毒の美少女の物語 ~緊急搬送された病院での奇跡の出会い~

エール

文字の大きさ
11 / 28

誤解されても構わない

しおりを挟む
「……このプロットって、瞳が書いたのか?」

 自分でも、興奮で声が上ずっていたのが分かった。

「もちろん……えっと、それで、どうなの?」

 少し不安げに俺の方を見つめている。

「凄い……これなら本当に、文学賞狙えるかも……」

「本当? お世辞じゃなく?」

 俺は大きく頷いた。

「あはっ、良かった……私が考えられる、最高のシナリオだったから……でも、それを上手く書き切る自信が無いの。和也君の力が必要」

 彼女の目は、真剣だった。

「俺で良いなら、喜んで力になるよ……っていうか、手伝わせて欲しい。これは凄いことになりそうだ!」

「……嬉しい。うん、一緒に頑張ろう。出会いは、お互いにおバカさんな失敗で入院したことがきっかけだったけど、それを題材にした小説を書き始めたことも含めて、運命だったのかもしれないね」

 瞳は、目をキラキラと輝かせている。
 これはおそらく、作家デビューを夢見て、憧れている女の子の目だ。
 俺みたいに、ちょっとしたデート気分だ、などという余計なことは考えていなくて、夢に向かってひたすら真っ直ぐなんだろうな……。

「……ねえ、和也君……」

「うん?」

「和也君の家で打ち合わせって、できないかな?」

「えっ!?」

 思わぬ一言に、俺の鼓動は跳ね上がった。

「お、俺の家で……って、瞳一人で?」

「ううん、もちろん和也君も一緒」

「いや、そういう意味じゃなくて……」

 忘れてた、瞳はちょっと天然だ。

「一人で、俺の家に遊びに来るって事?」

「遊びじゃないよ、真剣に小説頑張りたいから。この図書館じゃあネットとか見えないし、あまり大きな声じゃ話せないし。かといって、私の家だと、おじいちゃんとかお母さんとかいるから、男の子を連れて行ったら変に誤解されそうだし」

「俺の家だって、母親がいるときあるよ」

「あ、そっか。じゃあ無理だね……」

 残念そうにため息をつく瞳。

「えっと、その……やっぱり、誤解はされたくないんだな……」

「……どういう意味?」

 彼女は不思議そうな表情になった。

「えっと、その……俺はまあ、別に母親に誤解されても平気かなって思って……」

 やばい……そこまで言って、顔が急に熱くなるのが分かった。
 その様子を見た瞳は、最初ちょっと驚いて、そして彼女もみるみる赤くなっていった。

「……そうなんだ……うん、和也君のお母さん、やさしそうだもんね……ウチは結構、そういうの厳しいから……」

 なるほど、誤解されたら困るっていうのは、そういう理由か……。
 ちなみに瞳は、俺が入院・退院するときにほんの少しだけ俺の母親の顔を見ている。
 母親も、彼女の事を

「かわいい女の子だったね」

 とは言ってくれたが、単に同じ病室の女の子だったとしか伝えていない。

「うん、でも、やっぱりよく考えたら、男の子の家に女の子が一人で出入りするのは、誰かに見られたら変な噂立つかもしれないし、やっぱりこの図書館がいいのかな。ここだったら、見られても、誤解されても健全な関係って思われるでしょうし。それだったら私も大丈夫だから」

 うん、ようやく俺が気にしていた問題に辿り着いたようだ。

 ……えっ?
 ……健全な関係なら、誤解されても大丈夫?

 瞳は赤くなったまま、ノートに何かを書き込んでいた。
 その様子があまりに可愛かったので、ずっと見ていたのだが……。

「……やだ、あんまり見ないで、照れるから」

 と恥ずかしがり、視線を逸らして、

「なんか、熱いね……」

 と、パタパタと片手で自分の顔を扇ぎながら言った。

「ああ……」

 俺も顔の火照りが治まらないのを感じながら、そう返事をした。

 次の日、瞳から送られてきた第二話の下書きを、電話で確認しながら俺が推敲し、そのデータを彼女に送った。

 夕方には、彼女が次話として投稿した。
 アクセス数は前回よりかなり増えて、ブクマも二時間ほどで五件ついた。
 思ったより、いいペースで増えている。

 さらに二時間ほど過ぎ、夜中にもう一度アクセスすると、『小説化を目指そう』のダイレクトメッセージが届いていた。

 瞳からか、と思ったが、違った。
 彼女は『アイ』というユーザー名で登録していたのだが、メッセージを送ってきたのは『ヒカル』という名前のユーザーだった。

 ちなみに俺のユーザー名は、『コッティ』というもので、もちろん、俺も瞳も、本名などの個人情報は公開していない。

 そしてその『ヒカル』のメッセージに、背筋が寒くなるような衝撃を受けた。

「アイさんの友人っていうのは、コッティさんですよね? ボクは、以前からアイさんのファンでした。コッティさんが一緒に書いてくれているおかげで、凄く良くなっていると思います!」

 という褒め言葉から始っており、それだけなら、相互リンクしていたので気付かれても不思議ではなかったのだが……その文末に、

『HTMさんとKZYさんは、本当はどういう関係なのですか?』

 と書かれていたのだ――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...