毒の美少女の物語 ~緊急搬送された病院での奇跡の出会い~

エール

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ストーカー?

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 このメッセージは、一種の脅迫じゃあないだろうか。
 いや、俺と瞳が仲よさそうなのを嫉んで、嫌がらせをしているだけか。

 仮にそうだとしても、この『ヒカル』っていうヤツは、どうして俺と瞳が、図書館で毎日会っていることを知っているのか。

 一応、館内は都度見渡していた。
 知り合いはもちろん、同い年ぐらいの若者の姿はほとんどなかったと思うのだが……。

 まさか、本格的にストーカーなのか? だとしたら、瞳の身が危ない!
 ……とりあえず、ここは刺激しない方がいいのか?
 そんな風に迷っていると、

「返事、もらえないんですね……分かりました。それなら、こちらにも考えがあります」

 という、かなり緊迫したメッセージが届いたではないか!
 俺は慌てて、

「俺と瞳は、本当に友達です! 手を出すとか、あり得ません! 確かに何時間も一緒にいることはありますが、それは一緒に書いている小説について打ち合わせをしているからです。落ち着いてください、何をするか分からないとか、考えがあるって、何をするつもりなんですか?」

 最後の方、意味がわからない文章になってしまったが、俺は慌てて送信してしまった。
 すると、またすぐに返事が返ってきた。

「……本当に友達なんですか? ウソをついているようであれば……HTMさんのご両親に告げ口します!」

 ……へっ? ……告げ口?
 ……それって、全然大したことないのでは?

 なんか、全身の力が抜けるような気がしてきた。
 それと同時に、この相手、ストーカーみたいに危険な訳じゃなくて、まだ子供というか、少なくとも年下のような気がしてきた。

「ウソはついていません。ヒカルさんも、彼女に危害を加えたりするわけではないんですね?」

 念押しの為にメールしてみる。

「そんなことはしません。でも、HTMさんの家はとても厳しいから、KZYさんと会えなくなるかもしれませんよ?」

 うん、まあ、それは知っている……瞳から直接聞いたから。
 とりあえず、警察に通報するほどの事でもなさそうだ。

 でも、よく考えたら、もし自分の好きな女の子……特に初恋の相手に彼氏ができて、そういう関係になるかもしれないと考えたら、いても立ってもいられなくなるのは普通かもしれない。
 俺だって、瞳に別の彼氏ができて、その彼の家に一人で遊びに行こうとしていたなら、何とか阻止しようと考えたかもしれない。

 そう思うと、この男の子? の気持ちも分からないではない。

「心配しなくてもいい。それに、告げ口されたって、非難されるような事はない。俺は、瞳に手を出したりしない。少なくとも高校卒業までは恋愛は禁止で、ひたすら小説を頑張ろうと二人で決めたから」

 相手を年下だと直感した俺は、敬語ではなく、相手を諭すような文体でメッセージを送った。

「本当ですか? 年頃の男女なのに、それで平気なんですか?」

 向こうもちょっと落ち着いて来たみたいだ。

「瞳の家が厳しいのは、俺も聞いている。だから、誤解されないように図書館でしか会わないようにした。俺たちは、夢を共有しているんだ。だから、付き合ったりせず、今はただ、その目標に向かって一生懸命頑張っているんだ」

「KZYさんは、HTMさんのこと、好きではないんですか?」

 ……う、こいつ……切り込んで来た!
 好きではない、と言えばウソになる。
 でも、好きだと言えば、また逆上されるかもしれない……。

 ちょっと悩んだが、ここは、自分の気持ちを正直に書くことにした。

「彼女の事は、好きだ。たぶん、君に負けないぐらい……いや、君よりずっと好きだ。彼女の事を考えると、夜も眠れなくなるぐらいに。でも、だからこそ彼女を大事にしようと決めたんだ。傷つけたくないし、悲しませたくない。そう思っているから、今の君みたいに、彼女に迷惑がかかるような事は絶対にしない」

 なんか、書いているウチに、自分勝手な『ヒカル』に腹が立って、ちょっと挑発的なことを書いて送ってしまった。
 そのことを後悔したが……すぐに次のメールが返ってきた。

「本当に、恋人同士として付き合ったり、手を出したりしないんですね?」

 ……ふう、変に逆上されたりはしていないようだ。
 でも、永久に友達のまま、っていうわけでもないかもしれないんだよな……言わなくていいことかもしれないけど、なんか、正直に知らせたくなってしまった。

「少なくとも高校卒業するまでは。でも卒業の時点でもまだお互いに恋愛感情があったならば、その時は恋人同士として付き合うかもしれないけど、それまでは夢に向かって共同で頑張って行くことにしているんだ。一時の感情で付き合って、それで夢まで失ってしまうことは、絶対にしたくないんだ」

 そのメッセージを送ってから、三十分ほど、返信がなかった。
 もう彼からメッセージが来ることはないのか、と思っていると、

「HTMさんとメールした内容とか、KZYさんとさっきやりとりした内容で、信用することにしました。どのみち、ボクじゃあ、どんなに好きでも恋人同士にはなれません。ボクも、本当の事しか書いていないです。変なメッセージ送ってしまって、すみませんでした。二人の作品、これからも楽しみにしていますね」

 と、謝罪メッセージが届いた。
 俺はほっと胸をなで下ろし、

「分かってくれてありがとう。頑張っていくよ」

 と返した。

 まだちょっと引っかかるものはあった。
 本当に、納得してもらえたのか。
『ヒカル』が瞳に危害を加えることはないのか。
「どんなに好きでも恋人同士になれない」とは、どういう意味なのか。
 そもそも、『ヒカル』の正体は誰なのか……。

 なんか、悶々とした気分で、ぐっすり眠ることができなかった。
 翌日、眠い目をこすりながら、いつも通り図書館に行ってみる。

 もちろん、キョロキョロと周囲を見渡し、警戒を怠らない。
 特に怪しい人物は見当たらなかった。

 いつもの席に、先に来ていた瞳が座っていた。
 彼女も、キョロキョロと周囲を確認しており、俺が来たことに安堵した様子だった。

 今までより十五分も早く来たのに、瞳はもう着いていた……うーん、これではストーカー対策としては不十分だ。いっそ家まで迎えに行けば良かったか?

 いや、そうなると、やっぱり付き合っていると思われるのがまずい。

「……どうしたの? 座らないの?」

 瞳にそう言われて、はっとして慌てて座った。
 昨晩の『ヒカル』のとのこと、どう話そうかと思っていると、彼女の方から先に口を開いた。

「昨日、ヒカルからメッセージが届いたの。いつも通り感想と、あと、和也君のこと、褒めてたよ。誠実そうな人だねって」

 ……おおっ! ヒカル、ストーカーっぽいけど、いい奴なんだな……。

「ヒカル、『ボクじゃあ彼氏になれないけど、二人の事、応援します』って書いてくれてた。その、彼氏になれないって、どういう意味だと思う?」

「それを俺に聞かれても、俺はヒカルじゃないからよく分からない」

 と告げると、彼女は少し考え込んで、そして口を開いた。

「……彼氏になれないっていうことは、ひょっとしたら、女の子かな……」

「……あっ、そういえば、中学校の時、後輩の女子生徒と付き合ってたって言ってたよな?」

「えっ……うん、まあ、付き合ったって言ったって、女の子同士だから本当の意味では恋人同士ってわけではなくて……あっ!」

 瞳は、何かに気付いて、両手を口元に持って行っていた。

「……ひょっとして、その子じゃないのか? だったら、『彼氏になれない』っていう意味、分かるんだ」

「……でも、中学校卒業以来、連絡とってなかったから……カオル、なのかな……」

「カオル? それがその子の名前か……それも、男か女か分からない名前だな……」

「あはっ、確かにそうね。あと、それと……その、ありがと」

 なぜか、瞳は赤くなって、ちょっと下を向きながら恥ずかしそうにお礼を言ってくれた。

「……ありがとうって、何が?」

「あの、えっと……黙ってるとずるいかもしれないから……ちゃんと言っておくね」

「あ、ああ……」

 ちょっとドキドキしている自分がいた。

「ヒカルが和也君とのメッセージのやりとりを、全部私に転送してくれたの」

「へえ……えっ、それじゃあ!?」

 俺はものすごく焦った。
 メッセージの中で何回も、瞳の事を『好きだ』と言ってしまっていたのだ。 

「……嬉しかったよ」
 頬を桜色に染め、少し照れながら笑顔でそう言ってくれる瞳は、今までで一番可愛く思えた――。
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