は、延長料金が発生するシステムだ。
コーヒーも料理もおいしく、雰囲気も良く、インターネットも使えるし、資料として利用できるマンガも多いので俺達にはうってつけだ。
時刻は午後三時、俺はホットコーヒー、瞳はオレンジジュースを注文していた。
彼女はまだ、おばあさんを亡くしたショックから立ち直ったわけではなかったが……それでも、徐々に明るさを取り戻していた。
また、彼女が死んじゃったと勘違いし、必死になって駆けつけたことは、それはそれで嬉しかったと言ってくれた。
「……特にお姉ちゃん、うらやましがってくれたよ……『いい彼氏出来たね』って。全然そんなんじゃないのにね」
あっけらかんと笑う瞳。
……そんなんじゃないんだ……。
「……それで、『タク』と『ユウ』の関係なんだけど……やっぱり序盤は『単なるパートナー』で、後半になるにつれてお互いに離れられない関係になる、っていうのでいいかな?」
瞳が、目を輝かせながら構想を語る。
ちなみに、『タク』は主人公。男の子で、十六歳。
『花粉症用の点鼻薬と間違えて殺虫剤を鼻の中に噴射してしまった結果、異常状態絶対耐性能力者(アンチバッドステイタスプレイヤー)として異世界に転生した新米冒険者』……ものすごくイヤな設定だけど、俺が入院した本当の理由なんてごく一握りの人しか知らないから、まあいいかなって思っている。
『ユウ』はヒロイン。
『ジュースと間違って農薬を飲んで死んじゃった結果、猛毒を操る狩人として異世界に転生した女の子』という設定。
これは瞳が嫌がったが、『タク』の設定を生かすならこれしかないと押し切った。
歳は十七歳、一つだけ年上にした。
その理由は、瞳の提案により
『タクに対して上から目線の、ツンデレキャラ』
となったためだ。
彼女の方が一年早く転生しており、一流の冒険者と認識されているという自負も影響しているという。
やがて『タク』の成長と共に、立場が逆転していくらしいのだが……。
「……でも、この二人を恋愛感情にまで発展させるかどうか、難しいのよね……」
そこで瞳は悩んでいるのだという。
「そうだな……ラノベのお約束にするならば、タクを慕うサブヒロインを何人か登場させて、ユウにヤキモチを焼かせるっていうのが定番だけど……」
「ふーん……そっか、なるほど。さすが、男の子の意見は参考になるね」
この手の話には、瞳はやけに素直だ。いわゆる『ネタ帳』に、俺との会話の内容で参考になったところをメモしている。
「……私、恋愛経験あんまりないから、こういうの苦手で……」
と、謙遜? する瞳だったが……俺には、ある単語が引っかかった。
「『あんまり』っていうことは……多少はあるのか?」
「うん、少しだけど……私だって、中学校の時に先輩に憧れたことだってあるし、年下の、後輩に告白された事もあるし……」
「へえ、告白、か。で、付き合ったの?」
「付き合ったって言うか……うん、まあ、一緒に映画見に行ったり、ご飯食べに行ったり……あ、私の家に泊まりに来たこともあったわ」
なっ……っ!
「そ、それって、家族公認、ってこと?」
「うん、別に何にも言われなかったけど」
「……ひょっとして、一緒に寝た、とか?」
「うん、そう。お風呂にも一緒に入ったよ。まあ、中学生のときだけど」
衝撃の事実……なんか、めまいがしてきた……瞳、中学生で……もうそこまで経験してたのか。
「……で、今も付き合ってるの?」
「ううん、私が卒業して、それっきり。でも、卒業式で手紙あげたら喜んでたよ」
……今は、彼氏居ないのか……。
でも、正直、ショックだ……。
「でも、その子も後輩に告白されたって言ってて、迷ってたから……これで良かったのかも。可愛い子だったし……ま、歴史は繰り返すってことかな」
相変わらずあっけらかんとしている瞳。
彼女は告白された側だし、本気じゃなかったのかな。
「でも、一緒にお風呂まで入るなんて、よく家族が許可してくれたな……」
「別に平気なんじゃなかったのかな? 女の子同士だし……」
……へっ?
「……ちょっとまってくれ……告白されたのって、ひょっとして、女の子から?」
「そうよ。後輩って言ったでしょ?」
……そうだった、彼女、中学、高校と女子校だったんだ……。
「……ひょっとして、女子校って、そういうの多いのか?」
「うん、まあ……流行ってはいたね……えっ、和也君、もしかして、私が男の子と付き合ってたって思ってた?」
「ああ……だって普通に考えて、告白って、異性にするものだから……」
「……そっか、普通はそうね……ふふっ、また得意の勘違い、しちゃってたんだ……」
悪戯っぽい、彼女の微笑み。
ほっとしたような、悔しいような……。
「……じゃあ、男の子と付き合ったことはないんだ」
「うん、恋愛っていうのはないかな。たぶん、あの子も私に対しては、単なる『憧れ』みたいなものだったのかなって思ってる。その子、ちょっとボーイッシュだったし、ね」
……ふう、一安心。
「そういう和也君は、恋愛経験、どうなの?」
「……いや、俺もないな」
「そうなの? 頭いい高校通ってるし、結構モテそうだけど……」
「いや、同じ高校の中じゃあ大して成績良いわけでもないし、そんなにスポーツが得意なわけでもないし……」
「じゃあ、女の子から告白されたりしたこと、ないの?」
「いや、まあ……あるにはあるけど……」
「え、やっぱり? 付き合ったの?」
「いや、その子に恋愛感情は持ってなかったから……普通に友達でいよう、で終わった」
「なーんだ」
彼女はつまらなそうに、一口ジュースを飲んだ。
「でも、ちょっと嬉しかったんじゃない?」
「そりゃまあ……告白されて、嬉しくないわけじゃないけど……」
「……そうよね、分かるよ、その気持ち。好きって言われるのは、やっぱり嬉しいね」
まあ、彼女の場合、同性にしか言われたこと無いんだろうけど……。
「じゃあ、瞳……俺も君の事、好きになっていいかな……」
俺はメモを取っている彼女を見つめながら、そうつぶやいた。
「……えっ……」
瞳は、驚いたように視線を上げて俺と目を合わせ、数秒、固まった。
「……ドキッとした?」
と、俺が笑顔で話すと
「……もう、からかったの? 最悪っ!」
ちょっと頬を染め、照れたように笑みを浮かべる。
「……でも、ちょっとドキッとしたよ。男の子にそんな風に言われたの、初めてだから……うん、確かに女の子に言われるのとは違うかも……」
そう言って、なにやらメモを取り始めた……うーん、研究熱心なのか、どうなのか。
「じゃあ、さ、和也君……」
「うん?」
と、今度は瞳が、俺の目を見つめる。
「……私も、和也君のこと、好きになっていい?」
トクンッ――。
俺の鼓動が、一気に跳ね上がった。
「……ドキッとした?」
と、また瞳の悪戯っぽい笑顔。
「した……」
「ふふっ、お返し、よ」
彼女はそう言って、頬をちょっと赤く染めたまま、またストローでジュースを飲み始めた。
その可愛らしい姿に、俺は完全にやられてしまった。
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