12 / 28
付き合ってる?
しおりを挟む
翌日も、俺と瞳は朝から図書館で待ち合わせをしていた。
春休み期間中とはいえ、毎日二人揃ってやってくるので、三十歳ぐらいの女性の職員さんともすっかり顔なじみになってしまった。
たぶん、本当に仲の良いカップルと思われているだろう。
しかしこの日は、ちょっといつもと様子が違うと感じたかもしれない。
俺は前日のダイレクトメッセージの件が引っかかっていたし、瞳もなんだか元気がなさげだった。
いつもの対面の席について、俺が
「表情が暗いけど、なにかあったのか?」
と尋ねると、
「……うん、ちょっと……和也君こそ、何か悩んでない?」
と、逆に心配されてしまった。
「ああ……いや、悩んでいるっていう程じゃないけど、昨日、気になるダイレクトメッセージを受け取ったんだ。瞳、『ヒカル』っていうユーザー、知ってるか?」
「ヒカル? うん、知ってる。私が小説を投稿し始めた当初から、感想とか書いてくれる人だよ。それも感想欄にじゃなくて、いっつもメッセージで送ってくれて、私も返信して、もう親友みたいになってるんだけど……和也君にもメッセージが送信されたの?」
「ああ……」
俺はそう言って、印刷したその内容を見せた。
「……へえ、ヒカル、相互リンクだけで和也君が共同執筆者だって気付いたんだ。さすが。……うん、和也君の凄さも分かってくれてる見たいね……最後の、HTMとKZYって、何? 何かの暗号?」
瞳はこの意味にすぐには気付かなかったようだ。
「分からないか? 『瞳』と、『和也』っていう意味に取れないか?」
「……なるほど、そう読めなくもないね……え、ちょっと待って。どうしてヒカルが、私と和也君の名前、知ってるの?」
「……やっぱり、君が教えた訳じゃなかったか。本名、公開してないよな?」
「うん、私が前に公開してたのは、住んでいる地域と歳と、あと、性別だけ。変なメールが来たことがあったから、それもやめたけど」
うん、公開しすぎだ。同じ地域の女子高生で、ラノベが趣味とくれば、それをネタにして「会いたい」と切り出して、言葉巧みに二人きりで出会おうとする輩が現れるかもしれない。
……まあ、今実際にラノベという題材で毎日会っている俺が言えたものではないが。
「……ということは、ひょっとしてこのヒカルっていう人は、元々瞳の知り合いなんじゃないか? 君は、自分がラノベを書いているって言うこと、誰かに言ったりしたか?」
「うん。少なくとも、同級生はみんな知っていると思うよ。和也君はクラスメイトに話してないの?」
……ちょっと頭痛くなってきた。
確かに瞳の小説は普通のファンタジーものだから、趣味で書いているって言って、見られたとしても、そんなに恥ずかしいものじゃない。しかし……。
「……俺の場合、ちょっと広めたくない内容だったから」
「……そういえば、そんなこと言ってたね。女の子いっぱい出てくる、ハーレムっぽい内容だし……でも、私はラブコメ系でいいお話だと思ったけど……」
瞳が相互リンクしたことで、『ヒカル』のようにカンのいい人なら、共同執筆者は『コッティ』だと気付かれてしまうだろう。
そして、そのコッティの正体は、下手をすれば毎日図書館で打ち合わせしている俺だと言うこともばれてしまう……今のところ、俺たちが毎日会っていることは誰にも気付かれていないはずだが。
「……うーん、だとしたら誰かな? 私は、ヒカルって、敬語使ってくるし、年下の男の子だと思ってたけど……」
「あ、そうか、女子高だから同級生はみんな女か……いや、その弟ってこともあり得るんじゃないか?」
「そうね……でも、だったらどうして、和也くんにだけ、HTMとかKZYとか、暗号みたいな名前送ったのかしら?」
そう言われると、変な気がする。
正体が分かっているならば、普通に瞳とか、和也とか、名前を書いてきても良かったような気がするが……。
「……あ、わかった! 名前の読み方は分かっているけど、漢字が分からなかったんだ!」
「……なるほど……でも、それだったら普通はカタカナにするんじゃないか?」
「そうかしら? ローマ字っぽい方が、可愛くない?」
……うん、いかにもちょっと天然の瞳っぽい発想だ。
「どうかな……女の子だったらともかく……いや、待てよ。女の子って可能性もあるんじゃないか? ヒカルっていう名前は、男でも女でも使える」
「……そうね。うーん……正体は分からないけど、別に変な事書かれてるわけじゃないから、気にしなくてもいいんじゃない? ……それよりも、私は、和也君が、どういう関係って返したのかが気になるんだけど……」
瞳は、ちょっと困り顔になっている。
「まだ返事していない。一応、君にも見せておこうと思って」
「そっか……ありがと、気を使ってくれたのね……それで、和也君はどう返事をしようと思っていたの?」
真剣な表情で、俺の顔をのぞき込む瞳。
至近距離に存在する綺麗な小顔に、心臓が早鐘を打つのが分かる。
「その……えっと……友達だって送ろうとは思ってるけど……単なる、じゃなくて、その……付き合っているっていうか……」
……言ってしまった。
自分自身、ものすごく顔が熱くなっているのが分かる。
すると、彼女も一瞬、大きく目を見開いて、赤くなった。
しかし、すぐまた困ったような顔になって、下を向いた。
「……嬉しいけど、それはちょっと、まずい、かな……」
……えっ!?
サッと血の気が引くのが分かった――。
春休み期間中とはいえ、毎日二人揃ってやってくるので、三十歳ぐらいの女性の職員さんともすっかり顔なじみになってしまった。
たぶん、本当に仲の良いカップルと思われているだろう。
しかしこの日は、ちょっといつもと様子が違うと感じたかもしれない。
俺は前日のダイレクトメッセージの件が引っかかっていたし、瞳もなんだか元気がなさげだった。
いつもの対面の席について、俺が
「表情が暗いけど、なにかあったのか?」
と尋ねると、
「……うん、ちょっと……和也君こそ、何か悩んでない?」
と、逆に心配されてしまった。
「ああ……いや、悩んでいるっていう程じゃないけど、昨日、気になるダイレクトメッセージを受け取ったんだ。瞳、『ヒカル』っていうユーザー、知ってるか?」
「ヒカル? うん、知ってる。私が小説を投稿し始めた当初から、感想とか書いてくれる人だよ。それも感想欄にじゃなくて、いっつもメッセージで送ってくれて、私も返信して、もう親友みたいになってるんだけど……和也君にもメッセージが送信されたの?」
「ああ……」
俺はそう言って、印刷したその内容を見せた。
「……へえ、ヒカル、相互リンクだけで和也君が共同執筆者だって気付いたんだ。さすが。……うん、和也君の凄さも分かってくれてる見たいね……最後の、HTMとKZYって、何? 何かの暗号?」
瞳はこの意味にすぐには気付かなかったようだ。
「分からないか? 『瞳』と、『和也』っていう意味に取れないか?」
「……なるほど、そう読めなくもないね……え、ちょっと待って。どうしてヒカルが、私と和也君の名前、知ってるの?」
「……やっぱり、君が教えた訳じゃなかったか。本名、公開してないよな?」
「うん、私が前に公開してたのは、住んでいる地域と歳と、あと、性別だけ。変なメールが来たことがあったから、それもやめたけど」
うん、公開しすぎだ。同じ地域の女子高生で、ラノベが趣味とくれば、それをネタにして「会いたい」と切り出して、言葉巧みに二人きりで出会おうとする輩が現れるかもしれない。
……まあ、今実際にラノベという題材で毎日会っている俺が言えたものではないが。
「……ということは、ひょっとしてこのヒカルっていう人は、元々瞳の知り合いなんじゃないか? 君は、自分がラノベを書いているって言うこと、誰かに言ったりしたか?」
「うん。少なくとも、同級生はみんな知っていると思うよ。和也君はクラスメイトに話してないの?」
……ちょっと頭痛くなってきた。
確かに瞳の小説は普通のファンタジーものだから、趣味で書いているって言って、見られたとしても、そんなに恥ずかしいものじゃない。しかし……。
「……俺の場合、ちょっと広めたくない内容だったから」
「……そういえば、そんなこと言ってたね。女の子いっぱい出てくる、ハーレムっぽい内容だし……でも、私はラブコメ系でいいお話だと思ったけど……」
瞳が相互リンクしたことで、『ヒカル』のようにカンのいい人なら、共同執筆者は『コッティ』だと気付かれてしまうだろう。
そして、そのコッティの正体は、下手をすれば毎日図書館で打ち合わせしている俺だと言うこともばれてしまう……今のところ、俺たちが毎日会っていることは誰にも気付かれていないはずだが。
「……うーん、だとしたら誰かな? 私は、ヒカルって、敬語使ってくるし、年下の男の子だと思ってたけど……」
「あ、そうか、女子高だから同級生はみんな女か……いや、その弟ってこともあり得るんじゃないか?」
「そうね……でも、だったらどうして、和也くんにだけ、HTMとかKZYとか、暗号みたいな名前送ったのかしら?」
そう言われると、変な気がする。
正体が分かっているならば、普通に瞳とか、和也とか、名前を書いてきても良かったような気がするが……。
「……あ、わかった! 名前の読み方は分かっているけど、漢字が分からなかったんだ!」
「……なるほど……でも、それだったら普通はカタカナにするんじゃないか?」
「そうかしら? ローマ字っぽい方が、可愛くない?」
……うん、いかにもちょっと天然の瞳っぽい発想だ。
「どうかな……女の子だったらともかく……いや、待てよ。女の子って可能性もあるんじゃないか? ヒカルっていう名前は、男でも女でも使える」
「……そうね。うーん……正体は分からないけど、別に変な事書かれてるわけじゃないから、気にしなくてもいいんじゃない? ……それよりも、私は、和也君が、どういう関係って返したのかが気になるんだけど……」
瞳は、ちょっと困り顔になっている。
「まだ返事していない。一応、君にも見せておこうと思って」
「そっか……ありがと、気を使ってくれたのね……それで、和也君はどう返事をしようと思っていたの?」
真剣な表情で、俺の顔をのぞき込む瞳。
至近距離に存在する綺麗な小顔に、心臓が早鐘を打つのが分かる。
「その……えっと……友達だって送ろうとは思ってるけど……単なる、じゃなくて、その……付き合っているっていうか……」
……言ってしまった。
自分自身、ものすごく顔が熱くなっているのが分かる。
すると、彼女も一瞬、大きく目を見開いて、赤くなった。
しかし、すぐまた困ったような顔になって、下を向いた。
「……嬉しいけど、それはちょっと、まずい、かな……」
……えっ!?
サッと血の気が引くのが分かった――。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる