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書籍化
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出版。
書籍化。
これらの言葉に、どれだけ憧れたことだろうか。
俺が初めて小説を書き始めたのは、小学校六年生の時からだった。
『小説家を目指そう』に投稿を始めたのは、中学二年生から。
初投稿から三年、幸運にも、『身売り少女 俺がまとめて守ります!』という、総合一万ポイントを越える作品を書くこともできたが、それでもある一定以上は伸び悩み、諦めかけていた。
何度、夢の中で、書籍化の知らせを受け取り、その夢が覚めてガッカリしたことか。
文字通り、夢にまで見たその三文字が、実際に手の届くところまで来ている……。
「……それって、本当の話なのか?」
「うん、もちろん。ただ、運営の人からは、『詐欺の可能性もないとは言えないので、注意してください』とは書かれているけど」
「詐欺、か……それは怖いな……ちなみに、どこの出版社?」
「美海辺出版、って書いているけど……」
「……それって、結構有名じゃないか! そんなところから本当に来たのか……」
「どうなのかな、私、初めてだからよく分からないの……あ、和也君に転送するね」
ここで一旦電話を置いて、彼女からのメールを待つ。
ほんの二、三分だったと思うが、やけに長い時間に感じた。
そして赤い文字でダイレクトメッセージが届き、はやる思いでそれを開いた。
すぐに、彼女から電話がかかってくる。
「……どう、届いた?」
「ああ、今見ている……本当だ、美海辺出版って書いている……担当者の名前とかもあるし、何より運営を通している時点で、誰かのイタズラとかじゃなさそうだ……」
「……やっぱり、本当なんだ……ねえ、どうすればいいの?」
声色から、瞳は相当混乱していることが分かる。
「どうって、書いてあるとおりにするしかないな……『了承頂ける場合は期日までに連絡を』、か……。『未成年の場合、保護者の承諾が必要になります』……まあこれも当然だな……」
常識的な範囲内で、しかし、分かりやすく注意事項が書かれている。
ただ、共同執筆している場合についての注意書きはない。これに関しては、個別に問い合わせをするしかないだろう。
「……ねえ、どうすればいい?」
瞳から、また同じ質問が投げかけられた。
「……とりあえず、この『保護者の承諾』っていうところが問題だろうな……これが得られなければ、先に進められない」
「……うん、やっぱりそうだね……」
「君の両親は、趣味で小説を書いていることは知っているのか?」
「うん、それは言ってるけど、家族ではお姉ちゃんぐらいにしか見せたことはないよ」
「なるほど……学生のちょっとした趣味ぐらいにしか思っていないんだろうな……それがいきなり、『出版』なんて話ししたら、どうなるかな……」
「多分、ビックリすると思う……別に変な小説じゃないし、反対はされないと思うけど……とりあえず、相談してみる!」
「ああ、また結果、教えてくれ」
「うん!」
最初の困惑からは抜け出したようで、かなり元気にはなっていた。
ただ、気になる点としては、瞳の両親がかなり厳しい、ということだったが……。
……一時間が経過し、九時を過ぎたが、連絡はない。
さらに一時間経過、十時を回ったが、いまだ連絡はない。
長い……揉めているのか……。
と、ここでようやく瞳から電話がかかってきた。
「……も、もしもし、どうだった?」
「うん、あの……まあ、お母さんもお姉ちゃんも、凄くビックリして、喜んでくれたんだけど……」
「……だけど?」
「お父さんが……お父さんも、凄いじゃないかって褒めてくれたし、勉強に支障が出ないのであれば、趣味の延長としていいだろうって言ってくれたんだけど……」
「……だけど?」
彼女の、何か引っかかる点があるような言い方に、続けて同じ返答をしてしまう。
「その……共同執筆者がいて、それが同い年の男の子だって言うと、急に表情が変わって……」
……なんか、嫌な予感……。
「それで……正直に、春休み中と、その後の土、日に図書館で会ってたって話して……あ、でも、お姉ちゃんが、『おばあちゃんの通夜に来てくれた男の子だよ』ってフォローしてくれて、ああ、あの子か、って言う話にはなったんだけど、こそっと、結構頻繁に会ってたっていうのが引っかかっているみたいで……もちろん、交際している訳じゃないって言ったんだけど……」
彼女の両親とは、あの通夜の時に会っていた。
厳格そうなお父さんで、ちょっと怖そうに見えたのをはっきりと覚えている。
「……だ、だけど?」
「その……じっくり話をしたいから、一度、連れてきなさいって……」
――サッと、血の気が引くような思いだった――。
書籍化。
これらの言葉に、どれだけ憧れたことだろうか。
俺が初めて小説を書き始めたのは、小学校六年生の時からだった。
『小説家を目指そう』に投稿を始めたのは、中学二年生から。
初投稿から三年、幸運にも、『身売り少女 俺がまとめて守ります!』という、総合一万ポイントを越える作品を書くこともできたが、それでもある一定以上は伸び悩み、諦めかけていた。
何度、夢の中で、書籍化の知らせを受け取り、その夢が覚めてガッカリしたことか。
文字通り、夢にまで見たその三文字が、実際に手の届くところまで来ている……。
「……それって、本当の話なのか?」
「うん、もちろん。ただ、運営の人からは、『詐欺の可能性もないとは言えないので、注意してください』とは書かれているけど」
「詐欺、か……それは怖いな……ちなみに、どこの出版社?」
「美海辺出版、って書いているけど……」
「……それって、結構有名じゃないか! そんなところから本当に来たのか……」
「どうなのかな、私、初めてだからよく分からないの……あ、和也君に転送するね」
ここで一旦電話を置いて、彼女からのメールを待つ。
ほんの二、三分だったと思うが、やけに長い時間に感じた。
そして赤い文字でダイレクトメッセージが届き、はやる思いでそれを開いた。
すぐに、彼女から電話がかかってくる。
「……どう、届いた?」
「ああ、今見ている……本当だ、美海辺出版って書いている……担当者の名前とかもあるし、何より運営を通している時点で、誰かのイタズラとかじゃなさそうだ……」
「……やっぱり、本当なんだ……ねえ、どうすればいいの?」
声色から、瞳は相当混乱していることが分かる。
「どうって、書いてあるとおりにするしかないな……『了承頂ける場合は期日までに連絡を』、か……。『未成年の場合、保護者の承諾が必要になります』……まあこれも当然だな……」
常識的な範囲内で、しかし、分かりやすく注意事項が書かれている。
ただ、共同執筆している場合についての注意書きはない。これに関しては、個別に問い合わせをするしかないだろう。
「……ねえ、どうすればいい?」
瞳から、また同じ質問が投げかけられた。
「……とりあえず、この『保護者の承諾』っていうところが問題だろうな……これが得られなければ、先に進められない」
「……うん、やっぱりそうだね……」
「君の両親は、趣味で小説を書いていることは知っているのか?」
「うん、それは言ってるけど、家族ではお姉ちゃんぐらいにしか見せたことはないよ」
「なるほど……学生のちょっとした趣味ぐらいにしか思っていないんだろうな……それがいきなり、『出版』なんて話ししたら、どうなるかな……」
「多分、ビックリすると思う……別に変な小説じゃないし、反対はされないと思うけど……とりあえず、相談してみる!」
「ああ、また結果、教えてくれ」
「うん!」
最初の困惑からは抜け出したようで、かなり元気にはなっていた。
ただ、気になる点としては、瞳の両親がかなり厳しい、ということだったが……。
……一時間が経過し、九時を過ぎたが、連絡はない。
さらに一時間経過、十時を回ったが、いまだ連絡はない。
長い……揉めているのか……。
と、ここでようやく瞳から電話がかかってきた。
「……も、もしもし、どうだった?」
「うん、あの……まあ、お母さんもお姉ちゃんも、凄くビックリして、喜んでくれたんだけど……」
「……だけど?」
「お父さんが……お父さんも、凄いじゃないかって褒めてくれたし、勉強に支障が出ないのであれば、趣味の延長としていいだろうって言ってくれたんだけど……」
「……だけど?」
彼女の、何か引っかかる点があるような言い方に、続けて同じ返答をしてしまう。
「その……共同執筆者がいて、それが同い年の男の子だって言うと、急に表情が変わって……」
……なんか、嫌な予感……。
「それで……正直に、春休み中と、その後の土、日に図書館で会ってたって話して……あ、でも、お姉ちゃんが、『おばあちゃんの通夜に来てくれた男の子だよ』ってフォローしてくれて、ああ、あの子か、って言う話にはなったんだけど、こそっと、結構頻繁に会ってたっていうのが引っかかっているみたいで……もちろん、交際している訳じゃないって言ったんだけど……」
彼女の両親とは、あの通夜の時に会っていた。
厳格そうなお父さんで、ちょっと怖そうに見えたのをはっきりと覚えている。
「……だ、だけど?」
「その……じっくり話をしたいから、一度、連れてきなさいって……」
――サッと、血の気が引くような思いだった――。
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