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誤解されても構わない
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「……このプロットって、瞳が書いたのか?」
自分でも、興奮で声が上ずっていたのが分かった。
「もちろん……えっと、それで、どうなの?」
少し不安げに俺の方を見つめている。
「凄い……これなら本当に、文学賞狙えるかも……」
「本当? お世辞じゃなく?」
俺は大きく頷いた。
「あはっ、良かった……私が考えられる、最高のシナリオだったから……でも、それを上手く書き切る自信が無いの。和也君の力が必要」
彼女の目は、真剣だった。
「俺で良いなら、喜んで力になるよ……っていうか、手伝わせて欲しい。これは凄いことになりそうだ!」
「……嬉しい。うん、一緒に頑張ろう。出会いは、お互いにおバカさんな失敗で入院したことがきっかけだったけど、それを題材にした小説を書き始めたことも含めて、運命だったのかもしれないね」
瞳は、目をキラキラと輝かせている。
これはおそらく、作家デビューを夢見て、憧れている女の子の目だ。
俺みたいに、ちょっとしたデート気分だ、などという余計なことは考えていなくて、夢に向かってひたすら真っ直ぐなんだろうな……。
「……ねえ、和也君……」
「うん?」
「和也君の家で打ち合わせって、できないかな?」
「えっ!?」
思わぬ一言に、俺の鼓動は跳ね上がった。
「お、俺の家で……って、瞳一人で?」
「ううん、もちろん和也君も一緒」
「いや、そういう意味じゃなくて……」
忘れてた、瞳はちょっと天然だ。
「一人で、俺の家に遊びに来るって事?」
「遊びじゃないよ、真剣に小説頑張りたいから。この図書館じゃあネットとか見えないし、あまり大きな声じゃ話せないし。かといって、私の家だと、おじいちゃんとかお母さんとかいるから、男の子を連れて行ったら変に誤解されそうだし」
「俺の家だって、母親がいるときあるよ」
「あ、そっか。じゃあ無理だね……」
残念そうにため息をつく瞳。
「えっと、その……やっぱり、誤解はされたくないんだな……」
「……どういう意味?」
彼女は不思議そうな表情になった。
「えっと、その……俺はまあ、別に母親に誤解されても平気かなって思って……」
やばい……そこまで言って、顔が急に熱くなるのが分かった。
その様子を見た瞳は、最初ちょっと驚いて、そして彼女もみるみる赤くなっていった。
「……そうなんだ……うん、和也君のお母さん、やさしそうだもんね……ウチは結構、そういうの厳しいから……」
なるほど、誤解されたら困るっていうのは、そういう理由か……。
ちなみに瞳は、俺が入院・退院するときにほんの少しだけ俺の母親の顔を見ている。
母親も、彼女の事を
「かわいい女の子だったね」
とは言ってくれたが、単に同じ病室の女の子だったとしか伝えていない。
「うん、でも、やっぱりよく考えたら、男の子の家に女の子が一人で出入りするのは、誰かに見られたら変な噂立つかもしれないし、やっぱりこの図書館がいいのかな。ここだったら、見られても、誤解されても健全な関係って思われるでしょうし。それだったら私も大丈夫だから」
うん、ようやく俺が気にしていた問題に辿り着いたようだ。
……えっ?
……健全な関係なら、誤解されても大丈夫?
瞳は赤くなったまま、ノートに何かを書き込んでいた。
その様子があまりに可愛かったので、ずっと見ていたのだが……。
「……やだ、あんまり見ないで、照れるから」
と恥ずかしがり、視線を逸らして、
「なんか、熱いね……」
と、パタパタと片手で自分の顔を扇ぎながら言った。
「ああ……」
俺も顔の火照りが治まらないのを感じながら、そう返事をした。
次の日、瞳から送られてきた第二話の下書きを、電話で確認しながら俺が推敲し、そのデータを彼女に送った。
夕方には、彼女が次話として投稿した。
アクセス数は前回よりかなり増えて、ブクマも二時間ほどで五件ついた。
思ったより、いいペースで増えている。
さらに二時間ほど過ぎ、夜中にもう一度アクセスすると、『小説化を目指そう』のダイレクトメッセージが届いていた。
瞳からか、と思ったが、違った。
彼女は『アイ』というユーザー名で登録していたのだが、メッセージを送ってきたのは『ヒカル』という名前のユーザーだった。
ちなみに俺のユーザー名は、『コッティ』というもので、もちろん、俺も瞳も、本名などの個人情報は公開していない。
そしてその『ヒカル』のメッセージに、背筋が寒くなるような衝撃を受けた。
「アイさんの友人っていうのは、コッティさんですよね? ボクは、以前からアイさんのファンでした。コッティさんが一緒に書いてくれているおかげで、凄く良くなっていると思います!」
という褒め言葉から始っており、それだけなら、相互リンクしていたので気付かれても不思議ではなかったのだが……その文末に、
『HTMさんとKZYさんは、本当はどういう関係なのですか?』
と書かれていたのだ――。
自分でも、興奮で声が上ずっていたのが分かった。
「もちろん……えっと、それで、どうなの?」
少し不安げに俺の方を見つめている。
「凄い……これなら本当に、文学賞狙えるかも……」
「本当? お世辞じゃなく?」
俺は大きく頷いた。
「あはっ、良かった……私が考えられる、最高のシナリオだったから……でも、それを上手く書き切る自信が無いの。和也君の力が必要」
彼女の目は、真剣だった。
「俺で良いなら、喜んで力になるよ……っていうか、手伝わせて欲しい。これは凄いことになりそうだ!」
「……嬉しい。うん、一緒に頑張ろう。出会いは、お互いにおバカさんな失敗で入院したことがきっかけだったけど、それを題材にした小説を書き始めたことも含めて、運命だったのかもしれないね」
瞳は、目をキラキラと輝かせている。
これはおそらく、作家デビューを夢見て、憧れている女の子の目だ。
俺みたいに、ちょっとしたデート気分だ、などという余計なことは考えていなくて、夢に向かってひたすら真っ直ぐなんだろうな……。
「……ねえ、和也君……」
「うん?」
「和也君の家で打ち合わせって、できないかな?」
「えっ!?」
思わぬ一言に、俺の鼓動は跳ね上がった。
「お、俺の家で……って、瞳一人で?」
「ううん、もちろん和也君も一緒」
「いや、そういう意味じゃなくて……」
忘れてた、瞳はちょっと天然だ。
「一人で、俺の家に遊びに来るって事?」
「遊びじゃないよ、真剣に小説頑張りたいから。この図書館じゃあネットとか見えないし、あまり大きな声じゃ話せないし。かといって、私の家だと、おじいちゃんとかお母さんとかいるから、男の子を連れて行ったら変に誤解されそうだし」
「俺の家だって、母親がいるときあるよ」
「あ、そっか。じゃあ無理だね……」
残念そうにため息をつく瞳。
「えっと、その……やっぱり、誤解はされたくないんだな……」
「……どういう意味?」
彼女は不思議そうな表情になった。
「えっと、その……俺はまあ、別に母親に誤解されても平気かなって思って……」
やばい……そこまで言って、顔が急に熱くなるのが分かった。
その様子を見た瞳は、最初ちょっと驚いて、そして彼女もみるみる赤くなっていった。
「……そうなんだ……うん、和也君のお母さん、やさしそうだもんね……ウチは結構、そういうの厳しいから……」
なるほど、誤解されたら困るっていうのは、そういう理由か……。
ちなみに瞳は、俺が入院・退院するときにほんの少しだけ俺の母親の顔を見ている。
母親も、彼女の事を
「かわいい女の子だったね」
とは言ってくれたが、単に同じ病室の女の子だったとしか伝えていない。
「うん、でも、やっぱりよく考えたら、男の子の家に女の子が一人で出入りするのは、誰かに見られたら変な噂立つかもしれないし、やっぱりこの図書館がいいのかな。ここだったら、見られても、誤解されても健全な関係って思われるでしょうし。それだったら私も大丈夫だから」
うん、ようやく俺が気にしていた問題に辿り着いたようだ。
……えっ?
……健全な関係なら、誤解されても大丈夫?
瞳は赤くなったまま、ノートに何かを書き込んでいた。
その様子があまりに可愛かったので、ずっと見ていたのだが……。
「……やだ、あんまり見ないで、照れるから」
と恥ずかしがり、視線を逸らして、
「なんか、熱いね……」
と、パタパタと片手で自分の顔を扇ぎながら言った。
「ああ……」
俺も顔の火照りが治まらないのを感じながら、そう返事をした。
次の日、瞳から送られてきた第二話の下書きを、電話で確認しながら俺が推敲し、そのデータを彼女に送った。
夕方には、彼女が次話として投稿した。
アクセス数は前回よりかなり増えて、ブクマも二時間ほどで五件ついた。
思ったより、いいペースで増えている。
さらに二時間ほど過ぎ、夜中にもう一度アクセスすると、『小説化を目指そう』のダイレクトメッセージが届いていた。
瞳からか、と思ったが、違った。
彼女は『アイ』というユーザー名で登録していたのだが、メッセージを送ってきたのは『ヒカル』という名前のユーザーだった。
ちなみに俺のユーザー名は、『コッティ』というもので、もちろん、俺も瞳も、本名などの個人情報は公開していない。
そしてその『ヒカル』のメッセージに、背筋が寒くなるような衝撃を受けた。
「アイさんの友人っていうのは、コッティさんですよね? ボクは、以前からアイさんのファンでした。コッティさんが一緒に書いてくれているおかげで、凄く良くなっていると思います!」
という褒め言葉から始っており、それだけなら、相互リンクしていたので気付かれても不思議ではなかったのだが……その文末に、
『HTMさんとKZYさんは、本当はどういう関係なのですか?』
と書かれていたのだ――。
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